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62話 死人に口なし、生者に耳なし

 今回はかなり長めです。

 


 村へ向かって歩いていると、村の入り口辺りに人影が見えた。


 一応少し警戒しながら近づいたけど、そこにいたのはやはりタル―シャさんだった。



 足を怪我しているので入り口まで歩くのも大変だっただろうに⋯⋯とはいえ、今のタル―シャさんにとってはどうでもいいことなのかもしれない。



 「⋯⋯」



 タル―シャさんは唯々ぼんやりと村の方を見ていた。


 そう、呆然とではなくぼんやりと。



 「タル―シャさん?大丈夫ですか?」



 大丈夫なわけないけれど、一応聞く。




 「⋯⋯」



 反応がない。



 これで目を開けていなかったら死んでるんじゃないかと疑ってしまいそうだ。まだ(・・)目に光は残っている。


 比喩で言うなら光はないけど。



 「タル―シャさん!」


 

 ミーシャも声を掛ける。


 ボクの時は話しかけようとしての言葉だったけれどミーシャのは気づいてもらうための声なので大きかった。



 「⋯⋯!?あぁ、無事だったのかい!」



 「はい、どうにか退けさせることが出来ました」


 本当は倒したけど。


 「⋯⋯それは良かった。怪我は⋯⋯なさそうだね。ポーションで治したのか。本当に⋯⋯良かった」


 彼女には、真実を告げても良かったかもしれない。だって⋯⋯ね。




 「タル―シャさんは大丈夫ですか?」



 「⋯⋯あぁ、少なくともこうして話していられるからね。大丈夫だよ」


 そういう問題じゃないんだけど。



 「⋯⋯良かったです」


 ミーシャはそれを聞いて安心したようだ。それにしても、最近ミーシャがよく話すようになったね。


「それにしても、どうして戻ってきたんかい?この村にはもう、何もないだろうに⋯⋯」


 村の方を見てそうつぶやく。


「いえ、さっき荷物を埋めておいたので掘り出そうかと」



 掘り出すのは手間がかかりそうだ。



「あぁ、そういえばここには物を調達するために来たんだったねぇ。⋯⋯なら、あたしの家に金庫があるからその中の鞄を使いな。掘るのには役に立たないけど、その鞄には空間拡張の魔法が掛かっているさね。きっと、役に立つはずさ。あの熊を追っ払ってくれたお礼にあんたにやるよ」



 空間拡張!?


 それは、よくファンタジーで出てくるアイテムボックスとほぼ同じ奴じゃないか!まぁ、「拡張」とつくくらいだから無限ではなさそうだろうけど。


 それでも⋯⋯



 「その、それってかなり高価なものじゃないんですか?」


 無限でなくても、高価なのは変わらないだろう。ミーシャにこの世界についてそれとなく聞いたとき少し聞いたけど魔道具というのは本来そこそこ高価なものらしいのだ。勿論、魔道具によっても値段はだいぶ違うと思うけど空間拡張のついた魔道具が安い方の訳はないだろう。


 そもそも、そんなものを渡すといういぜんに、そんなものを所持しているというのがおかしいけど⋯⋯。


 まぁ結界の魔道具などを大量に所持している時点でタル―シャさんは普通の村人でないのはわかりきったことだから今更と言えば今更なんだけど。



 「あぁ、もうそれはあたしには必要ない・・・・ものだからねぇ。持っていても宝の持ち腐れさ。そんなことより、早く取りに行きな!今はいいけどまたあの熊が来るかもしれないしね!」


 「はい、では行ってきます」



 ボクはそう言ってミーシャを連れてまず金庫の方に行った。そして、タル―シャさんに言われたとおりにダイヤルを回して開ける。中に入っていたのは小さめのリュックとポーチがセットになったものだった。取り外しも出来るらしい。


 「これは⋯⋯」



 どうやら、リュックもポーチも空間拡張が使用されているらしい。高価なものなので少し心配だけれどポーチはミーシャに持たせた方がいいかもしれない。



 じゃあ、今度は埋めた方に行くとするか。



 「ご主人様?掘るだけなら奴隷である私だけでも出来ますが⋯⋯」


 ミーシャが少し控えめに聞いてくる。



 「⋯⋯そうだね。魔物の警戒もしなくちゃいけないし、頼もうかな」


 別に一緒に掘って好感度を上げるのも良かったけれど魔物の警戒は必要だし、主従の関係を明確にしておくというのも大切だしね。


 ボクが欲しいのは恋人トモダチではなくて信者⋯⋯いや、奴隷ドウグだからね。



 そうしてしばらくミーシャが掘っている中周りを見張っていたけど特に何も近寄ってこなかった。さっきの激しい戦いで魔物は逃げたのかもしれない。




 「⋯⋯終わりました。ご主人様」

 

 あ、終わったようだ。


 「じゃあ、行こうか」


 まだミーシャは疲れていないようだし。




-----------------------------------------------------------------------------



「それじゃあ、行きます」


 あの後ボク達は一度タル―シャさんのところに戻り、遅めの昼食をとった。状況が状況で全く楽しめなかったけど。



「⋯⋯そうかい。なら一つ頼まれてくれないかい?」



 ⋯⋯頼み?



「どういうものですか?」



 内容によって受けるか変わるけど。



「⋯⋯この腕輪を、アラーナに渡してほしいんだ」



 この腕輪は⋯⋯!?



