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魔獣に転生した俺と、彼女の話。  作者: 池中織奈
後日談とか番外編とか
11/19

とある冒険者は目撃する。

 その日、俺は大きい仕事を先日終えたのもあって冒険者ギルドの酒場で、酒を飲んでいた。酒は良いものだ。飲んでいると気持ちが良い。

 冒険者になって10年、それなりに経験を積んできた俺は依頼をこなし、成功すれば酒を飲むといったそんな普通の何気ない日常を送っている。

「うっめぇええ」

 酒を飲み、声を上げていたら、扉が開く音と共に、急に周りがざわめいた。

 俺はなんだと思いながら、入り口に視線を向けて驚いた。そこにいた少女と、一匹の魔獣の存在に。

 冒険者ギルドに似つかわしくない美しい少女。お貴族様って言われても驚かない気品さを持ち合わせた少女が冒険者ギルドの中に入ってきたというのも驚くべき点だったが、少女が引き連れている存在がまた驚いた。

 巨大な、体長は少女よりも大きいだろう魔獣がいた。

 少女と共に入ってきた所からも、おそらく少女と契約している魔獣だろうが、明らかに高位魔獣といえる魔獣をまだ若い少女が契約を結べている事実も驚いた。

 魔獣と契約を結んでいるものはそれなりに世の中には居るが、高位魔獣と契約を結んでいる存在なんてそうはいない。

 少女は周りから視線を向けられているというのに、特に気にした様子もなく受付に向かって歩いていく。その隣を、魔獣も歩いている。

「ど、どのようなご用件でしょうか」

 冒険者ギルドの新人受付嬢であるハイナ嬢ちゃんが緊張した面立ちでいった。

「冒険者の登録をしたいの」

「……あなたがですか?」

「ええ。私がよ」

「そうですか。わかりました。その魔獣は契約魔獣でしょうか?」

「ええ。そうよ」

 ハイナ嬢ちゃんの声にこたえる少女の口調は何処までも丁寧で、育ちが良いのがわかる。

「では契約魔獣として登録させていただきますね」

 ハイナ嬢ちゃんは相変わらず緊張した面立ちだ。少女が貴族の令嬢なのではないかという懸念もあるだろう。でも貴族の嬢ちゃんなら、こんな冒険者ギルドにはまず来ないだろうし、少女がどういう人間なのかという興味がわいた。

 ちびちび酒を飲みながら、俺は少女を見ていた。

 冒険者は荒事も多い職業だ。少女は力も弱そうだし、何が出来るのだろうか。あの契約魔獣がいればある程度どうにかできるだろうが、冒険者の先輩として少し心配してしまう。

 高位魔獣と契約しているのもあって手出しをする馬鹿は居ないと思うが……。

 登録を済ませると、少女は魔獣に話しかける。

「ゼノ、登録は済んだから宿を探しに行きましょう」

『ああ』

「ゼノも一緒に泊まれる所を探しましょうね。この街は大きいからあるはずよ」

『……俺は別に俺だけ外でもいいけど』

「私がやだもの。ゼノと一緒に泊まれないなら私も野宿するわ」

『それは駄目だ』

「じゃあ、探そうね」

 ハイナ嬢ちゃんと話している時はどこか冷たさも感じられたが、少女は魔獣に向かってにこにことしていた。あの契約している高位魔獣の事が大切なのだと全身であらわしている。

 ちらりと周りを見てみれば、契約魔獣に向ける笑みにぽーっとなっている若い冒険者もいる。

 というか、話しかけに行った奴までいた。

「なら、俺と一緒に食事でもどうだい?」

「結構よ。ゼノ、行こう」

 食事に誘った男に、少女はばっさり言った。考える素振りも見せないとは、憐れである。

「ま、待てよ」

「私はこれから宿を探しに行かなきゃならないもの」

 契約魔獣に向ける瞳はあれだけ優しいのに、冷たい目を向けてばっさり言う。

 少女はそういってすたすたと冒険者ギルドから出て行った。断られた奴は落ち込んでいたが、「その冷たい目もいい……」とかちょっと危ない道を開こうとしていた。


 酒を飲み終えて、宿に戻れば、先ほどの少女と魔獣がいた。


 ああ、そういえば俺が泊まっているこの宿も魔獣も一緒に泊まれたか。

 食事処で食事をとっている少女と魔獣。というか、魔獣は小型化か何かしているらしく、少女の膝の上に乗せられている。

「ゼノ、美味しい?」

『ん、上手い』

「美味しいごはんの宿見つかってよかったわ」

『そうだな』

 少女は魔獣に対しては相変わらずにこにこしていた。

「席が空いていないんだ。相席いいかい?」

 そんな少女と魔獣のもとに女冒険者――ミラノがそういって話しかけた。

「……どうぞ」

 許可を出しながらも少女は無愛想な顔をしている。契約魔獣に向けては表情をころころ変えているというのに、他には偉く無愛想だ。もっと笑顔を見せれば、男も寄ってくるだろうに。

「あんた、噂になってた子だろ?」

「噂?」

「ああ。綺麗な少女が魔獣を連れて冒険者の登録しにきたって噂されてたよ」

「そうなの」

「女ひとりで冒険者というのも大変だろう? あたいが色々教えてやるよ」

「……ゼノがいるわ」

 女一人でといわれて不機嫌そうな表情を少女は浮かべた。

『フィナ、教えてくれると言っているから教わった方がいい。同じ女性だし、色々教わりやすいだろう』

「……ゼノが言うなら」

『俺はゼノラシア。で、こっちがセラフィナ。あんたは?』

 魔獣に言われて、少女は頷く。そして魔獣が自己紹介をして女冒険者に問いかけた。

「ああ、ゼノラシアとセラフィナか。あたいは、ミラノだ」

『フィナは冒険者になったばかりだから、色々教えてもらえると助かる。俺も人の世界はよくわからないから。ほら、フィナも』

「……よろしくお願いします」

「ああ。よろしく。ゼノと「ゼノって呼んでいいの私だけだから、呼ばないで」……ゼノラシアとセラフィナは――」

 それからミラノは少女――セラフィナと魔獣――ゼノラシアとしばらく話して、明日の約束をしていた。

 少女と魔獣が部屋へと戻った後、ミラノに話しかける。

「ミラノ、あの嬢ちゃんの面倒を見るのか?」

「ああ。少し心配だしね」

 ミラノはこの街を中心にしている冒険者で、少女の事が心配なようだ。俺も心配はあったから、ミラノが見てくれるなら一安心だ。

 そう思いながら俺はまた酒を飲むのであった。





 翌日、「あの子達凄いよ!」と興奮した様子でミラノが俺に話しかけてくるのは別の話である。



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