38話 嫌な村
「おい!!穢れた獣めっ。何の用だっ!!」「どうせ、厄災を引き起こすんだろっ」「さっさとこの村から出ていけ!!」
村を見つけたボクたちは早速入ろうとしたんだけど⋯⋯結果はこの通り。
いやぁ、ちょっと入るくらいは大丈夫かなぁと思ってたんだけど期待のし過ぎだったようだ。
この村に入るどころか近づいただけでこの言われようだ。
あと村に入るなって、まだ入ってないよ?
うーん、ここははずれかなぁ。
もう、仕方がないか。
本当は必要なものを揃えておきたかったんだけどしょうがない。
次の村まで歩くかね。
そんな事を考え、後ろを向こうとすると、しわがれた、しかし大きな声が聞こえた。
「ちょいとお待ち!!」
ふと見ると先程まで罵言をこちらに投げかけていた人達の後ろから細い腕と手で杖をついたお婆さんがこちらに向かって歩みきってきた。
「そこの二人を村に入れてやりな!!」
お婆さんは他の村人に呼び掛けた。
「し、しかし⋯⋯」
村人たちは渋る。
「なんだい、村長のいうことが聞けないのかい!!」
「「「⋯⋯」」」
そう言われると苦虫を噛み潰したようになる村人達。
なんだ?村長ってそこまで権限があるのか?
そう考えていると、罵声を発していたうちの一人が前に出てきた。
「⋯⋯ふん、獣人など連れおって⋯⋯汚らわしい。もし、この村で問題を起こしたら即刻殺すからな、憶えておけ!!」
うわぁ、なにこの小物感満載ってかんじの人。
あれよ?もしボクが主人公だったらすぐに死ぬ奴だよ?
しかも、殺すって⋯⋯もしボクじゃなかったら殺されてるよ?
あ、見た目で侮られてるのか。
そう言うとその男⋯⋯小物Aは一人村の中に入っていった。
そして、それに続いて村の人達はこちらを睨みながら村に戻っていった。
すると、先程のお婆さんがこちらに向かって来た。
「あんた達⋯⋯旅人かい?あたしゃあタル―シャ、ここの村の村長さね。⋯⋯さっきのは悪かったねぇ。獣人差別なんて意味ないっていうのにねぇ。⋯⋯ん?どこかで見た顔かと思ったら一週間くらい前に商人と一緒に来た子じゃないかい!!」
ふーん、ここもミーシャが寄った村の一つだったのか。その時の商人は入れるのにボクたちは入れないとか⋯⋯いや、まぁ人間なんてそうか。世の中、金とか権力という人も大勢いるくらいだしね。
「え?⋯⋯あ、はい」
ミーシャは長時間閉じ込められていたのですぐには思い出せなかったようだけど、完全に閉じ込められていたというわけでもないので言われて思い出したようだ。
「⋯⋯えっと、あの時は有難うございます」
「気にせんでええさぁ」
うん?なんかしてもらったの?
そんなボクの考えを何となく察したのかミーシャが答える。
「⋯⋯えっと、この村に来た時、裏で石を投げられるのを止めたり、ご飯をくれたりしたんです⋯⋯」
詳しく聞くと、この村には数日泊まっていてその時この村長⋯⋯タル―シャさんの家に泊まっていたらしい。
その時に、商人は村長の家よりも立派な宿に一人で泊まっていたんだとか⋯⋯奴隷を泊めさせるとお金が余計にかかるからと言って。
そして、タル―シャさんの家で預かっている時に裏で石を投げないように言ってもらったり、商人にばれない程度に食べ物を貰ったんだとか。
うーん、いい人っぽいな。
少しは信用しておこう。
「そうですか⋯⋯それはありがとうございます。あと、先程もありがとうございます」
とりあえずお礼をする。
実際、さっき助けてもらえなかったら別の村に行くことになったからね。
それに、もしかしたら怪我や飢餓で死んでしまってこのそこそこ信用のできる仲間であるミーシャに会えなかったかもしれないし。
感謝して怒るような人は少ないはずだ。
「いんや、そんなのは当然さね。差別なんてするほうが可笑しいんさ。それにあたしも裏でしか助けてあげられんかった⋯⋯ごめんなさいねぇ」
「⋯⋯いえ、そんなことないです」
「そう言ってくれると、少しは少しは救われるさね」
そう言ってタル―シャさんは少し目を瞑った。
まぁでも差別なんて無くならないものだからねぇ。
地球なんか肌の色の違いとかで差別してたくらいだし、まだこの世界の方がましなのかもしれない。
「⋯⋯それにしてもあんたいい人に拾われたねぇ。こういっちゃ悪いけど奴隷なんて生きていければいい方ってかんじだからねぇ。⋯⋯前見た時より血行もいいし服や体もきれいになって⋯⋯。⋯⋯本当に、良かったさね⋯⋯」
目を開けた村長はボソッと小さめの声でミーシャに言う。
ミーシャも少し戸惑いのような何かが少し顔をよぎったように見えたが、少しこくんと頷いた。
⋯⋯ボクが優しく接しているのは無駄じゃなかったんだね。
「おっと、いけんいけん。あんた達村に入りたかったんだったね。今日は旅するのにはもう遅いしあたしの家に泊まっていきな。⋯⋯誰も泊めたがらないだろうからね」
それもそうか。
「ではお言葉に甘えて」
そう言ってボクたちは村に入っていったのだった。




