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アリスの二重奏 ~ 転生し損ねた俺が、女子高生になっていじめ問題を解決してやる!  作者: オカノヒカル
第二章 互恵同盟とトラブルバスター

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■相性 ~ Dormouse & Cheshire Cat



 野良猫のチェシャは、結局かなめが引き取ることになった。


 もともと猫の多頭飼いをしていた家だったので、それほど負担はかからなかったようだ。チェシャもかなめに懐いていたし、かなめもみどりのチャンネル動画を観ていて気になってはいたそうだ。


 猫好き同士で話が合うこともあってか、二人は急速に仲が良くなっていく。それは必然のことであり、有里朱もそれを喜んでいた。


 そして三学期が始まる。


 始業式では風紀担当の教師から、動画投稿サイトで野良猫を虐待した四人組の話が出た。個人名は伏せられていたが、学校には来ていないので何らかの処分が下ったとみるべきであろう。


 さらに校長からは、少し前の痴漢冤罪騒ぎの件と絡めて長い長い説教をされる。もっと普段の行動を省みるようにと、延々と同じ言葉を繰り返しながらくどくどと話をする。


 まあ、校長の話が長いというのは俺の頃とあまりかわらないのだよな、と感慨深く思ったりもした。


 だが、事態はそれだけでは終わらなかった。


「明日からは校内への携帯電話の持ち込みを禁止します」


 高らかに宣言するのは、教頭先生であった。あれ? それ意味わかんないんだけど?


 ざわざわと講堂内が騒ぎ始める。そりゃそうだ。今の話の流れで、なぜ携帯電話が禁止になるのだろうか?


 まさか、映像流出を避けるためか? たしかにウーチューバーの四人組は、機材がないからってスマホで動画撮ってたし、痴漢冤罪の動画をアップしたのは俺のスマホの撮影からだ。


 学校側にとって、スマホがやっかいなのはわかる。だが、持ち込み禁止は意味がない。四人組も痴漢冤罪の件も学校の外で撮影されたものだ。


「静かにしなさい! 親御さんには、緊急時には学校へ直接電話をかけてもらうことにする。そもそも、それ以外で校内に携帯電話を持ち込む必要がないだろ!」


 強い口調で教頭が言い切る。それは正論だが、今回の事件と禁止行為の関連性が見いだせない。もし、なにかを封じるためであるのなら、それはいじめの現場(・・・・・・)の証拠映像であろう。


 神崎に高木たち、それから馬橋たちは俺のスマホでの撮影を知っている。かつてボスであった松戸も事情を知っている人間だ。教師の館山も動画撮影の怖さを理解していた。


 なんらかの事情で、松戸が裏で動いたということが考えられるだろう。彼女の復帰の噂も出ているのだ。


 学校へ来る前に露払いをしておこうという魂胆なのか? この件は、さらなる情報収集と対策の検討が必要である。


 結局、生徒たちの反発は無理矢理抑えつけられて始業式は終了することになった。半数いや、九割ほどの生徒たちは納得していない。その不満はいつ爆発してもおかしくないだろう。そこらへんのリスク管理を学校側は考えているのだろうか?


 まあ、俺は学校側の人間じゃないから、どうでもいいんだけどね。スマホを禁止にしたからといって、いじめに関して泣き寝入りしようなんて考えはなかった。


 むしろ闘志が湧いてくる。



 宅女は始業式が終わると学活ホームルームを経て、すぐに通常授業が始まる。ゆとり教育だった俺には、違和感しか抱かない詰め込み教育の現場であった。


 放課後、俺はかなめとともに一年四組の教室を訪れる。鹿島みどりを迎えに行くためだ。部室の場所も知らないだろうし、初対面であろうナナリーを紹介しなくてはならない。


「鹿島さん!」


 俺は窓際の席でポカンと外を見つめる彼女を呼ぶ。


「ああ、美浜さん、若葉さん。今行くよ」


 カバンを持ち颯爽と立ち上がる姿は絵になる。ロングの黒髪は同性から観ても憧れる要素らしく、教室の端の方にいた二人組の女子が一瞬見とれるような表情になり、それから嬉しそうに二人でキャッキャと話し出す。


