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7.少女との未来

「あはは、ゼノ楽しいね」

「……飛び出しちゃったけど、よかったのか? 何も荷物も持ってきていないけど」

「いいの。私はゼノさえいればいいもの」

 学園からそのまま駆けていく俺の上にフィナは乗っている。そして心の底から楽しそうに笑っている。俺さえいればいいなんて言ってフィナは笑う。

 公爵令嬢としての地位とか、フィナにとっていらないものだったのだろうと俺は改めて思った。……フィナは、そんなものより俺と一緒にいることを選んでくれている……と思うとちょっと嬉しい。

「フィナ、大丈夫か」

「それは何に対して?」

「婚約破棄とか、勘当に対してだ。幼いころからの婚約者に裏切られて辛くはないのか?」

 前世では日本育ちの一般家庭に育った男子だったし、婚約者のいる貴族社会なんてさっぱりだ。婚約者どころか彼女さえもいなかった人間時代の記憶なんてちっとも参考にはならない。魔獣に転生してからも、俺は番を作ることもせずにただ走ることが楽しくて、それ以外に興味がなかった。

 でも普通に考えて幼い頃から仲良くしていた婚約者に裏切られるって、辛いことではないのかと俺は思うのだ。普通の令嬢ならショックで倒れてもおかしくないレベルだろう。

「全然辛くないわ」

「そ、そうか」

 それなりにレーインと仲良くしていたと思っていたのだが。少しレーインが不憫に思えたが、あほみたいな勘違いでフィナに婚約破棄を言い放つような馬鹿に同情する必要はないだろう。

「ゼノは、私にあの方と結婚してほしかった?」

「ついさっきまではな。レーインはフィナをすいているし、フィナを幸せにしてくれるって期待していたから。でも、あのおっさんの嘘にだまされてフィナを信じないやつはだめだ」

 フィナ。セラフィナ・ワイズマン。俺が魔獣に転生してはじめて惹かれた存在で、初めて契約を交わそうと思った特別な女の子。

 人に興味はなかったし、俺はただ走れればよくて、一生誰とも契約もせずにただ走って人生が終わるんじゃないかって思っていた俺が初めて惹かれた少女。

 フィナは俺にとって特別で、おっさんに虐待されて泣いていたフィナに笑ってほしいと思った。

 だから俺はフィナが幸せになってほしいって、ただ思っているだけなのだ。

「ゼノ」

「なんだ?」

「ゼノは、私のことどう思っているの?」

「は?」

 急に問いかけられて、突然なんだと驚いた。

「どうって……フィナはフィナだよ。俺が初めて契約をしたいって思った特別な子だよ」

「ゼノは、私に幸せになってほしいんだよね?」

「おう。フィナに笑っててほしい」

「じゃあ、ゼノが、私をもらって」

「はい?」

 流石に驚いて足を止めてしまった。背中に乗ったままのフィナが俺から降りて、俺のことを見つめている。

「私はゼノがいたら幸せだから。ゼノが私のことお嫁さんにもらって」

「……聞き間違いじゃなかった! 待て、フィナ。はやまるな! 俺は魔獣だぞ。婚約破棄と勘当で混乱しているんじゃ」

「ううん。混乱なんかしていないわよ? それにゼノが魔獣だからなんだというの? 子づくりしたいなら私が変身すればいいじゃない。そもそもゼノは高位魔獣だし人化できるでしょ? 何が問題あるの?」

「ま、ままま、待て! というか、子づくりとか淑女がいうことじゃないから!」

 俺は絶賛混乱中である。フィナが俺にお嫁さんにしてって言ってる? ちょ、ちょちょっと待て。

「ゼノがあわててる。可愛い」

「可愛いって言うな! 俺雄!」

「知っているわ。ゼノが雄でよかったわ。子づくりできるものね」

「……子作り子作り連呼するなよ。というか、え、っと……フィナって」

「うん。なあに?」

「お、俺の事……好きなのか?」

「ええ。大好きよ」

「ま、魔獣としてとかでなく?」

「一人の男として、この場合は雄としてというべきかしら、愛してるわ」

 な、なんで笑顔でそんなこと言っているの、フィナ。というか、え? フィナって俺の事好きなの? 雄としてって。えっと、でも俺魔獣だし。種族違うし。いや、でも魔獣の中で人と番っているものもいるけど。

