悲恋 ─煙草─
実験短編的な?
処女作です。
「煙草、やめなよ」
「やだよー。なんでやめないといけないのさー」
「君の体に悪いよ。それに煙いし」
「後半が本音だろー」
「バレたか」
幾度となく繰り返したやりとり。
君がヘビースモーカーなのは知っていたけれど、やはり心配で。
幾度も幾度も注意してしまった。
それに。
いつも持っていて、僕がいくら頼んでもやめてくれないものだから、そんなにも好かれている煙草に、子供染みた嫉妬をしていたのかもしれない。
「なーんで煙草の良さがわからないかねー」
「僕としては、なんでそんな美味くもない煙いだけの害悪を吸うのかわからないよ」
「一本吸ってみればわかるよー? お揃いしよーよー」
「前、その手で吸わされてひどい目にあったんだけど?」
「あははー。軟弱軟弱ー」
「うるさい」
君の体は心配だったけど、このやりとりはこのやりとりで、大好きだった。
「ねー」
「なんだよ」
「私があと一年の命だとしたらどうする?」
「……突然どうした?」
突然のその質問の内容と、滅多にしない真面目な雰囲気。
その二つに僕は、言い知れぬ不安を抱いたんだ。
「いやねー、なんか最近読んだ雑誌に、彼氏にその質問をしてみると、彼氏からどれだけ愛されているかわかるって書いてあったからさー」
「ふうん」
釈然としないながらも、僕はこう答えた。
「どんな手を使ってでも助けるに決まってるよ」
「……え?」
「なんだよ、挙式したり思い出作りをしたりするとか言うと思ってたのか?」
「う、うん」
「そんな諦めるような真似、僕は絶対にしたくないね。絶対に、だ」
僕の信念は、絶対に諦めない、だからね。
そう言い切ったあと、彼女に問いかける。
「で、さ」
「……ん?」
「結果は、どうだった?」
「へ? 結果?」
「うん。ほら、雑誌のやつ。君、それが聞きたかったんだろ?」
「……あ、ああー。それねー。えっとー……」
何故か口ごもった彼女。
そのあと、僕に近寄るように、しぐさで示した。
「……なにさ、まったぅぐっ!?」
キスされた。
それは、少しだけ煙草の味がして、とっても甘かった。
「な、なにするのさ!?」
「えへへー」
僕も彼女も顔が真っ赤で、そして顔がほころんでいた。
とても、幸せだった。
それから、半年と少し。
僕と彼女の関係は、少しの衝突こそあったが、それ以上に親密になり、仲はますます深くなっていた。
そんな、ある日。
僕は、見た。
彼女が、咳とともに血を吐くのを。
嫌がる彼女を強引に病院に連れていき。
僕は、彼女が不治の病にかかっていて、残り半年も生きられないことを、知った。
すぐさま入院させ、僕はありとあらゆる手を使って、尽くして、対処法を探った。
そんな僕に、掠れた声で、彼女は言った。
一緒にいてほしい、と。
なんでもするから、信念を曲げて、一緒にいて、楽しい思い出を作って、ずっと笑っていてほしい、と。
彼女の最期は、唐突だった。
僕がお見舞いに行き、帰った直後だった。
その死に顔は、……満足げで、美しかった。
彼女の葬儀を終えた後。
彼女の願い通りに笑っている、ということは無理だったけれど。
絶対に泣かないように、僕はしていた。
そんなある日。
彼女の部屋を掃除していると、彼女が良く吸っていた銘柄を見つけた。
なんとなく、吸ってみると。
「……やっぱり、煙いなぁ……」
やっぱり煙くて、少しだけ塩辛かった。
お読みくださり、ありがとうございました。