 このクラスは百合百合していていいなぁ。ピリピリしたうちのクラスとは大違いである。


「ね、若葉さん。チェシャの様子はどう?」

「大丈夫よ。うちの子たちとも険悪にならずにうまくやってるわ。食欲も出てきたみたいだし、前より体重も増えてきたかも」

「そうかぁ、良かった」


 と、みどりがかなめに引き取られたチェシャの話を振りながら部室へと向かう。


 そして、扉を開け「ごきげんようナナリー」と俺は優雅に挨拶し、鹿島みどりを招き入れたところで彼女が一言。


「このちんちくりんなのが部長?」


 あ……そういえば、基本的にこいつ毒舌系だったな。


「誰?」


 怪訝そうな顔をするナナリー。かなめが焦ったように間に入って取り繕おうとする。


「ななりさん。LINFでも話した鹿島みどりさんだよ。文芸部入部希望の子でね。あ、鹿島さん、こちらが稲毛七璃さんといって――」

「ちんちくりんってどういうことよ?!」


 かなめを押しのけ、ナナリーは半開きの目でみどりを見上げる。めずらしく彼女から沸々と怒りを感じた。


「え? 見たまんまの感想だけど」


 半笑いのみどりの表情が、ナナリーの怒りにさらに油を注ぐ。相性最悪だな、こいつら。


「なによ! 自分だってそんなに背高くないじゃない。それに目つき悪い! 性格歪んでるんじゃないの」


 たしかにみどりの背丈は有里朱とほぼ同じ、いや少し低いくらいか。目つき悪いのは彼女が警戒している証拠。性格は……まあ、ノーコメントということで。


『あわわわ……孝允さん。止めないと』


 有里朱が狼狽えている。相変わらず小心者であった。


「大丈夫だよ。鹿島さんはわりと素直だから、ストレートなもの言いで相手をムカつかせるだけだからね」

『ダメじゃん』

「ナナリーをよく見てみな。いじめられていた時みたいに、怖がっているわけじゃないだろ?」


 ナナリーの表情はある意味輝いている。まるで好敵手ライバルを見つけた物語の主人公のように、相手をどうやって打ち負かそうかと考えているのだろう。


『そうだけど……』

「ほら、かなめもそれに気付いて、二人を見つめる表情が穏やかになってきたぞ」


 かなめの二人を見る目は、まるで子供たちの様子を見つめる母親のようでもあった。


『ほんとだ……』


 そんなみどりは、ナナリーをスルーして部室内の様子を見回す。


「へえー、わりと本格的に部活やってるんだ。おお、本も充実してるじゃん」

「あなたねえ……」


 ナナリーも怒りのやり場を失って、急速に感情が萎んでいくのがわかる。


「あ、これ。あたし読みたかったやつだ。読んでいい?」


 と俺に顔を向けるみどり。抜き出した本は、ナナリーの持ってきたものだ。女子高の百合を描いた群像劇のコミックで、キスと白百合をテーマにしたものだ。全体的に優しさが漂う物語であった。


「それ、七璃の持ってきたやつだよ! あなた結構、センスいいじゃん」

「この作者の短編集読んだことがあってさ、けっこうハマったんだよね」


 あれ? いつの間にか仲良くなってる。


「大丈夫そうね」


 かなめと顔を合わせて、彼女ともに苦笑いをこぼす。二人の事は取り越し苦労だったようだ。


 俺は自分の席について、昨日のうちに持ち込んだ段ボールの中身を取り出す。と、かなめが近寄ってきてその中身を覗く


「あれ? それ何?」

「ん? 新しいPC。ちょっと知り合いに譲ってもらってね」


 本当はKonozamaでパーツを購入して組み立てたものなんだけどね。


「二台も使うの?」

「こっちのノーパソは情報収集用。で、こっちはね」


 段ボールの中から液晶ディスプレイとミニタワー型のPC本体を取り出す。それを好奇な目で見るかなめ。この世代の子たちにとっては、スマホ以外の情報端末ってほとんど見る機会は少ないからなぁ。


