42話 お粗末な計画
辺りが静まり、空が闇で覆いつくされた頃、その中に僅かにあった光が複数の動く影を作り出した。
その影は口々に何かを話し合っているようだった。
その影のうちの一つが問う。
「モ、モルバールさん?本当にやるんですかい?」
それにまた一つの影が答える。
「⋯⋯当たり前だろう?獣人などという穢れた種、しかも厄災などを呼び寄せるようなものは殺すべきなのだ。そして、それを連れてきたやつも殺す⋯⋯前の奴は金持ちで下手に手を出せなかったが、今回の奴はただの村人だ、問題ない」
「し、しかし村長には気づかれますぜ?」
「ふん、そんなもの証拠がのこらなければ問題ない。確証もないのにこちらに何かしてくることはないだろう」
「それはそうですが⋯⋯」
質問した側は不安そうだ。
しかし、答えた側は悠然としている。
「大丈夫だ。そもそも気づかれたところで獣人を村に入れる村長など殺せばいいだけだ。結界魔法などという力を持っていても一人は一人。それも老いぼれだ。数で囲めばどうとでもなる」
「し、しかしもしものことがあった時に結界がないと大変ですぜ?」
そもそも、この村がここまで存続できたのは結界のおかげなのだ。
普通の村では村一番の力持ちなどが村を守るものだが、この村は出来た当時からそんな自分で強さを求めるような人物はいなかった。
いや、厳密には少しはいたが他の他人任せな人達に失望や怒りを感じて出て行ってしまったのだが。
その結果、村にはそもそも戦いに向かない才能がない者やあってもあってもすぐに他人任せにするような者しか残らなかった。
そのせいで魔物に攻められても守り切れずどうにもならないだろうという時に今の村長、タル―シャが来たのだ。
そして、タル―シャが結界で村を救ったのだ。
しかし、村人たちは結界というものが自分を守ってくれると言って更に他人任せになっていき⋯⋯今に至るということだ。
そんな中で結界という防御手段がなくなればほぼ確実にこの村は滅んでいくだろう。
「ふん、獣人がいなければ厄災など起こらん」
「そ、それもそうですね⋯⋯」
それに対して今まで会話に参加していなかった者たちも頷く。
「では、行くぞ」
そう言って最初の質問に答えた人物⋯⋯モルバールとその仲間は動き出したのだった。
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ハァー、やっぱりか。
きっと来るだろうなーとは思っていたけど面倒くさいなぁ。
闇に覆われた夜に外をチラッと窓から見ていると外には何人もの男が斧や鉈、包丁を持って家を囲っている。
もしこれが戦闘経験を持っている人物たちなら少し危なかったかもしれないけど、ゴブリン一匹倒して強がるような奴に負けることは、油断しない限り可能性は低い。
というか、魔物のいる村の外を歩いてきたんだから、結界なんかに頼り切っている人に敵わないくらいわからないのかね。
だからこその夜の暗殺だったのかもしれないけど、ばれて普通に戦闘になったらどうしようもないだろうに。
それを防ぐなら、少なくともばれないようにこんな大勢じゃなくてもっと少数で来なよ。
こんなんじゃあ、ボクじゃなくてもばれるよ。
まぁ、自分たちの勝利を疑っていないんだろうけど。
井の中の蛙ってやつだね。
しかし⋯⋯どうしようかなぁ。
ここで戦ってもいいけどあの村人たちのことだ。
あーだこーだとボクたちが悪いとか言い出すに違いない。
そうしたら、大騒ぎになって面倒ごとになるのは目に見えている。
逃げるのも一つの手ではあるけど、物を調達しに来たのにこのまま逃げてはそれも叶わない。
流石に、ミーシャを守りながら荷物も持って逃げるとか出来るかどうかは分からない。
となると⋯⋯どうにかするにはタル―シャさんにどうにかしてもらうかこの村の人達を皆殺しにするかか。
うーん、流石に実行犯ではない人たちを差別したというだけで殺すのはちょっとなぁ~。
するとしたらしてもいいような大義名分が出来てからにしよう。
そうすると⋯⋯仕方ないか。
会ったばかりの人に恩を受けるのは嫌なんだけど、タル―シャさんにどうにかしてもらうか。
タダより高い物はないんだけどねぇ。
この家に泊めてもらった時も、いらないというタル―シャさんに強引にお金を押し付けた。
とはいえ、これを恩というのかは微妙だけどね。
まぁそれはともかく、この村だけで済むならいいけど、勝手に犯罪者扱いされていていろんな国から追われる生活なんて嫌だし。
ボクだけならいいんだけどミーシャもいるしね。
あ、そうそう。
なんかボクも擬人化に慣れてきたからか大きく形を変えなければ顔とかを変えれるようになったんだよ。
これで、ボク一人なら王国に復讐する時も顔ではばれないから安心!!
っと周りの人たちが動き始めたな。
早速タル―シャさんを起こすとするか。




