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2.少女との出会い

 走りぬける快感を感じて、俺は今日も気分よく駆けていく。

 楽しい。

 心が高揚して、どうしようもなくわくわくする。

 正直走るのが楽しくて仕方がなくて駆け抜けている俺としてはここがどこかさえもちゃんと確認ができていない。でもそれでもいいのだ。とりあえず走り抜けることが本当に楽しくて仕方がないって気持ちさえあればなんだっていい。

 此処がどこだろうが、これから走り抜ける場所がどこだろうが、特に俺としては問題はない。

 知らない場所に出たならばそれで新しい光景が見れて楽しいだけであるし、知っている場所ならば昔との違いを楽しむことが出来るだけである。

 前世での俺は景色とか楽しまずに、ゲーム楽しい、漫画楽しいとひきこもりみたいだったが、現世の俺は色々見て回るのが本当に楽しくて仕方ない。あー、前世でなんで俺は景色を楽しんでこなかったのだろうが。この世界の景色もそれはもう素晴らしいけれども、日本の景色ももっと見てくればよかったとそんな後悔をしたりもする。ま、考えても仕方がないけどな!

 さてさて、正直ここがどこだかはわからないが、どうやら街にたどり着いてしまったらしい。正直俺の種族ってそこそこ有名だから、下手に姿を見られても面倒なんだよなと思いながらも、どうしようかなと考える。

 俺は突っ切って走るのが好きである。

 街があろうとも、そのまま駆け抜けたいなという衝動に駆られる。まぁ、結構そういう事やっているんだけどな! だから俺の存在ってそこそこ人族に知られたりするらしい。襲い掛かったりもせずに、びゅっと気づけば過ぎている存在みたいな感じで。

 まぁ、今回もそんな風にやって問題ないだろうってわけで、俺は門番がうおっと声をあげるのを無視して街の中をかけていく。

 過ぎ去っていく街の景色が、また良い感じなのだ。

 猛スピードで駆け抜けていくからこそ見えてくる景色ていうのがあってな、その一瞬の光景が俺はたまらなく好きだ。

 駆け抜けていくことが本当に好きで、うずうずして、いつでもこうして走っていたくて。

 だけど、そんな俺が、一人の少女が視界に入って止まってしまった。

 視界の隅に映った少女は、前世も含めて、今まで見た中でも一番きれいというか、個人的な感想としてとても好みな少女だった。

 美しい銀色の髪を腰まで伸ばした、くりくりとした青い瞳を持つ少女。

 まだ年は10歳ぐらいだろうか……、美しいドレスを身につけていて、如何にもな貴族な少女。

 だけど、その目には傲慢さなどはなく、寧ろ俺が見た光景はエラそうな服を来たおっさんに怒鳴られているところだった。

 少女とおっさんは似ている。同じ髪色だし。

 たまたま立ち止まった場所は人気のない場所だったけれど、俺の体長結構でかいからあまり立ち止まっていると騒がれそうで面倒だ。でも気になってしまった。

 それにしても自分より小さな存在を怒鳴りつけるというのは雄としてどうなのだろうかと思う俺である。しかも手を挙げている。

 おっさんはそのまま去っていた。俺は膝をついて涙を流している少女が気になったので、あいている窓から中に入った。

「とら、さん?」

 少女は驚いたようにこちらを見ていた。少女の身体よりも大きな俺を見ても、その目には怯えはみられなくて、へぇと思った。

 間近で見た少女は、遠くから見ているよりも余計に綺麗だった。なんとなく、惹かれた。特に理由はない。でも気になって、泣いているのが心配になった。

 近づいて泣いている少女の涙をぺろりと嘗める。

「慰めて、くれるの?」

「おう。あのおっさん、何で殴ってたんだ?」

「……この声、とら、さん?」

「おう。俺は魔獣だからな」

「魔獣……? 習った、ことある。魔獣さんが、どうしてここに?」

「んー、気になったから」

「魔獣さん、なでていい?」

「……別にかまわないけど」

 少女が俺に手を伸ばす。少女になでられて何だか気持ち良くなってきた。俺は誰とも契約していなかったし、母さんみたいに人間と仲良くしてこなかった。ただ魔獣に転生してからずっと走るのが楽しくて、走って走って、時々喧嘩して、やっぱり走ってって感じで俺は基本走ってしかいないなと思い返せば思う。

 うーん、一応俺元人間のはずなのに、そもそも知能ある魔獣のはずなのに、走るしかしてないのかと思い返してみると何とも微妙な気持ちになる。が、でも楽しくて仕方がなかったんだからしょうがないだろう。

 人間を見ても何も思わなかったし、こんな風に人間になでられるのも全然想像もしていなかったけれど、少女を気に入っているからかはわからないけれど……、契約してもいいかなって単純に思った。

「名前は」

「わたし……? わたしは、セラフィナ、セラフィナ・ワイズマン」

「そうか。俺はゼノラシア」

「ゼノラシア?」

「おう、ゼノでいい」

「じゃ、わたしも、フィナでいーよ」

 フィナは何が嬉しいのか、にこにこと笑っている。

「俺と契約するか?」

「契約? 魔獣さんとの契約って、わたしまだちゃんと習ってないけど、もっと大きくなってからじゃないの?」

 人間の世界ではそうなっているらしい。が、魔獣の俺にとって人間の世界での決まりとか知らん。まぁ、昔母さんが魔獣契約って魔獣が気に入らなければ殺されても仕方ないから大きくなってからとかいってたのは知っているが、俺はフィナを気に入ったし、まぁ、構わないだろう。

「俺がしたいから、それは関係ない。フィナは?」

「わたしでいいなら、したいな。だって折角お友達になれたから」

「そうか、じゃあするか」

「うん」

 それから俺とフィナは契約を交わした。この契約って魔獣が気に入った存在に力を貸しますよって証みたいなものである。



 魔獣に生まれて百二十年、はじめての契約だった。




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