「うわ、それパソコン? ななりさんの家にあったのもこの形だよね」

「いわゆるデスクトップタイプのPCだよ」

「何に使うの?」

「動画編集用だよ。こっちは……」


 CPUもメモリもビデオカードもそれなりにいいやつで揃えたものだ。みどりの動画編集を手伝うのだから、スペックは高めでストレスフリーの方がいいだろう。


 ただ、これを説明してもかなめにはちんぷんかんぷんだと思う。うちらの世代ですら女子は機械音痴が多いというのに、パソコン離れが進んでいる今の世代にはパーソナルコンピューターの事など理解不能であろう。


「えっとね。まあ、鹿島さんの仕事を手伝うための専用機と思ってくれればいいよ」

「そっかぁ、鹿島さんウーチューバーだもんね。あっちゃんが手伝うって話してたもんね」


 かなめはうんうん、と察したように納得してくれた。あの“多重人格カミングアウト”以来、彼女はわりと俺の言うことに疑問を持たなくなりつつあった。それは、俺が……有里朱が嘘を吐いていないと確信したからなのだろう。


 とはいえ、本当のところを話していないのが心苦しい。


 ちなみに仮名の『ロリーナ』に関しては、様々な理由から使用をやめてもらった。学校が始まるので人目を気にしてというのもあるが、一番の理由は紛らわしくて面倒だからだ。


 しばらくすると、それまでわりと穏やかだったナナリーとみどりの話し声が一転。


「は? 何言ってんの? この子はネコに決まってるでしょ?」

「女の子らしいからって全部ネコと思ってるの? お子ちゃまね。あんたはスカタチって言葉を知らないの?」


 二人の口論へと変化する。おいおい……意気投合したんじゃねえのかよ!



**



 松戸美園が復帰した。


 相変わらず取り巻きのような子を何人も従えている。とはいえ、前の配下は一人もいない。皆、新たに加わった者だろう。


 しかも、その表情は一様に暗い。まるで奴隷でも連れ回しているようにも思える。


 高木たちや馬橋たちと違って、忠誠心もなければチームプレーもできそうもないメンバーだ。これでは脅威とならないどころか憐れに思えてくる。


 たぶん宮本香織のように脅されて配下となっているだけなのだ。


 さらに松戸個人は、陰で生徒たちに『腐女子』と言われていることに気付いていない。この場合の『腐女子』はBL好きのオタク女子という意味ではなく、文字通り『腐った女子』という意味だ。


 シュールストレミングスの匂いは、まだ強烈に生徒たちの記憶の中に残っている。


 それでも単発で俺……有里朱への嫌がらせは続いていた。文房具が盗まれたり、廊下であからさまに悪口を言われたり、トイレで水をぶっかけられ……そうになったので、逆に脅したら倒れて自らずぶ濡れになったりと「笑ってはいけないいじめ」シリーズは相変わらず続いていた。


 ただ、それほどダメージを負うこともなく一月は過ぎていく。まあ、ちょっとウザいけど、この程度の微ダメージならたいしたことはない。


 レベル99の奴がレベル1の奴から攻撃を受けているようなものだ。俺TUEEEを現実世界で実感できるパターンである。


 まあ、松戸がそれで満足してくれるのなら「放置プレイでもいいかな?」とも思い始めていた。


 放課後の部活は癒やしの空間。まったりと女の子同士で過ごす時間は、何物にも代え難い宝物。


 この聖域さえ壊されなければ、俺はこれ以上松戸たちに積極的に関わりたくなかった。。


 適当にあしらっていればいいだろう。嵐のような自然災害でさえ、過ぎ去るのを待つこともまた、一つの生き残る方法なのである。



 その日、かなめとナナリーは用事があって先に帰ったようで、部室には鹿島みどりと二人きりであった。


「あ、美浜さん。例のこれお願い」


 部室では、みどりからポータブルHDD(ハードディスク)を渡される。彼女が撮った動画データが入っているらしい。三日に一度くらい、こんな感じで仕事を頼まれる。


 あとは、彼女と打ち合わせながら編集を行っていくだけ。一回の編集で万札を一枚ほど。編集時間は三~四時間、エンコードは放置しておくだけなので作業時間から考えれば、わりといいバイトではあった。


