39話 一時の平和と魔王
村の中はなんというか、思った通りというべきか普通の村だった。
特に廃れているわけでもなく、発展しているわけでもない。
普通じゃない点があるとすればそれは村自体ではなくそこに住む住人の方だろう。
今もわざわざボクたちが通るところに立ち憎悪の眼を向けている。
歩くのは邪魔してこないが正直鬱陶しい。
⋯⋯まぁ、直接的な攻撃に出ないんだったら今はいいか。
下手にこちらから攻撃して難癖つけられたくない。もし直接的に攻撃されたり難癖つけられたらそれなりの対応はさせてもらおうと思うけどね。
多分、そうなると思うけど。
そんなことを考えていると、豪華⋯⋯というわけではないけど周りに比べればそこそこ大きい家が見えてきた。
「あれがあたしの家さね。⋯⋯あまりいい家じゃないけど我慢してね」
いやいや、そんなことはないと思うよ?
今まで野宿だったからそう感じるだけかもしれないけど。
「いえいえ、そんなことないですよ」
「そうかい?それならいいんだけど」
中に入ると、そこにはこれぞ民家っていったかんじだった。
特に何でもないような光景のはずだけど、久しぶりの文明っていうかんじでなんか涙出そう⋯⋯。
実際に涙が出たわけではないけど本当に感慨深い。
「⋯⋯?」
「?どうかしたのかい」
そんなことを考えていると、二人が不思議そうな目でこちらを見てくる。
顔に出ていたか。
「いえ、何でもありませんよ?」
それほど必要ではないけど変に思われるのもアレなので自心制御で一時的に感慨深いなぁという気持ちを抑え本当に何でもなかったかのように振舞う。
能力の無駄遣いかもしれないけど、レベルの上がった今なら少し抑える程度は特に問題ない。
「?そうかい。ならいいさぁ」
思った通り、気のせいと思われたようだ。
それから、玄関からリビングへ向かった。
「⋯⋯それにしても、済まないねぇ⋯⋯」
リビングの中に入ってお茶を出してもらったところでタル―シャさんが話し出す。
こう言っては失礼だけどただでさえ歳と苦労で出来たであろう皺が増える。
あ、お茶に毒は入ってなかったよ。
「⋯⋯ここの村のもん達が悪いことをしたねぇ。村のもん達は馬鹿ばっかりで⋯⋯。あたしは村長なのに村のもん達を止められなくてねぇ」
「いえ、タル―シャさんが謝ることじゃないですよ」
まぁ、村長としてタル―シャさんに全く非がないわけじゃないかもしれないけど、まぁ現実的には仕方ないこともあるものだ。
現実は理想論ではまわらない。
だから、何でも許せるっていうわけではないけど。
「それにしても、ボクはあまり人のいないところで暮らしていたからあまり詳しくないけど獣人族への差別ってどこもこんな感じなの?」
ちょっと気になっていたので尋ねる。
ミーシャにも聞いたが、獣人である彼女に聞いただけじゃ客観性がないから。
「そうさねぇ⋯⋯昔はそれほどではなかったけどねぇ。今は国に扇動されてこんなもんだよ⋯⋯」
タル―シャさんが話してくれた内容を少し要約すると、昔も獣人などの種族は差別されてはいたものの今ほどではなかった。当時はボク達と同じ異世界人である勇者たちが倒すという魔王の配下、魔族という共通の敵がいたため協力せざるを得なかったという。普段は勇者を召喚するのでそんなことにはならないけど何故か今回は失敗したらしい。獣人などの種族を奴隷にして戦力にすることも当時の人族でも種族の特徴である数の暴力で出来たが魔族と戦うために戦力を温存する必要があったとか。こうして、一つの厄災により一つの平和が訪れた。
しかし、それは続かなかった。人族や獣人族などの魔族以外の種族が劣勢になってきたのだが突如、魔族の王である魔王が姿を消したのだ。人族側が直接確認したわけではないけど、魔族の指揮系統が混乱していていたのは事実らしい。
そのせいで、種族の戦いは終わったもののひと時の平和は終わりを告げたのだ。今までの鬱憤を晴らすように人族は他の種族を差別し殺し奴隷にしと様々なことを行った。勿論人族の全てがそうだったというわけではないけど種族には今まで以上の亀裂が走った。殺されたり奴隷にされたりするのを逃れた者達の大半は自分の国に逃げたり、差別のない国に逃げたりしたという。そして人族とその他の種族の隔たりが一層深くなってしまったという⋯⋯。
⋯⋯まぁ、こうして聞いてみるとテンプレってかんじだよね。




