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53話 人間は効率が悪い

 臨時の結界はある。けれど強力な分どうやら短時間しか発動しないらしい。


 ⋯⋯そもそもなんでこんな村にいるタル―シャさんがこんなに魔道具を持っているのか気になるけど。


 それはともかく、避難訓練なんかでは一分一秒が生死の分かれ目になるというのでこの結界も意味がありそうに見える。けれど⋯⋯


 「今は結界がありますけど、これからどういう方向で動くんですか?」


  これからどうすればいいのか分からない。もし仮にブラッドベアから逃げられたとして外にいるのはブラッドベアだけではない。ブラッドベアよりは弱いだろうがゴブリンやたまにウルフなんかもいる。村人には、それらから逃げることは出来ないだろう。出来ても、きっと運のよかった数人。


 いや、まぁ別にボクは死んでもらっても構わないけど。


 ただ、ボクもこの村から荷物を持ち出せるか分からない。他の村に行ってもいいけどここの村、単純な奴ばっかだから悪意さえ耐えればそんなに問題はないし⋯⋯。いや、この事態が問題なのだろうけど。


 何故だか、分からないけどボクはこんな事態の中であまり焦っていない。油断ではない。後悔しないように今後どうしようかと考えている。けれど、何故かボクに不安はあまりない。


 まぁいいや⋯⋯それはあとで考えよう。何だか気持ち悪い感覚だけど別に悪影響という悪影響はない。


 やはり、まず第一にブラッドベアとやらがどんな魔物でどのくらい強いかを見るのがいいだろう。戦うにしろ逃げるにしろ情報は多い方がいい。幸い、鑑定というスキルもあることだし。


 「⋯⋯あまり確実ではないけどブラッドベアの注意を引いてその間に逃げるか隠れるかが一番可能性があるかね」


 やっぱりそうだよね。さっきも言った通り村人たちに外にでて生きていける可能性は低いけどブラッドベアに立ち向かえば村人たちは敵わない。だから少しでも可能性のある逃げを選択する方法。


 そしてもう一つの隠れてやり逃すという方法。一見逃げるよりも成功率は高そうに見える。けれどそんなことはない。まず、ブラッドベアは熊系の魔物の中でも凶暴なことで知られている。存在に気づかれれば確実に殺そうとしてくるだろう。しかも、これはブラッドベアに限ったものではないけれど熊と言うのは嗅覚が鋭い。この世界では分からないけど確か地球の熊は犬よりも嗅覚が鋭かった。


 だから、隠れてやり過ごすというのはあまり現実的ではない。


 結局、その後というほど後ではないが少し考えた後、どうやらタル―シャさんは逃げることを決断したようだ。


 熊は走るのも速いが分断して逃げれば可能性はある。


 そう言ってタル―シャさんは外に出ていく。ボクはそれを窓から見つめる。


 「⋯⋯大丈夫、でしょうか」


 先程まで話さなかったミーシャがふとボクに話しかけてきた。非常時ながらミーシャが主人であるボクへの恐れが無くなってきていることを感じる。以前なら話しかけない限り話そうともしなかった。信用・・のためにもいつか崇拝や盲信になって欲しいものだ。


 それはともかく、


 「大丈夫、大丈夫。もし何かあってもボクが何とかするよ」


 そんな根拠のない胡散臭いセリフを言う。


 今、この状況で「どうなるか分からない」とか「もうダメだ」とかそんなセリフは言うべきではないだろう。


 「⋯⋯はい。ありがとう、ございます」


 顔から不安は消えない。未知と言うのはただそれだけで恐怖なのだ。



「これから⋯⋯村での今後について話す!!」


 外からは高齢にもかかわらず勇ましい声が聞こえる。対して愚かな被食獣たちは喚く。


 口調はいつもとは違いキリッとしたかんじだ。


 「これから、村の端に爆弾を設置する!!その間に結界を解除するからその後に分散して逃げな!!」


 説明は簡潔で分かりやすかった。具体的にどうすればいいのかなどタル―シャさんにも分かるはずもないというのもある。しかし何より今の人々が動揺している今、複雑な命令などしても無駄というものだ。


 ちなみに、この世界にも仕組みは違うだろうが爆弾はあり、今回使うのは大きな音を出し光るというものである程度・・・・の村なら一つは持っているらしい。


 「こ、こんな村にいてられるか!!」「⋯⋯もうおしまいよ、何もかも」「嫌だっ!!俺は死にたくない」「誰かどうにかしろ!!」


 その後始まったのはやはりと言うべきか混乱だった。まだ爆弾が爆発していないのに逃げるものは逃げ、隠れるものは隠れ、泣きわめくものは喚き続ける。


 人々は非効率的な、むしろ事態を悪化させるような行動をとる。この村に期待しても無駄だろうけれど冷静に、適切な判断が出来ていない。


 「⋯⋯これが⋯⋯。じゃあボクは⋯⋯いや、別にそれでもいいか」


 ボクはほとんど無意識のうちに小さく呟いていた。気づいたときには自然と漏らしていてもう言い終わっていた。


 「⋯⋯?どうか、しましたか?」


 別に話そうと思って話したわけではなかったから誰にも聞こえないかと思ったけれどどうやら獣人で耳がいいミーシャには内容までではないけれど何かを言っていたのには気づいたらしい。


 「いや、別に何でもないよ」


 ボクはすぐさまそう答えていた。今度は独り言でなく反射であった。


 ボクはミーシャを、いや自分を騙すように、目の前のことに目を向け直した。


 


 

 

 


 

 

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