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6.少女との学園生活の終わり

 その日、俺は寮の自室でのんびりしていた。最近寒くなってきて眠いなーとしていたらフィナが「まだ寝てていいよ」って笑って授業に行ったからだ。

 最近学園の雰囲気も変わっているから心配な面もあったが、睡眠欲に勝てなかった。昼ぐらいまでぐっすり寝てから体を起こして、小型化して、フィナの元へと行くことにした。フィナはどこにいるかなと考えながらかける。

 そうしていたら、なんか周りの生徒がフィナの話題を口にしていた。

「ワイズマン公爵家のセラフィナ様が……」

「レーイン様達が…」

 まだ寝ぼけているのもあって、全部は聞き取れなかったが、フィナがいる場所は分かった。なんか、レーイン達と一緒にいるらしいが。とりあえずフィナのところに行かなければ。

 そう思って足を進める。

 フィナがいたのは学園の正面玄関……たぶん俺を迎えに来ようとしていたのだと思う。なんかその前にフィナの異母妹と、男達(レーイン含む)がいて……んー、なんか野次馬できているけど何やってんだと思っていたらなんかよくわからないことをレーインが言っていた。

「セラフィナ! お前にはだまされた。お前がこんなに性悪だったとは!」

 あぁああ? フィナに向かって何を言ってやがる。一気に自分の中の魔力が膨れ上がったのがわかる。野次馬達に紛れてフィナを覗いていた俺だが、膨れ上がった魔力に周りの生徒達が道をどけた。

 ああ、だめだ。落ち着かなければ。俺の魔力は強いのだから、暴走したらフィナに迷惑をかけてしまう。母さんにも魔力の制御には気を付けるように言われていたのだ。ゆっくりと野次馬達の中心へと自分を落ち着かせながら歩く。

「何を言っていらっしゃるの?」

 フィナの落ち着いた声が聞こえる。

「しらばっくれるな! お前がアリスをいじめたんだろう!」

「ワイズマン公爵からも聞いているぞ。昔から悪さをしてそれで離れたところで暮らさせられていたんだってな」

「それで反省もせずに……。お前を心配しているアリスを……」

 ん? なんかよくわからない冤罪をフィナがかけられているぞ。しかもなんだ、何故あのおっさんは自分がフィナを嫌っていて離していたというのにフィナのせいにしてんだ?

「セラフィナ! お前とは婚約破棄をする! ワイズマン公爵にももう許可はもらっている!!」

「そうですか。それで?」

「あ、あの、お姉様。私は謝っていただければそれでいいのです。だから、許しますから」

「私は何もしていないわ。貴方にそこまで興味がないもの」

「許すといっているアリスになんてことを!! せめて誠意をもって謝るなら許してやろうと思っていたのに」

「やってもいないことを謝れというのはなんなのでしょうか。それともレーイン様は、私がそのようなおろかなことを本当にやったと思っているのですか」

「お前がやったという証言は出ているんだ!」

「そうですか。でも私はやっておりませんの。ですから、このように人前で謝罪をする必要はありません」

「お、お姉様、あ、謝ってよぉ。お姉様が反省しないと、お父様が勘当するって」

「……そうですか」

 うわー、おっさんが性格悪すぎる。というか、俺イライラしてきた。そもそも異母妹嫌がらせされてたの? フィナも俺も異母妹に興味ないんだけど、そんな。

「貴様、心優しいアリスがこういっているのに。お前みたいなものは――」

 異母妹の周りにいる男の一人がフィナに近づいていく。つーか、異母妹王子の婚約者じゃないっけ。それなのに男こんなに侍らせていいのか? ま、いいや。俺には関係ない。とりあえず、フィナに殴り掛かりそうな勢いで近づいている男に俺はタックルした。

 うん、フィナに殴り掛かるとか許せないし。冤罪を信じ切って女に殴り掛かるとかどうなんだろうか。俺小型化したままだけど、人間一人突き飛ばすぐらい余裕である。

「ゼノ」

 んー、それにしてもおっさんのいるワイズマン公爵家から離れたらフィナは幸せになれるかなって思っていたけど、こんなんじゃレーインはだめだな。というかさ、フィナがやっていないって言っているのにそれを調べる気も話を聞く気もない。それどころか殴り掛かってくるような場所か……。学園はフィナにとって楽しい場所ではなくても、って考えてたけど。この学園にいる連中が将来、フィナの周りにいる存在なのだ。フィナが貴族である限り。こんなフィナを貶めようとする集団とフィナはつるんで行かなければならないのだ。

 つか、謝罪しなければフィナを勘当するって言っているし……。

「お前……」

「セラフィナ・ワイズマンの契約魔獣か」

 男たちが俺を見ている。が、正直こいつらはどうでもいい。

「あ、あのゼノさん、お姉様は悪いことを……」

「貴方が、ゼノの名を呼ばないで。ゼノのことをゼノと呼んでいいのは私だけよ」

 なんか異母妹が俺にフィナを説得してほしいみたいな感じで訴えかけてきたら、フィナが怒った。

「ね、ゼノ」

 フィナ、今は呼び方どころではないと思うのだが、今。何というか、フィナって幼いころからあのおっさんに虐待されていたし精神的に滅茶苦茶強いっていうか、あんまり色々気にしない性格なのは知っているけど……、苛めの冤罪に、婚約破棄に勘当とか言われてるぞ?

