49話 打算のある抱擁
あれだけ、キャラの濃かったモルバールも死はあっさりとしたものだった。今では、たった一つの死体に過ぎない。
殺す直前まで、「こんなことをして許されると思っているのか!!」とボクに罵声を浴びせていた口。今、そこから出ているのは血。そもそも許されるって誰にだよ。別にお前になんて許されなくても別にいいよ。許すのは俺自身だけでいいw⋯⋯よ。
しかし、これからどうしたものかねぇ。あれこれ考えたけれどイマイチ良さそうな案が浮かばない。タル―シャさんに頼るっていったってマシにはなるだろうけど、完全に改善などしないだろう。それでも、ボクがタル―シャさんを頼ったのは少しでも状況を好転させようとしただけ⋯⋯ではない。何というか、少し自棄になっていたのかもしれない。この村でボクのアドバンテージの一つはタル―シャさん、村長の協力を得られる可能性。そうでなくてもミーシャのことやこの村でのことで負い目、いや引け目があったみたいだから悪いようにはならないだろうということ。
そして、もう一つは単純。武力だ。まぁこの村の中での相対的なものだろうけど村の中では役に立つ。まぁ子供の中でのガキ大将とでもいったところか。前にも同じようなことを考えていたような気がするけど、やろうと思えば皆殺しにもできる。自分の中での大義名分がないからやらないけど。別にボクだって少しくらいは戸惑いだってある。
⋯⋯仕方ない。時間もないし、その時はその時ってかんじでいこう。
じゃあ、モルバールの死体の処理も終わったし、早速タル―シャさんのところ⋯⋯ん?
「えっと、ご主人様⋯⋯その、終わりましたか⋯⋯?」
なんだ、ミーシャか。もう、結界内にはボク以外にないはずだからびっくりしたよ。タル―シャさんにでも入れてもらったのだろうか。
「うん、もう終わったよ」
「そう⋯⋯ですか」
彼女は馬鹿じゃない。勉強とかそういうことじゃない。彼女には常識というものがしっかり備わっている。そして、多分だけれど察するのも得意なのかもしれない。まだ、旅をして短いけれどそんな気がする。そして、少なくとも鈍感ではないだろう彼女ならボクが何をしていたのかは分かるだろう。
「⋯⋯」
こちらを無言で⋯⋯そして怯えたように、いや怯えながら見ている。無理もないか。獣人とはいえ、似たような人族を殺したボクに恐怖を抱くのも当然か。うーん、問題が増えていく⋯⋯。どうしようか、現状、人化できたおかげで連れて行く意味は少し無くなったけれど⋯⋯協力者を作るというの達成できていないしなぁ。隷属だけじゃ、信用できない。
本当に面倒なことになった⋯⋯。
しかし、
「えっと⋯⋯その⋯⋯ごめんなさい」
うん?
「私が⋯⋯いなければ⋯⋯その。でも⋯⋯捨てないで⋯⋯頂けないでしょうか」
彼女は、目を赤くし泣きそうになりながらもボクにそうお願いしてくる。
ふむ⋯⋯別に、ボクを怖がっているだけでもないのかな。捨てないで、か。まぁ、確かにミーシャがいたせいでこんなことになったっていうのもあるけど、別にそこまで気にしてはいない。先行投資というやつだ。今、いろいろ大変でも将来役に立ってくれるならいい。
「捨てるわけなんかないじゃない。安心して、ね?」
出来るだけ、威圧感のないように、安心させるように言う。勿論、穏やかな笑顔付きで。捨てられるのことへの恐怖はいいけど、ボク対しての恐怖は困る。人を最も縛れるのは恐怖ではなく友情、愛、つまり好意だ。「自分がこうしたい」「この人に迷惑を掛けたくない」という思いは恐怖よりも人を縛ることが出来る。
「えっと⋯⋯あ、ありがとうございます」
これで、フォローにはなっただろうか?いくら考えても心が見えるわけではないからどう思っているのかはわからない。ただ、見たかんじ多少は顔から恐怖心はなくなった気がする。尻尾や耳は元気なくへにゃっとしているけれど。これ以上だと⋯⋯。
ボクは彼女に近づく。彼女は動かず、こちらを見つめている。
「ご主人様⋯⋯?ふぇっ、ご、ご主人様!?」
取り敢えずボクは彼女に抱き着いてみた。ついでに頭も撫でてみる。
「あ、あのご主人様?」
ミーシャには困惑の色が見える。そりゃあ、いきなりこんな突飛なことをされたら困惑するよね。しかしこれで恐怖はまた減った。まぁ、突飛な行動で意識を逸らしただけだけれど。ついでに、抱き着いたり撫でたりするのは愛情表現の一種。それはこの世界でも変わらない。だから、リラックスさせるにはちょうどいい。
代わりにボクが変な人だと思われるかもしれないけれど、恐怖されるよりはいい。
そんなことで、しばらくボクは困惑するミーシャを抱きしめながら撫でていた。
⋯⋯ボクはロリコンじゃないからね?




