俺は婚約者の事を何も知らなかったようだ①
フィナの元婚約者視点の話
俺の名前はレーイン・カタルシス。
カタルシス公爵家の長男で、国外へと出て行ったセラフィナ・ワイズマンの婚約者だった。
その、セラフィナ・ワイズマンが……契約している高位魔獣と共に国外へと出た。そのことで、現在国は大慌てである。
それも無理がない話であった。高位魔獣の契約者とは、それだけ国にとっても重要な存在であった。
他国では王族に代々高位魔獣が契約を交わして力を強めているし、高位魔獣が一体居るだけでも戦いの際に大きく色んな事が異なる。高位魔獣とは巨大な力を持った存在であり、その存在と契約を結べるものは少ない。我が国には、高位魔獣との契約者は一人もいなかった。いや、居ないと思っていたというべきか……。
高位魔獣との契約を交わし、それを公にしないものはあまりいない。高位魔獣と契約していればそれだけ活躍する存在であるし、契約を交わすだけ交わして騒がれるようなことを何もしないなんてまずないのだ。第一公にすればそれだけ国で重要な立ち位置に立てるわけで、大抵が露見する。
それが、こちらの不手際で国外に出す事になってしまった。
……本当に俺達学園の生徒の不手際だ。セラフィナの事を俺達は、断罪した。セラフィナの異母妹であるアリス・ワイズマンの殺害未遂も含めた嫌がらせで。そしてワイズマン公爵からの昔のセラフィナの悪行もきき、アリスへの謝罪がないなら勘当という話で断罪した。……そこで謝ると思っていた。だってセラフィナは公爵家令嬢で勘当されれば本来なら生きてなどいけないのだから。殺害されそうになりながらも未遂だったからと健気に謝る事を求めたアリスに、冷たい態度をとっていた。そして下位魔獣だとされていたあのゼノと呼ばれていた魔獣と共に去って行った。
……あれは、雷虎と呼ばれる高位魔獣だ。雷を操る魔獣の中でも上位に位置する魔獣。人語を理解している高位魔獣。
それから高位魔獣の契約者を国外に逃がしたという事もあり、詳しく調査された結果、俺達の断罪は冤罪でしかなかったと証明された。
セラフィナはアリスへの嫌がらせに一切関与していなかった。
そしてセラフィナは悪行を行ったから、離れにやられていたわけではなかった。
婚約者であった俺も、異母妹であったアリスも知らなかったワイズマン公爵家の事情を王家の調査隊から知らされた。
セラフィナは、ワイズマン公爵に虐待されていた。
セラフィナの母親、ワイズマン公爵の前夫人がセラフィナを生んで亡くなった。それで、ワイズマン公爵は「お前のせいで愛する妻が死んだ」というセラフィナを責めてもどうしようもない理由で、セラフィナを疎んでいたらしい。自分が生まれて亡くなった母親の事を、父親に責められる。そして、それで疎まれ続ける。なんて、聞いたこちらが悲しくなるような出来事だ。
俺は婚約者だったけど、全然そんなこと知らなかった。
セラフィナは、俺にそんなこと言わなかった。
……俺はセラフィナに欠片も信用なんてされていなかったという事なのだろう。
「お父様が……そんなことをしていたなんて」
アリスもあの人の良いワイズマン公爵がそんなことをしているなんて考えもしていなかったようで、泣いていた。それを知っていたらってそんな風にも言っていた。
セラフィナがアリスに嫌がらせをしたと発言をした実際の実行犯は、公爵令嬢を殺害しようとした罪で処罰されている。また、俺やアリス、そしてアリスに惹かれていた生徒たちも雷虎と契約していたものを出してしまったという罪に問われた。とはいえ、まだ学生な事もあり、そこまで死刑といった事はなかったが、俺は公爵家次期当主という立場を落とされた。他の生徒達もそれなりの罰を課された。アリスは……、噂や主観性にとらわれて姉を冤罪で攻めたてるなどといった真似をする存在は王子の妃にはふさわしくないという事で、婚約破棄された。そして一番の元凶であったワイズマン公爵は公爵の地位を追われ、強制隠居(おそらくもう外には出れないだろう)させられた。アリスが結婚をしたらワイズマン公爵家の地位を継ぐという形になり、それまでは王家からの補佐が入る事となった。
ただ俺は婚約破棄をした身で、アリスも王子から婚約破棄をされた身で、そういう事情で俺もアリスも結婚相手を探すのは難しいだろう。公爵家を継ぐという事もできなくなった俺は将来についても考えなければならない。だが、俺の自業自得である。
セラフィナと話せばよかった。
セラフィナの声をもっと聞けばよかった。
アリスの声ばかり聞いていた。周りの噂ばかり聞いていた。そしてワイズマン公爵の言葉だけを信じた。
セラフィナに確認するとか、セラフィナ自身が何を思っているとか、俺は聞かなかった。
聞けばよかったのだ。セラフィナが何を思っているのか、セラフィナが何を考えてるのか。
そんな確認もせずに婚約破棄をして、責め立てた。
そんな思い込みで暴走してしまった俺が公爵家当主なんてなるべきでもないって、冷静になってみると自分でもそう思う。
本当に、俺は婚約者という立場に何年も居たのに、セラフィナの事を知らなかった。