75話 不自然な街
遅れてすみません!
あのとこたちと別れた後、ボクとミーシャは宿屋に一度戻ることにした。今後どうするか、色々考えるべきことはあったけれど、まずは一度ミーシャを休ませなければならないのは事実だ。それに、どうせ考えても憶測だらけの今、何か名案が出るとは思えなかった。
そう思い、歩いて向かっていたわけだけど⋯⋯
(なんでこんなところにいるだ、あの少女⋯⋯)
ボク達の向かい側からぼろ布を縫い合わせて作ったのであろう服を着たミーシャよりもさらに若い⋯⋯おそらく、10あるかないかくらいの少女が歩いてきたのだ。髪はぼさぼさ、服は勿論のこと肌も汚れ黒くなっている。奴隷かと思ったが、首輪がない。
まず断っておくけれど、ここは決してスラムなどではない普通の通りだ。そんな場所でこんな格好をした彼女は場違いなこと、こと上ない。
そしてなぜか、その少女はこちらのことをちらちらっと見ている。
ボクはこんな子に面識などあるわけがないし、恐らくミーシャにもないだろう。と、いうのもこの子はミーシャの方でなくボクのことだけを見ているからだ。もし知り合いならミーシャの方をみるだろう。ステータスも悪食があるくらいでおかしい所はない。
一応気が付いていないふりをしているのだけど⋯⋯もうすぐ、彼女とすれ違いそうだ。
ボクは彼女の手を少し握り彼女とすれ違いかけ⋯⋯
(あぁ、なるほどね)
すれ違った直後、ボクはミーシャを握る手とは反対の手でポケットにのばされた彼女の手を掴んだ。そう、スリだ。
すると彼女の手がビクッとする。そりゃそうだろう、ここで大声を出されれば彼女は牢屋にまっしぐらだ。
しかし⋯⋯
「⋯⋯⋯⋯ぇ?」
ボクは彼女の手をすぐに放す。すると彼女は驚きの、けれどか細い小さな声を漏らす。やはり、衛兵でも呼ばれると思ったのだろう。しかし、ボクの立場からすれば彼女を捕まえる理由など皆無に等しい。彼女を衛兵に突き出したところで報酬が支払われるわけでもないし、ただただ時間を食うだけだ。
治安の面からは良くないのかもしれないけれど、そんなのはここにずっと滞在するつもりなどないボクには殆ど影響などしない。精々、腹いせとか正しいことをしたと自己満足できるくらいだ。そしてどちらも興味などない。
そんなことを数秒の間考え、突然止まったボクを不思議に思ったのかこちらを見上げるミーシャを引き連れ彼女のことを無視して宿に向かい過ぎ去った。
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ボクはミーシャをベッドで無理やり休ませて、ボクは椅子に腰かけた。
水の入ったコップを手に取りながら、一息つく。飲み物を飲んでもこの偽物の体には何の意味もないだろうけど、人間としての数多の記憶からか何となく心が休まったような気がする。自心制御でも似たようなことは可能だが、やはりこういう風に自然な感じで心を落ち着けるのは本当の意味で安らぐことが出来たように感じる。
そして、これからのことについて考える。本来ならこんな妄想など一考の価値もないのだけれど、この世界で、この「ウルル」としての勘は何故かことごとく当たっている。理由は分からないが、これは事実だ。
そして、その勘は今、この街は何かおかしいと訴えている。先程のこともそうだが、この街にはおかしな点が見られる。それは、治安が良すぎるということ。この街以外に行ったことはないけれど、本によれば冒険者ギルドというのは荒くれ者の巣窟であり一般人は依頼以外立ち寄ることはめったにないと書かれていたがここは違う。ギルドは清潔感に溢れ平穏な雰囲気だった。
ギルド以外もそうだ。この街は平穏だが、これは普通のことなのだろうか?
魔物が外を徘徊している世界、そんなところにある街が普通平穏だとは思えない。何か、警備兵がかなりの頻度で巡回しているなどの対策がなされているのであれば分かるがこの街に来てそのようなことを気にしたことはない。つまりそのようなことはない。
ましてやここは国境の街。そんな場所が治安がいいということはあるのだろうか。
もし、この世界というものが、現実というものがボクが思っているよりもずっと優しいとしてもおかしい。
それは、ここに来た時に冒険者らしき男が言っていた言葉「平和な街サーファス」という言葉からも伺える。平和の街ということは何かと比較されているわけだ。そしてそれはきっと周りの街と、ということだろう。
しかし、その理由は見当たらない。
そして、あの男たちの話とは関係はあるのだろうか?あるとすれば、一体どういうことなのか?
そう考えていくうちに、これからするべきことは自ずと決まっていった。
⋯⋯なんか、自分の才能のなさがにじみ出ているような気がする⋯⋯。




