69話 平穏で、違和感な日常
「えっと⋯⋯ご主人様、ここは何て読むんですか?」
ミーシャが大きめの表紙の本を見せて聞く。
「ん?ここは⋯⋯子犬だね」
「ありがとうございます、ご主人様」
そう言っていそいそとボクから離れ小さなテーブルの方に行く。
新たに、ミーシャの字が読めないという問題が発覚してから本屋に向かい、日本の小学校一年が平仮名を習うのに使うような本を買ってきたのだ。絵や矢印なんかで文字を学ぶことが出来る。ボクが教えればいいのではないか、と普通思うかもしれないがボクが知っているのは日本語で、今この異世界で話せているのはスキル言語理解のおかげだから教えろと言われても良く分からないのだ。
一応、アデルの記憶はあるけどアデル自身はあまり読み書きが上手い方ではないっぽいからね。
それと、ミーシャはどうもこの辺の生まれではないらしく別に苦手というわけではないらしい。この世界ではどこかのファンタジーのように、共通言語で全部通じるということはない。
まぁ、この辺は島国ではないのである程度似た形式の言語が多いようだけど。アメリカの英語とイギリスの英語の差よりは大きいけれどまったく分からないらしい。
となると奴隷時代を経て出来るようになったのか会話は出来るものの簡単な文字も分からないミーシャは大分遠い国の生まれのようだけど⋯⋯今は聞けそうにないしそれはいいか。
「⋯⋯⋯」
ちらりと横の小さな机で静かに落ち着き、けれど必死な⋯⋯矛盾したような様子で文字の勉強をするミーシャ。ボクと一緒の机だとこっちのことばかり気にしていたので用意した机だったけれどまだ小さなミーシャに何だか似合っている。無言ではあるものの、尻尾がそこそこの頻度で動いていてきっと頭の中には色々な言葉が渦巻いているんだろうなぁと思う。
こうしてみると、人間だった頃、まだボクでなかった頃にいた年の離れた幼い妹が勉強していたのを思い出す。この異世界という環境やミーシャが大人びている影響で目というレンズに映る光景は少し異なるけれど、心に映し出された微笑ましさという温かい色は人間でなくなった今でも変わらないように感じる。
ふふっ、それにしてもかわいらしい。
そんな、ボクにはあまり似合わないようなセリフが心の中に響いた。
⋯⋯と、ボクもちゃんと本を読んでおかないと。
ボクはそんな余計なことを考えるのはやめ本を読むことに没頭していくのだった。
--------------------------------------------------------------------------
ミーシャが文字の勉強して、数日。
話し言葉は分かっていて理解しやすいとはいってもそんなすぐに読めるようにはならない。それでも、日本語で言う仮名文字のように音をあらわす文字はある程度覚えることが出来たようだ。
だから、文字を読むことは出来ないにしても書置きなんかで伝えたりすることは出来るようになった。
他には⋯⋯特に何もない。ずっと本を読んだり、ミーシャの質問に答えたりしただけしかしていない。ミーシャの方はさっき言った通りすぐに終わることはないし、ボクの方も覚えなきゃいけないことが沢山あり、あまり余裕はなかった。
読むだけなら、そう大して問題なかったけれど数日でこの世界の住人としておかしくないように覚えるのは昼夜一睡もしなくても時間が掛かるし気配察知も合わさってかなりの集中力や思考を要したのだ。おかげで高速演算のレベルが上がった。記憶するのに何で高速演算が上がるのかは今一よく分からないけれど。
と、そんな生活を続けていた訳だけれど、ずっとこうしているわけにもいかない。
というのも、あまりお金がないのだ。あと一週間くらいなら別に大丈夫だけど余裕がないとね。
ということで、今ボクとミーシャは冒険者ギルドの前にいた。
早速扉を開け、中に入る。ギルドの中は、質素ながら清潔感のある装飾に、冒険者やボク達と同じ旅人が楽しげな雰囲気で笑い合ったり受付の前で綺麗に並んだりしている。冒険者という荒くれ者が多いとは思えないような平穏さで何だか違和感 がある。こう、何と言うか不自然だ。ギルドが平穏という以外に何か⋯⋯。
「えっと⋯⋯ルル様ですね。今回はどんなご用件でしょうか?」
そんな思考は受付嬢の言葉で遮られる。いくら考えても違和感の正体は分からなそうだから素直にボクは思考を一度止める。
「何か依頼を受けたいのですけど⋯⋯初心者にでもできるようなものはありませんか?」
こうして、ボクの初めての旅人としての依頼が始まったのだった。
どうしても日常回だと書くことがなくてグダグダになっちゃうんですよね⋯⋯。こう、和気あいあいとしたかんじにしていけばもう少し自然に書けると思うんですけどこの作品には合わないだろうし⋯⋯。一度、テンプレっぽい小説でも書くべきなのでしょうか⋯⋯(逃げ)。




