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51話 殺される覚悟、迷い

 あれから時間が経って昼になった。音を遮断する結界を解いても先程ほどの喧騒はない。まだ怒鳴っている奴もいるみたいだけどそう人数も多くない。これなら外に出ない限りもう大丈夫だろう。そう考えたボクとタル―シャさんは結界を解くことにした。ミーシャは何も言わない。別にここに気にするような人はいないけれど、自身が奴隷だからと遠慮⋯⋯というか自身が意見を言うのに忌憚のようなものがあるのかもしれない。実際に見たわけではないからあれだけど、前の主人が意見を言うのを許すような人物ではなさそうだし。


 そして結界を解いた瞬間、怒鳴っていたうちの一人が入ってきた。それはここからでもわかる。声で分かる。


 「お前が殺したのか!?」



 部屋に入ってきたのはブライアンの弟、アデルだった。別に印象に残っていたというわけではないけれど会ったのは昨日だったので流石に覚えている。ちらっと聞いた話によるとタル―シャさんはブライアンが亡くなり身寄りのなくなった彼を引き取ろうとしたらしい。


 しかし、アデルは思い出の詰まった自らの家から離れたくないと言った。それならばとタル―シャさんは、自分が移り住もうとしたけれど「この家には誰も入れさせない!!」と言って入れてはくれなかったのだそうだ。勿論、攻撃的ではないもののタル―シャさんは結界魔法の使い手。当時七歳のアデルなど無視して入ることも出来たはずだった。けれど、タル―シャさんはそれをせず、結界の魔道具を渡し、最悪でも昼食は自分の家で食べるように言ったのだという。


 幸い、ブライアンは魔物を狩っていたのでこの村では裕福だったし、アデルも才能が有り魔物を狩って稼ぐことが出来るようになったので何とかなったそうだ。


 それはともかく、そんな彼ならこの家の鍵を持っているのは別におかしなことではない。結界が切れると、鍵を使ってドアを開けて入ってきたようだった。


 「おい!聞いてるのか!!」


 「聞いてるけど?」


 別に聞いてなくはないよ。考え事してただけで。


 「じゃあ、答えろよ!!」


 こちらに噛みつくようにアデルは怒鳴る。けれど、まだ十五にもなっていない少年がやっても迫力がない。ボクが生死を賭けるような生活をしてて麻痺しちゃったのかもしれないけど。


「アデル、あの「そうだよ。ボクが殺した」」


 そう言うと先程よりもこちらに向ける睨みが強くなった。おっと、いけないいけない。つい口が滑っちゃった。普段は抑えているけど、復讐者を名乗るくらいには負の感情は強いからね。別にボク悪いことしたわけじゃないのにあんなことをされたらボクだってイライラする。


 「なんで⋯⋯なんで殺したんだ!!」


 「⋯⋯しちゃいけないことをしたのさ」


 ボクが答える前にタル―シャさんが答える。まぁ、しちゃいけないことだね⋯⋯人間にとっては。


 「しちゃいけないこと⋯⋯?」


 ボクには噛みつくように言ってきたけれど、タル―シャさんに対してはそれがない。これが信頼というやつだろうか。分からないけど。


 「あぁ。⋯⋯彼らを殺そうとしたのさね。そして、それに対しての正当防衛⋯⋯といったところさね」


 ボクが言っても聞いてくれるかは分からないからそのままタル―シャさんに任せる。


 「そんなことを⋯⋯。で、でも殺さなくたって⋯⋯」


 何で?おかしくないでしょ、殺したって。いや、ただの子供には分からないか⋯⋯。


 そんなことを考えているとタル―シャさんの顔が真剣なものになる。いや、今までも真剣な顔していたけれどより一層真剣なものになった。


 「アデル、自分の都合で何かを殺そうとしたならその何かに殺される覚悟をしなければいけない。もし殺されても、殺そうとした側が悪いとは限らない。今回も別に彼らに罪はなかった。それなのにこの村の人達は殺そうとした。あたしたちに恨まれる理由はあっても、恨む権利はない⋯⋯そう、あたしは考えているさね」


ふむふむ。まぁ一理あるね。ボクの考えとは違うけど、まぁいいか。


 「⋯⋯でも⋯⋯でも。⋯⋯」



 先程よりも敵意は弱くなり、代わりに迷いが出てきたようだ。理解はしたが納得がいかないのか、はたまた認められないのかは分からない。分からないが、他とは違って悪と決めつけるようなかんじではなさそうだ。もしかしたら獣人のことだってなんとも思っていないわけではないのかもしれない。おかしい、おかしいとは思うけれど、それを認められない⋯⋯みたいな感じで。まぁ、勝手な想像だけど。


 「⋯⋯」


 結局、アデルはそのまま何も言わず部屋を出ていった。


 その後ろ姿からは、やはり迷いが見える。それだけでなく苛立ち、悲しみ⋯⋯それ以外にもいろいろな感情が混ざり合い鎖のように背中や足、手などに巻き付いているような風にも見える。


 普段は、そんなことは感じないけれど、何故かアデルに対し興味のような何かを感じた。



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