60話 分身と炎
⋯⋯ふぅ。何とかなったようだ。
ボクの目の前にはバーサーク・ブラッドベアの死体が転がっている。
なかなかの強敵だった。
戦っている時は命を覚悟したものだ。魔力で纏った攻撃でHPが0になった場合死ぬのかどうかは分からないけれど。
あの時、ボクは盾を求めた。相手は瀕死、これさえ耐えれば何とかなると。けれどMPが足りない。なら、どうすればいいか。
―――別の盾を用意すればいい。まぁ当たり前だけれど。
そこでボクは先程まで実験していたことを思い出した。
ボクは片腕を切り離され擬人化を解除したときに、切り離された腕の方を見た。
すると、切り離された腕は切り離されたときのままだったのだ。そして、それを見て思ったのだ。
これ、動かせるんじゃないか?と。
ボクの体は気体みたいに形を持たない。なら、二つに分かれてもボクの体として動かせるんじゃないかと思ったのだ。
結果としては動かせたのだが、思った通りに動かせなかったのだ。体が二つに分裂してその二つ同時に動かすなんて経験がなかったし。
そうして戦いに影響しない程度にしっかり動かせないかと試していたのだ。
そしてあの最後の一撃が迫っている時、たまたまあの腕の⋯⋯色々試していて本体と同じ霧状になったものがすぐ近くにあったのだ。そして、魔防の高いボクの一部である霧は盾にはうってつけではないかと。
ただ、あの一瞬で目の前に動かすほど一部⋯⋯分身の操作は出来なかった。
そこでボクはあの盗賊の頭と戦い、死にそう?になった時に【復讐者】でスキルを習得できたことを思い出したのだ。
今回ではっきりとしたが、絶体絶命の状況で感情が高まると発動しやすいようなのだ。
それ以外でも発動したことがあることから、絶対そうでなければいけないというわけではないようだし他にも条件があるかもしれないけど。
とにかく、固有スキルで分身を操るスキル⋯⋯分身操作を習得したのだ。
そこからは簡単。分身を自分の前に動かし魔力を纏わせて、防御したのだ。
そして、お互いの纏わせた魔力により両者が反発しせめぎ合っている間にボクは攻撃が当たらないように避けたのだ。
ただ、分身とはいえボクの一部なのでダメージは負っていた。けれど、あの攻撃を受けたにしては魔力を纏っていたとはいえダメージが小さすぎたのでもしかしたら分身に使った体?HP?分しかダメージを負わないとかあるのかもしれない。
事実、あの分身は攻撃を受けてなくなってしまった。
他にも、考察しようと思うことは沢山あるけれど今は他にやることもあるしまた今度にしておこう。
まずは、ミーシャの回収だ。
-----------------------------------------------------------------------
体の一部が欠けたものの擬人化しても特に問題はなかったようで腕が欠けているなんてことはなかったので、ボクはミーシャを置いた森の方に行った。
「あ、ご主人様!」
こちらは特に問題はなかったようだ。特に傷も見られない。
「ご主人様⋯⋯その、大丈夫ですか?」
まぁ、心配されるとしたらこちらの方か。事実、かなり激しい戦いではあったし、HP0で死なら本当にギリギリの戦いであった。
人間だったら片腕なくなってたし。
「うん、大丈夫。どこにも傷なんてないだろう?」
そう言ってボクは上着を脱ぎその場で回って傷がないことを示す。
「ちゃんとポーション使ったしね」
ポーションはファンタジーによくある奴で飲んだり患部にかけたりすると傷や病気が治るという正にご都合主義という代物だ。
しかも即効性があるものもあるのでこういう時の言い訳にはぴったりだ。
「⋯⋯!」
何だか、顔を赤くしたり青くしたりしている。
⋯⋯あぁ、服か。
青くする理由は分からないけど、手で目を隠したから恥ずかしいとかそんなんだろう。
恥ずかしがる余裕が出来たようで何よりだ。
とはいえ、このまま反応を楽しむのもあれなので服を着る。
「じゃあ、ちょっと村に戻ろうか。荷物をもっていかないと」
一人では運べる量には限りがあるし仮にも主人であるボクが一人でするっていうのもおかしいしね。
”⋯⋯ア゛⋯⋯ァ゛⋯⋯ィ”
ん?
”⋯ウ゛ギェ⋯⋯ァイ゛⋯⋯”
「⋯⋯なんか聞こえない?」
どこからか変な音がする。なんか唸り声というか呻き声というか⋯⋯。
「?いえ、何も聞こえません」
”グァ⋯ギュィェ⋯⋯ァ゛⋯⋯オ゛⋯⋯!”
⋯⋯いや、やっぱり聞こえる。
けれどすぐ隣のミーシャには聞こえないようだ。
ミーシャは獣人だからボクよりも耳がいいので、ボクだけにしか聞こえないなんてことは普通ないんだけど⋯⋯。
そう考えてみると⋯⋯目の前に赤黒い炎が揺ら揺らと浮かんでいるのが見えた。