 いや、でも……。フィナが俺を好きって。ええと、戸惑いながらフィナを見つめる。フィナはにこにこして俺を見ている。

 ドキッとする。というか、なんで俺こんな心臓はやくなってるんだろうか。俺魔獣だし、フィナ人間だし、そういう風に考えた事なんてなかったし。でもこう意識してみると、心臓ばくばくしているし、フィナ以上に綺麗と思うものなんてないし。

「ねぇ、ゼノは嫌? 私はゼノが大好きよ。一人ぼっちだった私の傍に突然現れて、私の傍にいてくれたゼノが大好きよ。ゼノは、私と契約してくれて。ずっと一緒にいてくれて。それだけでいいって思ったけど、やっぱり私ゼノのお嫁さんになりたいって思ったの。だからね、ゼノが煩わしい環境から私を攫ってくれて、ゼノとずっと一緒に居れるんだって思うと本当に嬉しいの」

 頬を染めてそんな事をいうフィナは、最高に可愛かった。……つか、うん、俺もフィナの事好きじゃね、これ。そういう可能性をただ俺が考えてこなかっただけで。

 ……あー、もう。フィナに幸せになってほしいっていうのが俺ののぞみで。だけど俺は魔獣だしっていうのが引っかかってて。これは前世の記憶の影響だな。前世で獣と結婚とか普通にないし。でも、そうか。俺がフィナを幸せにしてもいいのか。

「ゼノ?」

「……フィナ、俺、魔獣だし正直そういう目でフィナを見たことなかった」

「そう」

「でも、意識してみると、多分俺も……フィナの事、す、好きだ」

「え?」

「フィナを任せられる男にフィナを任せようって、フィナに幸せになってほしいって思ってたけど。その、俺が、フィナを幸せにする! だから! お、俺の番になってくれ」

 締まらない。どもるとか俺かっこ悪い。でも仕方ないだろう。求婚なんてはじめてした。前世の人間の雄だったころにはそんなもの無縁だったし、魔獣として生きてからは求愛されこそしたが興味なかったし、自分からこんないうのははじめてなんだよ! 

 俺自分の顔から湯気でているんじゃないかってぐらい赤いと思う。ああ、もうどうせならもっとかっこよく言いたかった。

「嬉しい、ゼノ! 私ゼノの番になる!」

 俺は感激したフィナに飛びつかれた。

「おう」

「私、ずっと、ゼノとこうなりたかったの。嬉しい」

「お、おう。それより、これからどうする?」

「どこでもいいわ。私ゼノがいる場所ならどこにいっても幸せだもの」

 フィナが目をキラキラさせて、幸せそうに笑っている。俺がいれば幸せって、ちょっとむず痒い。

 フィナを見つめながらこれからどうするか考えて、一つ行きたい場所を思いついた。

「フィナ、俺の母さんのところ行かないか?」

「ゼノのお母様?」

「ああ。人間と契約していてな。居場所は分かっているからさ。俺も、俺の番だってその、フィナの事紹介したいから」

「嬉しい。行きたいわ」

 俺はフィナを背中に乗せて走り出す。




 ――魔獣に転生した俺と、彼女の話。

 (魔獣に転生した俺は、少女と契約して、その少女と番になって、幸せに生きている)




あとがき

短いお話でしたが、ここまで読んでくださりありがとうございます。

そんなわけで本編はとりあえずこれで終わりです。ただ色々思いついているので後日談を公開していく予定です。色々考えていたら寧ろ後日談のほうが長くなりそうですが、書いていく予定です。

フィナとゼノの物語を、読者様が少しでも楽しんでくださったり、二人を好きになってくれればいいなと思います。

ひとまず完結設定にして、後日談を投稿する際に連載中に戻そうと思います。


2016年11月27日 池中織奈


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