「その魔獣のこともワイズマン公爵から聞いているぞ! ワイズマン公爵がアリスのために用意したものをセラフィナが勝手に契約したんだってな」

「あぁ?」

 思わず声が出てしまった。魔獣に転生して長いけど、こんなどす黒い声だしたのはじめてだな。あのおっさんふざけすぎだろ。フィナを悪者にして追い出す気だし、フィナと俺の契約は俺がやりたいと望んだ契約なのに、それをこんな風に言うなんて。

 俺が下位魔獣でしゃべれないって勘違いしたままだからかもしれないけれど、それでもだ。もしたとえ俺が下位魔獣だったとしても、魔獣っていう存在をバカにしすぎだ。しゃべることができなくても感情ぐらいある。下位魔獣だって自分で臨んだ契約をそういわれれば怒るだろう。あほか。

 ああ、もう、いいや。と俺は思った。

「喋った?」

「でも、下位魔獣よね?」

「え?」

 周りがなんか言っているが、俺はそんな声聞かずにフィナを見た。

「フィナ」

「なぁに、ゼノ」

「この国出るか?」

「ふふ、私は構わないわ」

「……家とか全部捨てなきゃだけど、いいのか?」

「いいの。私、ゼノがいればどこでもいいもの」

 学園も家もフィナにとって心地よい場所では決してなくて、だからこそ俺はフィナを連れ出したほうがいいのかとかも考えた。でもそれはフィナがすべてを捨てなきゃいけないことになるし、それもどうなんだろうかってずっと考えていた。

 でも、いいかなって思った。だから聞いたのに、なんかフィナは戸惑いとか、悲しみとかも全然なくて、にこにこ笑ってるし。俺難しく考えすぎていたのかとか思う。これさ、いつでもフィナって国出る? って聞いたら喜んでうなずいたんじゃ……。

「な、な、な、セラフィナ!」

「ゼノ、じゃあ、もうここ用はないわね。行きましょう」

「おおう……、フィナ、そんな簡単でいいのか。つか、レーインが叫んでいるが」

「いいの。いいから、行きましょう」

「……フィナ、なんでそんな笑顔なの?」

「嬉しいもの。めんどくさい柵全部なくして、ゼノと一緒にいられるってことでしょう?」

 ……フィナの笑顔がまぶしい。というか、いいのか? そんなに簡単に割り切っていいのか? フィナはなんでこんなにこにこしているんだろうか……。

「待て、セラフィナ! その魔獣は下位魔獣だと……」

「違うわ。私のゼノはそんなものじゃないわ。あの男がゼノとその子と契約を結ばせる予定だったとか、嘘ついているみたいだけどゼノは私のものだもの。私とあって、私と契約したいって言ってくれた私のゼノなの。ね、ゼノ」

 フィナの機嫌が凄く良い。

「おう。フィナと契約したいからした」

「……でも、お父様が」

「あのおっさんはうそつきだからなー」

「ま、あの男の話はどうでもいいでしょう。勘当してくれるっていうなら、他人だもの。レーイン様とももう他人ですわね。婚約破棄に勘当なら貴族の娘でもなくなりますし」

 フィナはそういってレーインに向き合った。

「レーイン様、それでは私は学園もやめますし、ワイズマン公爵家の娘もやめますね。それじゃあ、もう会うことはないでしょう」

 フィナ、笑顔で言うことではない。

「ゼノ、戻って。乗っていったほうがはやいわ」

「……ああ」

 フィナがにこにこしているのはいいんだが、何か、フィナの発言に周りが固まっているが放置でいいんだろうか。

 フィナに促されるままに元の姿に戻った。戻った俺を見て周りは息をのんでいる。

「まさか」

「あれって……」

 正直視線がうざい。

「フィナ、乗って」

「ええ」

 フィナは俺の背中に嬉しそうにうなずいて乗る。

「じゃあ、行きましょう。ゼノ」

「ああ」

 これからどうするか全然考えてないけど、ま、なんとかなるだろう。母さん頼ってもいいし。そんなことを考えながら俺はフィナを乗せてそのまま走ってその場を後にしたのだった。



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