「⋯⋯この腕輪は?」


 知っているけど、聞く。


 この武骨な木の腕輪をは知っていたけれど聞く。


「これは、アデルがブライアンとアラーナに結婚祝いとして用意していたものなのさ。あの頃二人はもうすぐ、結婚しようかと言っていてねぇその為に準備していたものなのさ。けれど、あの事件があって結局渡せなかったらしいのさ。アデルが生きていれば、いつか彼女と会って和解して欲しかったんだけど⋯⋯ね。そんなわけで彼女にこれを届けてほしいのさ。もう片方はあたしがブライアンの墓の中に入れておいたとも伝えてほしい⋯⋯お願い出来るかね?」


 「会えるかどうかも分かりませんよ?ボクは彼女の顔を知りませんし」


 半分嘘だ。ボクが知らなくても彼は知っている。



 「あぁ、出来るだけでいいのさね。このままあたしが持っていても、どうしようもないからね」


 「⋯⋯分かりました。もし会ったら渡しましょう。それでは、さようなら」


 ボクは何故かこの場にとどまることが出来なかった。逃げ、なのかもしれない。



 「⋯⋯ねぇ」


 タル―シャさんがボクに声を掛けた。

 

 ボクは立ち止まる。



 「アデルは、天国でブライアンに会えたのかね⋯⋯?アデルは、守り切れなかったあたしが幸せになることを願っているのかねぇ⋯⋯?」


 「⋯⋯⋯⋯⋯⋯きっと、天国からブライアンさんと一緒にあなたの幸せを願っていますよ」



 ボクは心を落ち着けて答えた。彼の怨嗟に満ちあふれた姿など、頭からかき消して。




------------------------------------------------------------------------------



 タル―シャさんと分かれて数時間、ボクとミーシャは何事もなく⋯⋯今までのことなんてなかったかのように次の町に向かって歩いていた。


 「また、会えるでしょうか⋯⋯タル―シャさん」


 彼女はそう呟く。


 思っていることを口に出してくれるのは嬉しかったけれどこの時ばかりは素直に喜べなかった。


生きていれば・・・・・・いつかは会えるさ。生きていれば⋯⋯」


 彼女のそれは独り言なのかもしれないけど、ボクはそれに対して答えた。それも殆ど独り言だったけれど。


 


--------------------------------------------------------------------------------


 

 彼らが村を去った後、村は静寂に包まれていた。村は破壊され、人は死ぬか行方知れず。残っているものなんてほとんどなかった。


 そして残っているものと言えば進まない時間の中で木に取り付けられた大きな振り子・・・・・・がゆらりゆらり、ギシギシと何かを刻んでいる様子だけであった。



 



 *この後書きにはこれまでのネタバレが若干含まれているのでご注意ください。



 



 これで、恐らく三章は終了です。まぁ、閑話や別視点、人物紹介なんかは書くかもしれませんが⋯⋯。


 この62話は色々と比喩や何かを匂わせるような言葉を沢山使って書かせて頂きました。初心者なので、上手く書けているかは分かりませんがそこは今後に期待ということで⋯⋯。(そのせいでこの話を書き終えた頃にはストックが大分減ってしまったという⋯⋯)


 ただ、少し最後の方が分かりにくかったかもしれないなぁと少し思っています。これでも、かなり分かりやすくと書いたので大丈夫だと思いますが⋯⋯こういうのは経験がなくてどの程度がいいのか全然分かりません。


 全く分からない、ということでしたら感想やコメントにでも書いて下さると嬉しいです。それを見て、検討しようかと思います。逆に「露骨すぎる!」とかいうのでも構いません。(内容がネタバレで、且つまだ読んでいない人を不快にさせる場合はネタバレ注意と書くなどの方法で読んで下さる皆様が楽しめるようにしていただけると有難いです)



 ⋯⋯と、それはともかくとしてこの章はどうだったでしょうか?


 初めて人との関わりが多かったこの章。前の章でもミーシャや盗賊が出てきましたがあれとはまた違った感じになったと思います。個人的に読ませて頂いている限りでは、最近の小説ではどちらかというとご都合主義なんかでいい人に出会ったり奇跡が起こったりしてハッピーエンドってことが多いように思います。この章でもそういう「テンプレ」や「ご都合主義」というものがありますが、結末は少し違うものにさせていただきました。完全なバッドエンドとまでは言い切れないもののみんな幸せなんてことにはならない⋯⋯そんなかんじです。物語を面白くするためにもご都合主義は必要なものなのですが何でもかんでも思っていたように収まるのもつまらない⋯⋯そんな気持ちで書かせて頂きました。


 現実は、もっと厳しいものですしね。そこに私なりの考えなんかも入れてこの作品は完成しました。


 この章を書き始めた頃は、こんな話にしようとしっかり決めていたわけではなく辛うじてタル―シャさん、アデル、ブラッドベアくらいしか考えていませんでしたしアデル以外はこの騒動の後どうなるのかはしっかり決められてなどいませんでした。(アデル=死は確定でした⋯⋯)


 そこから、この章でこの後必要になりそうな能力などを加えつつストーリー考えていたというわけです。(アデル君の死因の一つは魂統合を出したかったからという⋯⋯いや、それだけってわけじゃないですけど。ただあくまで一因というだけです)


 なんだか、本当はしゃべっちゃいけないことも書いている気がしますが⋯⋯そこはご了承ください。



 そんな訳でこの小説を書いていた時の裏話?の一部でした。もしかしたらまた追加するかもしれませんが長くなったので取り敢えずこの辺で。



 これからもブックマーク、感想、コメント、評価お待ちしております!!

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