54話 黒き血のショー
「じゃあいくよ!!」
混乱する人々をよそにタル―シャさんは呼びかける。爆弾を爆発させる合図だ。
ここからいうとおよそ反対側の位置の爆弾を爆破させるようだ。反対側には何故か村人がいるが、これはある意味自業自得というようなかんじだろう。正しい状況判断が出来なかっただけだ。
そしてここでのそれは死、そのものだ。
”ドカンッッ!!!”
爆弾としては小さいかもしれないがそれでも大きな音が反対からここまで響く。
「グルルルルルゥゥゥォォォォォォ!!」
同時にブラッドベアの咆哮が響き二つの音が重い二重奏を奏でる。
それは、災いの演奏。ここにいる誰もが災い、いや死を連想させる。音は一瞬だったが、それは演奏が終わったというわけではない。
これは、前奏でしかなかったのだ。
更に悲鳴という名の音色が加わり、不協和音を奏で始める。次は戦闘の楽章だろうか。
まだこの曲のエンディングがどうなるかは誰にも、分からない。
-----------------------------------------------------------------------------
”パリ――ン!!”
ブラッドベア、それは今村に侵入した。結界は簡単に破壊された。侵入したのは反対側なのでブラッドベアの姿は確認出来ないけれど遠くにオーラというか威圧というか⋯⋯とにかく存在感がある。しかし、なぜか恐怖はない。
しかし、油断はいけない。そして緊張しすぎてもいけない。どちらも失敗のもとだ。
ボクは自心制御を使う。緊張も油断もないと自分は思っているが自分ではわかってはいないだけかもしれない。
特に何か変わったかんじはしない。けれど念の為発動させたままにしておく。
そしてボクは久しぶりに外に出た。中よりも音ははっきり聞こえてくる。現在は村のはずれにいる。
何故、走ってこないのかといえば簡単だ。
村の人達が肉壁?餌?になっているからだ。というのも村人達の多くはよく考えずにまとまって逃げたらしい。タル―シャさんの忠言は彼らには最期まで届かなかったらしい。
そして、当然のことながらブラッドベアは沢山の獲物がいる方向に走っていき⋯⋯彼らを捕食したのだろう。
こちらに風と共に流れた来た生臭い血の匂いがそれを物語っている。
ボクは取り敢えずミーシャを外に連れ出し、森のに連れていった。出来ればタル―シャさんもミーシャを守ってもらうために連れていきたかったけど、アデルがいないので探すと言ってきかないので仕方なく今までのお詫びということで結界の魔道具を貰っておいた。そして、ミーシャに渡しておいた。この結界は短時間、しかも人間一人分しか入らないが、強力な結界を張れるらしい。
そしてボクは一人で村へと戻る。ミーシャはブラッドベアさえいなければこの辺の敵から逃げるくらいは出来る。ミーシャも初めて会った時よりも魔物を倒したぶんレベルが上がり強くなったのだ。何故かまだレベルが低かったころのボクよりも伸びが悪いけどレベル11となった。ステータスも大体が20台後半~30台後半となり、逃げるのに必要な速さは41になっている。
これは、ゴブリンの四倍、この辺にはそれほど多くはいないがウルフより少し早い。そう聞くと、ウルフは群れに会ったら困るともうかもしれないけど木に登れば追って来ることはない。地上に餌が十分あるので別にわざわざ登ろうとはしないのだ。そして木の上には稀に小型で弱い鳥系の魔物がいるくらいなのでそちらも安心。
しばらくすると半壊した村が見えてきた。村長の家側はまだ大丈夫だけれどこのままいけば全壊も時間の問題だ。
ここに来るまでもだけれどいたるところにブラッドベアの食事の残骸であろう骨や血、肉の欠片がいたるところに散らばっている。血が地面に染み込み赤というよりは黒くなっている。
そしてブラッドベアも見えてきた。体表は黒がメインでそこに赤い模様がある⋯⋯というかんじだろうか。いたるところに返り血が付いていて今一よく分からない。
まぁそんなのは別にいいか。
まずはステータスの確認から。
名前
種族 狂血熊
LV 38
HP621/621
MP287/287
物攻142
物防49
魔攻32
魔防29
速69
固有スキル
狂血戦士
スキル
HP自動回復3
咆哮4
剛腕5
威圧4
大食
魔攻纏2
称号
狂獣
森の主
格上殺し
⋯⋯強いねぇ。うん。自心制御がなかったら恐怖に震えるかもしれない。
というか、ブラッドベアじゃないよね?これ。そういえば魔物は進化するってミーシャも言ってた気がする。
ってことはブラッドベアよりも強いのか。
ボクは気づかれていないうちに急いで詳細を確認する。
大体のスキルは名前で分かるからそれ以外のスキルだ。
狂血戦士⋯正気を失うかわりに攻撃力を上げる狂戦士の変異スキル。血を浴びると攻撃力がさらに上がる。
うわぁ、何なんだよこのスキル。滅茶苦茶厄介じゃん。今のままでも物攻142とかいう化物なのにこれ以上上がるとかあったら死とかそういうレベルじゃないか。そりゃあこんな大惨事にもなるわけだ。
けれど、ボクには物攻がどうとかは正直あまり関係ない。ボクに物理攻撃は無意味だからね。
だから、問題があるとしたらこのスキル。
魔攻纏⋯魔力を纏うことで通常の攻撃でも魔法攻撃を行うことが出来る。その際、物攻も多少攻撃力に加算される。
⋯⋯やっぱり厄介なスキルだ。魔力を纏うとふつうの攻撃でも魔法攻撃が出来るなんて初めて知ったよ。でも、よく考えてみると最近使っていなかった異世界ものの小説なんかの知識によるとそういうのって割とよく見るよね。
⋯⋯これからはこの世界の情報が入ったからといって当てにしすぎずにそっちの情報も試していこう。
っと、それは今は関係ないか。とにかく、魔法攻撃はボクにも普通にきくので厄介だ。もしボクが死ぬとしたらこの攻撃にあたった時だろう。
死ぬつもりなんてないけど。




