コルダという男
酒場の騒々しさは、一人の青年が突如消えた後にもやむことはなかった。それもそのはず、青年を送り出した張本人たる自分が不可視の魔方をかけていたのだから。
私の名前はゼフィ・コルヴィス。いまでは名を捨て、コルダと名乗っている。はたからみれば、どこにでもいるようなただの年寄りだ。しかし、まぁ幼き頃は神童とよばれた、ただの天才魔術師だ。ただの自惚れじいさんと思ってくれてもかまわない。事実自分の能力を過信して失敗して後悔して、気づいた頃には救いようのないところまで落ちぶれたような野郎だからな……
自滅といっていいような出来事により、落ちぶれた俺はそんな人生をやり直したいと思った。その時から俺はギリギリの生活を送りつつ、自分の使える知識を最大限に利用して、なんとか寿命を全うする前に完成させることができた。
それこそ先程彼を送り飛ばしたもの、たった一度きりしか使えないが、過去へ自分の意識及び記憶を送る魔方陣。
だが、それからの私は魔方陣の行使をする、ただそれだけを行動に移すことができなかった…。
訳がわからない…
それが私のまず第一に思ったことである。何を自分が迷っているのかが、全く理解できなかった。あれほど渇望したはずなのに何故………?
そんな自問自答を日々繰り返すうちに私は、理解した。
あぁ…そうか、私は今このときを満足しているのか…
気づかなかったというよりは、気づこうとしなかったのだ‥…
私のいるべき場所はここではないと自分に言い聞かせ、魔方陣の研究に没頭した。しかし、生きていくために働かなければいけない、そのため仕事を探し、時には冒険者として狩りもした。そんななかに私は感じてしまったのだ。人々の温かさを。
結果、私は魔方陣を行使することもなく過ごした。
そして、私は出会ったのだ。全てに絶望し、それでも死にきれない臆病な青年に…
外見からして、貴族の跡取り…の失敗作、といった感じだった。無駄についた贅肉、王族や貴族以外を蔑むような考え方、そして自らがなぜ、此処にいるのかも理解してないような様子も……
まるで、過去の自分をみているようだった……
しかし、次第に青年は自ら変わり始めたのだ。
己の所行を反省し、今の状況下を受け入れ、貴族の者達がいうところの下の世界に順応し始めたのである。所々助けもしたが、青年をみて思ったのだ。
彼なら変えられる…。
そうして、私は魔方陣を青年にかけることにしたのだった。
多分私が現状に満足せずに魔方陣を行使をしたとしても未来は変わらなかっただろう、結局私はそういうやつでしかないのだ。
「よき人生を…」
聞こえたかどうかもわからないような呟きを残し、彼を送り出したのだった。