73話 悪と罪
前回は投稿できなくてすみません!まだ、他の小説の方も書けていなくて皆様には迷惑をおかけしますがどうぞよろしくお願いします。
彼女が泣いている。
泣きながらも懇願している。
そんな時に、ボクがすることは唯一つだった。
「捨てたりしないさ。ボクにも、君が必要なんだ」
ボクは意図的に優しめな声で諭すように言う。
「⋯⋯ボクも過去に色々あってね⋯⋯あまり、人のことを信用できなくてね」
それは、召喚されたときのこと。王国の奴らはボク達を悪魔であると殺し、死体も寂しい暗闇の地に捨てられた。共に召喚された者の中には知り合いもいた。けれどそのほとんどが助けてはくれず、中には裏切り共に悪魔と叫び罵る者もいた。
それはあの村にいた時のこと。村人は差別意識だけでボク達を殺そうとした。あの村では昔も、他種族への差別によって悲劇が起こったという。
そして、自分自身。ボクを構成する人間も善人ばかリなどではない。そんな心を、ボクは知っている。立場が変われば罵る召喚された者達と変わらなかっただろう。
構成されたボクも善人とは言えない。今もこうやって彼女を騙している。
沢山、沢山人々の悪い所を見た。知った。そんなボクに、本当の意味で人を信じることは出来そうもない。
「けれど、一人で生きるのは孤独すぎる⋯⋯。こんなことを、君に言うのは何だけれど⋯⋯今のボクには、魔法で縛られた奴隷くらいしか信用、できないんだ」
嘘ではないが真実ではない、そんな空虚な言葉を何度口にしただろう。空虚に空虚を重ねて、一体何が出来るのだろうか。しかし、それでもボクは重ね続ける。それに意味があるように。
もしかしたら、同じく空虚な復讐くらいなら作り上げる事が出来るかもしれないという願望を持ちながら。
「だから⋯⋯ボクとずっと、一緒にいてくれるかい?」
ボクはまた彼女に優しく言う。
これが、小説の主人公なら温かい感動シーンなのだろう。けれど、ボクには全然違う光景が見えていた。
心にも棘がいくつも刺さり、何だか苦しい。
「⋯⋯ありがとう⋯ヒック⋯ござい、ます⋯⋯!」
しかし、彼女には違う景色か見えていた、いや見せた。
そう、これがつり橋効果。心が弱った時、優しさを与えることで恋愛感情を持ちやすくさせる。恋愛感情までは分からないが好感度は確実に上がる。それをボクは殆ど意図的に引き起こした。
あの男たちなど、想定外のことは起こったけれど。
そのことに罪悪感は感じている。けれど、しなければならない。
心を鬼⋯⋯いや、悪魔にしていかなければ復讐を果たし、更にその先のシアワセを得るには必要なのだ。
ボクは心を制御する。目的に邪魔な罪悪感は薄めよう。
ボクの中に残っている人間らしさをすり減らしていくかもしれないけれど、それでも実行する。
「⋯⋯自心制御」
スキル名を唱える必要はなかったけれど、ボクは戒めのために言葉を紡いだ。
勿論、彼女には聞こえない声で。
—————————この時、変わり続けていたボクという存在がまた一つ変わっていったような気がした。
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あの後、更に少し休みボクとミーシャは冒険者ギルドに向かった。依頼の達成はギルドに渡すまでだし、薬草を放っておいたら萎れて使い物にならなくなり買い取ってもらえなくなってしまう。
「あなたは⋯⋯ルル様でしたね。依頼達成の報告ですか?」
別に意図していたわけではないけれど、どうやら登録時と同じ受付嬢だったようだ。だから何だという話だけれど。
「はい⋯⋯これが依頼の薬草です」
ボクは魔道具の方でなくわざわざ用意した袋から薬草を取り出した。すると、受付は薬草を他のギルド員に渡す。
「では、こちらで確認させて頂きます。確認が終了次第お呼びしますのでしばらくお待ちください⋯⋯⋯では、次の方どうぞ」
そう言われてボクは、邪魔にならないようにどいた。
何もしないのは少し退屈だ。けれど、どれくらいかかるのか分からないため何かするのもあれだし⋯⋯ミーシャとでも話そうかな。
「ミーシャ、依頼はどうだった?」
そうボクは話しかける。なんだか、どう接していいのかわからない父親が娘に言うセリフのようになってしまったけれど、実際僕の心境はそんなかんじだ。
今まであまり話さなかった分、何を話せばいいのかよく分からない。
「え?依頼ですか⋯⋯そうですね、やっぱり沢山植物があって探すのが大変でした。あと⋯⋯私、戦闘はまだまだですね⋯⋯。本当に、ご主人様に助けてもらってばかりです」
おぉ⋯⋯ミーシャの態度が柔らかくなってる⋯⋯。自分でやったことだけど、何だか少し嬉しい。
そんなこんなでボク達は呼ばれるまで二人で話していた。