 もちろん、税金とか面倒だし母親に報告しなければならないので二十万を超える場合には、金ではなく他のものにして貰うつもりだ。


 例えば精神的なものにして、あとで借りを返して貰うという鬼畜なことも考えていたりなんかして。


「あと、聞いてよぉ。美浜さんに言われたとおり、あたし自身の設定を『宅女の卒業生』ってことにしたんだけどさ。コメに辛辣なものが多くてさ……ハハハ、この年で『ババア』扱いされちったよ」


 カラッと乾いた笑い。少し自嘲気味の鹿島さん。設定についてアドバイスしたのは、四人組ウーチューバーの件が彼女まで波及するのを食い止めるためでもある。


「まあいいじゃん。現役のままで通してたら、下手すれば鹿島さんがウーチューバーだってバレて、学校側から何らかの処分をされるよ」

「そうだけどさ、そのおかげで『現役女子高生と偽っていたウーチューバー』としてプチ炎上気味なんだよ」

「鹿島さんってそういう他人の評価ってあんまり気にしない人じゃなかったっけ?」

「うん。まあ、炎上の件よりチャンネル登録者の減少の方がキツいけどね」


 ナナリーと違って彼女の精神はタフな方である。ウーチューバー四人組相手でも物怖じしない性格だというのは把握していたし、彼女自身も毒舌なこともあって人からの悪意に強い。その分、自分が大事にするものに何かあるのを極端に怖がるのだろう。


「ドンマイ!」


 チャンネル登録者はある意味ファンのようなものだから、それが減っていくのを見るのはつらいだろうね。専門外なので、こればかりはアドバイスできなかった。


「ね、そういえば知ってる?」


 さきほどとはまったく違う話題に変わったのだろう。みどりの口調に帯びていた熱量が大幅に下がる。


「ん? 何?」


 現在俺は動画編集中。モニターから目を離さず、マウスを動かす手を休ませずに返事をする。


「松戸美園の噂」

「噂?」

「上級生に目を付けられたって話」

「ああ、知ってるよ。二年の先輩と対立してるって」


 松戸美園はそれなりの影響力を持っていたが、それは同学年のみの話である。二年や三年には逆にウザいと思われているようだ。


 それでも、親や親類の絶大なる権力のせいで学園で逆らう者はいなかった。せいぜい陰で悪口を言う程度であった。


 それが俺の一連の仕返し騒動シュールストレミングス・ボムの影響でその地位は失墜し、上級生たちも直接的に不満をぶつけるようになってきたのだ。


「あたし何度か見ているんだよね。廊下で言い合いをしている二年生のグループと松戸のグループを」

「まあ、つぶし合ってくれるなら高みの見物でいいんじゃない?」


 借刀殺人。孫武先生も本で書いている。自ら手を下すことなく他者の力を借りて敵を倒せるのなら、これほど効率の良いことはない。


「それがさ、明らかに松戸の方が言い負けしてるのに、日を追う毎に二年生グループの人数が減ってるのよ」


 なるほど、弱みを握って相手の人数を崩していく戦法か。ある意味、正攻法である。正面切って戦うだけが戦争じゃないからな。


「鹿島さんも気をつけて。松戸に仕掛けられる可能性がある。弱みを握られないようにね」


 いちおうみどりにも忠告しておく。考えてみれば松戸が俺……有里朱への復讐をあの程度のことで満足するわけがない。


 やはり、降りかかる火の粉は払わねばならぬ。松戸に対しては舐められてはいけないのだ。やるならば徹底的にこちらの力を示さなければ最悪の展開が待っているだろう。


 事実、脅されて松戸の配下へ加わる者も多いのだから。


 被害者をこれ以上増やさない為にも俺は、対松戸美園への総力戦の準備にかかる。




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