68話 時間つぶし
すみません!少し遅れました!
ぬいぐるみを買ってすぐはテンションが高かったミーシャだったけれどそれも宿が見えてきた頃にはそれも落ち着きいつも通りに戻っていた。眼はどことなく、虚無に濡れて無表情な顔には悲しみや恐れのようなものを漂わせている。
けれど、腕に抱きしめられたとても不格好で不気味なぬいぐるみがその見た目とは裏腹に活力や希望をほんの、ほんの少しだけ感じられたような気がした。まぁ、気のせいかもしれないけれど。
「⋯⋯それにしても、どうかしたのミーシャ」
今、ボクは先程買った本を読んで知識をつけているところなのだけれど、その隣でミーシャがこちらをじっと見つめながら立っているのだ。先程も言ったように、不気味なすらいみーを持ち生気のないような顔をしながら立っているので正直幽霊みたいで何だか怖い。幽霊なのは僕なのだけれど。
「⋯⋯いえ、何も。ところで、えっと⋯⋯なにか私にできることはないでしょうか」
⋯⋯あぁ、なるほど。
この世界で奴隷の扱いというのは主に二つ。一つは、ディスクルト王国のように人間の下、人権なき存在として。こちらの場合はプライバシーなんかは勿論、衣食住も保障されず生きる権利さえ剥脱⋯⋯いや、元々与えられていない。酷ければ他の動物より下かもしれない。
もう一つは、この国のように使用人のようなものとして。この場合も、普通の人よりは下だけどそこまでではない。生きる権利は勿論、衣食住も与えられる。⋯⋯まぁ少し聞いたところによると法律なんかの整備がしっかりしていないので『形だけ』になってしまってもいるところもあるらしいけれど。
まぁ、どちらにしても普通の人よりは低いとされているため奴隷の自由時間が多いというのは好ましいとは言えない。ボクはそれくらいどうでもいいけれど、奴隷の主人として体裁があまり良くないわけだ。
奴隷になる理由は多いが借金でっていうのが多いからそんな身の上のくせに働かないなんてずるい⋯⋯妬みなんかもあるのかもしれない。
その為、ミーシャには今までやることとして訓練をするように言っていた。
同年代の友達や一人で遊べるような玩具もない。そしてそもそも酷い扱いを受けていたであろうミーシャには遊ぶ、という選択肢もないのかもしれない。
そんな状況でミーシャにやらせることが出来たのはそのくらいしかなかったのだ。
そして今まではそれで時間をつぶさせることが出来、上手くいっていた。けれど、今までとは違って今は街中。野宿や村の時のような訓練をするわけにはいかない。禁止されてはいないけれど街中で攻撃性の高い魔法を無暗に使用するのはマナー上良くない。
庭なんかがあればいいけれどこの宿にはないし、あっても迷惑だ。
だから普通は多分公共の訓練場や街の外なんかで訓練をするのだろう。
しかし奴隷のミーシャが勝手に外に出たりすることは出来ないし、する実力もない。レベルが高くなったとはいえ、ミーシャはまだ子供だし初心者。そんな子を一人で歩かせるのはまだ抵抗がある。
⋯⋯かなり長くなってしまったけれど要はなにかミーシャにやらせることを探さなければならないということだ。⋯⋯嗚呼、現実は理想通りにはいかない。
「そうだね⋯⋯そう言えばミーシャ。君って何か得意な事とかやりたいこととかないの?」
長い間、考えていて出た答えはミーシャに直接聞くというありふれたものだった。
「得意な事⋯⋯は分からないです。えっと、やりたいことは⋯⋯お薬、ポーションを作ってみたいです」
「⋯⋯え、ポーション?」
何だか予想外の回答で、考えるより先に思わず言葉が出てしまった。元々案さえできていなかったため予想も何もないのだけれど。
「はい。⋯⋯お母さんが、よく作っていたので」
何だか普通にありそうな理由だ。過去のことにはまだ触れないとして、
「ポーションか⋯⋯作ってみる?」
正直、ミーシャの趣味とか関係なしに作ってもらえると有難い。前も話したようにこれこそまさにご都合主義、といったポーション。HPは自然にある程度回復するもののスキルなんかがない限り自然に回復することがないこの世界。ポーションとは不死者のボクと違い生身のミーシャにとっては実に重要だ。
にしても、ポーションが作りたいとは⋯⋯当たり前だけど、ボクはミーシャについてまだまだ全然知らないんだなぁとぬいぐるみの件も含めて思う。
「はいっ!」
若干、明るめの声で返すミーシャ。そんなミーシャを見て、ボクは少しずつ、少しずつだけれど何かが成長していくのを感じたのであった。
「あ⋯⋯でも、作り方の本、読めません⋯⋯」
⋯⋯本当にまだまだのところばかりだけれど。
何だか、行数稼ぎをしたことがよく分かるこの文章⋯⋯日常?回って、難しいですね。




