56話 森の大将vs復讐の殺戮者
ボクは取り敢えず死んでいくアデルを眺めながら気絶したタル―シャさんを安全な場所へ移す。
ボクの能力を知られるのはまずいという理由からの処置だ。
そしてボクは熊のところに戻ってくる。
”グルルルルルルゥゥァァァァ!!”
熊は、ボクを威嚇してくる。どうやら、先程の攻撃を受けて多少は警戒しているらしい。ただ、それ以上に自分が攻撃を受けたことが気に食わなかったのかそれ以上に冷静さを失っており警戒はあまり意味がなさそうだ。
熊⋯⋯なんかこの呼び名だと地球の熊と紛らわしいしちょっと違うけどブラッドベアでいいか。
ブラッドベアはこちらに向かって爪を使ってこちらを切り裂こうとする。
それをボクは避ける。達人のようにギリギリで避けるなんてことは出来ないから余裕をもってだ。本当は魔力感知で調べたところ魔攻纏は使われていなかったようだったので別に、そこまで避ける必要はダメージ的にはなかったけれど。
ブラドベアは爪を大きく振り上げて攻撃していたのでかなりの隙が出来ている。そこに魔法で攻撃する。今回は別に速度の速い魔法を使う必要性はない。なので多少遅くとも高火力の怨呪魔法を使う。
「愚者之呪縛」
呪縛という名前ではあるがこの魔法、かなり攻撃力も高い。代わりになかなか当てるのが難しい上に拘束力の方は弱くはないが強くもないという欠点もある。特に、これくらい強い相手にはそう大して長くはもたないだろう。
しかし、次の攻撃を当てるのには問題ない。足も少なくとも骨折はしているのだろう。それでもまさ完全に機動力が失われたわけじゃないのは流石というべきだが、それでも落ちたことには変わらない。
ボクは、その時間を使ってブラッドベアに近づき眼に剣を突き刺した。今は、ダメージを与えるよりも相手の機動力などを削ぎこれからの戦闘を有利に進めることのできるようにするべきという判断からだ。
”グラァァァァ⁉”
ブラッドベアも流石に痛みにより悲鳴を上げる。もう片方の眼も刺したいが、剣をもう一度刺す時間はない。魔法でも出来るかどうかは怪しいんので危険を犯すのはやめ一旦引く。
今のところ、ブラッドベアは強者としてはあっけない。きっと、今までその力だけで敵を倒していたのだろう。この辺に力の差を知略で埋めることのできる生物はいない。
ブラッドベアはこちらを片方の眼の中に憎悪や憤怒の炎が宿っている。それに、激しいオーラというべきものが出てきた。
これは⋯⋯ステータス。
名前
種族 狂血熊
LV 38
HP346/621
MP285/287
物攻142(+100)
物防49
魔攻32(+50)
魔防29
速69
物攻が100も上昇し普通ならかなり厄介だが霊であるボクにはそれほど関係ない。問題は魔攻も上がったことだ。まだ受けていないが魔攻の関係する魔攻纏は今考えられる中で唯一ボクがダメージを負いそうなものだ。
そう考え、体勢を立て直したブラッドベアはボクに今度は噛みつこうとする。ボクは避け、足に”衝撃”を使う。久しぶりに使ったがこれは、転ばせるのにはいいスキルだ。単純だから発動速度も速い。しかし、完全に成功したとはいえなかった。若干、体勢を崩しかけただけだ。
ボクはすかさず剣で攻撃したがブラッドベアの爪で弾かれる。やはり、剣術もまだまだだ。今のは適切な剣の振り方ではなかったかもしれない。
そしてそのまま、物攻の上がったブラッドベアの攻撃は剣を弾くだけではなくそのままボクの肩に直撃する。そして、とうとうボクの片腕が本体から離れ地面に転がる。ボクは念の為急いで一度後ろに下がりステータス確認するがやはりダメージはない。
しかし、片手では剣を十分に振れない。ボクはもう一度周りに人がいないことを確認し、擬人化を解く。
人型もいいがこの方が変幻自在に動けるのでいい。まぁそれを生かせているとは言えないけど。
そして、まぁいいかと思いまた戦い始めようと思ったが⋯⋯。ボクはあることに気づいた。ボクはそれを見て、戦闘中ではあったが、あることを実験してみることにした。
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ブラッドベア、いや狂血熊は怒り狂っていた。それはここ数年なかったことであり、あの時以来初めてのことだった。
彼はここ近辺の強者でありそれは圧倒的なものであった。だから彼には敵はおらず、全ては自らが食べる餌であり弱者。自分が最上位の者であることを信じて疑わず、逆らうものは全て殺しつくしていった。
しかし、ある時それはあった。彼は魔物だったので時間などわからないが昔のこと、大量の餌を殺していた時だ。
その餌のうちの二匹が自分の目の前に無礼にも立ちふさがったのだ。それまで、見えない何かに邪魔されて苛立ちを覚えていた彼は迷わず二人に襲い掛かった。
しかし、思いの外二人は強かったのだ。彼の攻撃力は当時も他とは比べ物にならないほどのものだったがそれを二人は連携して避けていく。苛立ちはますます高まった。
しかし、相手は弱者。彼は二人のうち一人を殺すことに成功したのだ。そうすることで若干、苛立ちが収まった。そして、その時彼は油断した。
二人のうちのもう片方が、自分の眼に魔法で攻撃したのだ。彼の防御力はそれほど弱いものではなかったが、急所は別だ。眼は痛みと共に光を失った。彼の心には激情が再燃したが、眼を失うという初めてのことへの恐怖が勝り彼は逃亡したのだ。
その後、彼はその激情を宿し周りにいるものを殺し続け、強くなった。
そして今、彼はまたこの場所にやってきたのだ。
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