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67話 ぬいぐるみ(のような物体)

 今、ボク達はぬいぐるみ屋にいる。予想通り値段は少し高めではあるが、別に払えない額ではない。


 思っていたより種類も多く人型のものや動物型の物、中には魔物の人形なんてものもある。その為地球にはあまりなかったようなものもあり普通ならそこに目を引かれるであろう。けれど、実際にボクの目を引いたのはそれとは別のものだった。



 ふりふり。


 ばさばさ。



 今までで最高クラスに揺れる茶色の尻尾。ぴくぴくと動く耳。


 それらは、勿論ミーシャのものだ。別に、女の子がぬいぐるみを見てはしゃぐというのは別に不思議でも何でもないのだけれど、あの怯えっぱなしの悲しみや恐怖などの負の感情を含んだ顔以外ほとんど見せないミーシャがそれをすると全く違う。


 最初はここまでの変わりように思わず唖然としてしまったし、今でも何だかいつもとのギャップに強い違和感を感じていた。


 ミーシャには好きな人形を買うように言っておいた。というか命令した。そうでもしないと奴隷であることで遠慮してしまうから。



 「いいのは見つかったかい?」



 ボクはそんなミーシャに声を掛けて尋ねる。


 「はい!これがいいです!」


 普段の様子を見ていると、あまり感じられないがこういう姿を見ているとやっぱりミーシャは子供なんだなぁと思う。日本の子供と同じ、いろんなものを見たり遊んだり学んだりする年頃の少女なのだ。


 だから、ボクは奴隷制を否定はしないし利用させてもらうがあまりいい気分はしない。



 「ご、ご主人様?えっと、はしゃぎ過ぎ、てしまったのを怒って、いるのですか?」


 おっと、若干負のオーラが出て誤解させてしまったようだ。怯え、ミーシャの目からは涙が今にも溢れそうになっている。このままじゃまずい。


 制御、制御っと。


「いや、ちょっと昔のことを思い出してしまっただけだよ。⋯⋯それより、そのぬいぐるみは?」



 彼女が持っていたのは、青に毒々しい色が所々入った丸いボディーにぬいぐるみにしては実にリアルな少し充血した目が一つ入ったものだ。


 全体的にどこかアンバランスでおどろおどろしいものだ。見るからに、大きさやふわふわしているだろう感触は抱き枕に良さそうではあるけど⋯⋯。


 「?スライムのすらいみーです」


 ミーシャは首をこくりと可愛らしく横に傾けてそう返す。というか、名前まで付けたのか。



 「⋯⋯その、何でそれにしようと思ったの?」


 はっきり言ってグロテスクで気持ち悪い。


 「この目が可愛らしいからです!」


 珍しく自信満々に答えるミーシャ。⋯⋯というか、本当にミーシャなのか?と現実逃避してしまいそうになる。しかし、ステータスを見ても名前はミーシャ。そのほかにも不審な点はない。人には一つはおかしいところがあると誰かが言っていたような気がするがそういうことなのだろうか。


 とはいえ、ミーシャがこれがいいと決めたものだ。それを蔑ろにするのは良くない。


「⋯⋯そうだね。じゃあ買いに行こうか」


 ボクはそのすらいみーをレジへと持っていく。すると、やはりというべきかレジにいた人もボクが手に持つこれと笑顔のミーシャを見てかなり驚いた様子でしばらくの間呆然としていた。


「⋯⋯お嬢ちゃん、本当にこれでいいの?これ、夫が作った失ぱ⋯⋯独創的でみんな買おうとしな⋯⋯遠慮しちゃうんだけど」


 どうやら、この店は夫婦と雇われた従業員で営業しているものらしい。他の人形を見るからに恐らくすらいみー以外はこの奥さんが作ったもので、すらいみーはこの人の夫が作ったのだろう。


 店内であるし、そこまで怪しかったりする気配だったので気に留めていなかったけれどレジのカウンターの奥の扉からこのひとの夫らしき人物が顔をのぞかせているのが見える。


 「はい!これがいいです!」


 しかし、ミーシャは目をキラキラして奥さんとすらいみーを見つめている。


 ⋯⋯こんなに活き活きとしたミーシャを見れて嬉しいはずなのに何だか素直に喜べない。なぜだろう。


「⋯⋯そ、そうよね。うん。好きなものは人それぞれ⋯⋯十人十色だもの」


 何だか微妙な雰囲気になるボクと奥さん。そしてそれを何とも思っていないような⋯⋯いや、気が付いていないだろうミーシャと夫らしき人物。目しか見えないがその目に映るものが何となく喜びであることが分かった。


 奥さんもボクが何とも言えない気持ちであることに気が付いた様子でこちらに苦笑いとも微笑みとも言えない笑みを返してきた。



 「⋯⋯じゃあ、これ買います」


 ボクはそれに若干硬い笑顔で返す。


 「はい。値段は450ブルです。⋯⋯ありがとうございました」


 普通ならその言葉は店を経営する上での社交辞令であろう。けれどボクは少し違ったニュアンスも含まれているのだろうと、ミーシャと手をつなぎ帰る途中で、カウンターの奥のドアを見つめながら感じたのであった。

 今回はこの小説では恐らく初めてのほんわかとした?話。あまりにも殺伐したようなものが多かったので、書いていて何だか新鮮に思えました。


 それにしても、ミーシャは可愛いなぁ!(自キャラ馬鹿&このセリフ、どこかで見覚えが⋯⋯?)

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