1.転生して早120年
俺は気分よく駆けている。
走り回るのが好きだ。色々な景色を見るのが好きだ。
特にこの世界は前世と違って写真なんて便利なものもなく、交通機関も発達しておらず景色を見るのも中々大変なのである。
俺は駆けながら一角兎を見つけたので追いかけてとらえて食事をする。血の味が口一杯に広がるが、今の俺からすればそれも美味と感じる。生肉上手い。
食事を済ませるとまた駆け出す。
空を切って走る事のなんて楽しい事か。
風を身体一杯って感じて、颯爽に駆け出せるこの身体の事が俺は気に入っていたりする。
俺を見つけて慌てて逃げていく魔獣たちの姿も見える。先ほど食事をしたばかりで腹は減っていないから喰う気はないのだが、まぁ仕方がない。
四足の足で、逃げていく彼らの横を通り過ぎていく。
自慢じゃないが、今の俺は速い。びゅっと、あらゆる生物を置き去りにして走っていけるのだ。
こうして駆け抜ける快感が俺は本当に好きである。
幼獣のころから走ることが大好きで走り回っていたため、母さんに呆れられていたぐらいだ。俺の兄妹たちは俺ほど走るのが好きな走り屋はいなかった。俺が走りに行く! というと付き合ってはくれたが。
ああ、そうだ、母さんたちとは最近会っていない。
母さんがどこにいるかは知っているが、あとはそれぞれ俺のように生きているだろう。
十年ぐらいまえに兄貴にたまたま会ったが……、今度母さんに会いにいくか。
そんなことを考えながらかけていく。
ああ、本当に楽しい。
こうして地面を踏みしめて駆ける事のなんと楽しいことか!!
前世では二本足の人間の雄で、しかもどちらかというと足が遅い方だった。その俺が今こうして大地を誰よりもはやくかけていけるのだ。超楽しい。
駆け抜けながら前世の事を考える。
俺は前世の記憶を持って生まれた珍しい魔獣である。母さんも、この世界では前世もちの人族はいるけど魔獣で前世もち――しかも異世界からの転生者は珍しいって言ってた。
前世は地球って星の日本って国に住んでいた。サブカルチャー的ものが大好きだった俺は運動もせずに漫画やアニメばかり見ていたが、今の生活を思うと何故前世の俺は走らなかったのか! と思ってしまう。前世の俺は運動だるいと考える怠けた雄で、マラソン大会とかも大嫌いなインドア派だった。しかしだ、今なら思う。何故走ってこなかったのかと。こんなに走るのは楽しいのにと。
ああ、でもよく考えれば今俺が四足の足の、雷虎と呼ばれる魔獣だからこんなに走るのが楽しいのかもしれないが。
魔獣に転生して早百二十年も経ち、最初は戸惑ったものの俺は楽しく生活をしている。
しかも雷虎って高位魔獣の一種だから、脅威となる存在もそんなにいないしな。時々いるけど、まぁ、喧嘩売られても俺は全勝しているから問題はない。といっても油断をしていると死ぬかもしれないから気を付けないと。
前世は十六歳という、人間の雄にしても短い人生で幕を閉じてしまったのだ。俺は今度は老衰して、寿命を全うして死にたい。
それが俺の目標なのである。
雷虎の寿命は滅茶苦茶長いからまだまだ先だけどな。俺ってもう百二十年生きているし。
ああ、もうそれにしても走るの超楽しい。もっと、もっと、もっとはやく!
どんどん、どんどん、スピードを上げていく。
周りの景色がどんどん変わっていく。通り過ぎる際にこちらを驚愕した目で見ている人族とか居たが、まぁ、問題ない。
走るのが、楽しすぎる。
走って、食べて、寝て。
そんな生活を俺は続けている。
魔獣に転生した俺は、走りまわる充実した日々を送っている。
導入なので短め
魔獣に転生して百二十年、魔獣生活を満喫中。