第三話 ―BLAZE―Ⅱ
中央広場には噴水がある。その噴水は、機械仕掛けだ。一虎がARで何かの操作をすると、噴水が二手に別れ、そこから地下への階段が姿を現した。
「うおー。すげー」
陽翔の口から思わず感嘆の声が上がる。
「ゲートまでは暗いし、ゲートがある所は寒いから気をつけてね」
「寒いんすか?」
必要があるとは思えない設定に、思わず陽翔が首を傾げる。
「うん。暗いのにも、寒いのにも理由があるらしいんだけど、俺みたいな中間管理職にはそんな機密事項は知らされてないよ」
「中間管理職…」
さらりとそんなことを言ってのけると、一虎は暗い地下への階段へと足をかけた。
「じゃあ、行こうか」
そう言う一虎の瞳が暗視ゴーグルのレンズのように青紫色になっているのを見咎めて、紗羅が口を開く。
「私…暗視用のアプリをインストールしていませんわ」
「ああ、俺も」
紗羅の言葉を聞いてようやく思い至ったのか、陽翔も同調する。
「ありゃ、そうなんだ」
それを聞いた一虎が頬を掻いて困った表情をした。
***
ARには様々なアプリケーションがあるが、元々搭載されているARC(拡張現実カメラ)は実は赤子には使用することが出来ない。これは、赤子がアプリケーションを操作する能力がまだないということではなく、単純に、自分の瞳に合わないからだ。アベレージで算出したデータを元に赤子に付与するAR網膜を造るため、どうしても完全に自分に合ったAR網膜ではない(勿論、富裕層はオーダーメイドしたりするが)。ネットやメッセージのやり取りは滞りなく実行できるが、ARCのように自身の瞳自体を媒介とする場合、微調整が必要になる。それには多くのチェック項目が存在し、ARCは使用頻度が高いため皆項目をクリアさせるが、現在ARC以外の、瞳自体を媒介とするアプリケーションをインストールし、なおかつ使用している人間は少ない。
***
「暗視用はインストールした後が大変なんだよなぁ」
一虎がどうしたものかと考え込む。
ゲートまでの距離はそんなに大した距離ではないが、足元が覚束ないのは危険だ。水中都市であるこの『砦』の地下に日の光が射し込むことなど有り得ないため、そこには確かな闇が存在する。自身の掌すら幾ら近づけても見えない様は、一種の恐怖を抱かせるものだ。
「………」
一虎が、時間的に今すぐインストールさせることは出来ないため、どのように対処しようか悩んでいると、おもむろに維沙弥が右腕を掲げた。
「?」
維沙弥は『第十三眷属』の一番後方にいたため、彼の行動は『第十三眷属』の方を見ていた一虎だけだった。
人差し指と中指を揃え、他の指は掌を握り込んでいる。その状態から、彼は垂直に腕を振り下ろした。
「……ん?」
最初に異変に気づいたのは陽翔だった。一虎の指示を待っている間、軽く周囲を見回していたのだ。そして、真っ暗な闇が這い出でるゲートへの道を、不意に視界に収めた。
「あれ、見える…?」
何度か目を瞬きながら、陽翔は地下を覗き込む。
「なになに?ハルくんお化けでも見えた!?」
陽翔の言葉に敏感に反応し、瞳をキラキラさせながら亜貴乃が陽翔に駆け寄る。
「は?あ、いや…」
「お、おおおお化けなんているわけないですわ…!」
「………」
紗羅が明らかな動揺を見せ、朔は顔を真っ青にして黙り込んでいる。
紗羅はなんとなく予想がつくが、まさか朔までそういう類の話が苦手だとは。本人に確認を取ってみても、きっと認めないだろうが。
「いや、お化けとかじゃなくてよ…」
陽翔が言うべき言葉を見つけられず口ごもっていると、不審に思ったらしい紗羅と朔が近づいてきた。勿論、かなり震えていたが。
そして、紗羅が気づいた。
「あら…?」
「な、なんですかっ……?」
朔はなんとか平静を装おうとしていたが、上手くいかずに声が上擦っていた。
「あ、いえ……」
そんな朔の反応を見て、先程の自分の驚いたリアクションを内省したらしい紗羅が、少し言いにくそうに口を開いた。
「急に、見えるようになったものですから…」
「み、見えるとは、何がでしょうっ…?」
「え、あ、申し訳ありませんわ。言葉が足りませんでした。急に、暗い地下がはっきりと見えるようになったんですの。ねえ、陽翔さんも同じですわよね?」
「ああ。今ちょっと確認してみたけど、どうやら暗視用のアプリがインストールされて、勝手に起動してたみたいなんだ」
「そうなんですの?」
「ああ」
「………」
陽翔と紗羅の口振りから察するに、二人は今自分のAR網膜に起こったことがどれ程の大事件か分かっていない、と一虎は思った。どうやら二人は、これは『砦』の仕様だと思っているようだが、『砦』にそこまでの個人のAR網膜へのアクセス権限はない。ましてや網膜に直接関係する、調整が必要なアプリケーションを一瞬にして調整することなど不可能だ(これは、二人が視界に不具合を訴えていないことから判断出来る)。
「……オーパーツ」
その時ふと、亜貴乃が呟いた。核心を突いた発言だったが、言葉を発した彼女自身はとてもぼんやりとした表情をしている。
(……オーパーツか)
先日、則継が言っていたことを思い出す。
『制限のない』AR網膜。
(だけど……)
一虎はちらりと朔を見やる。
(『制限のない』AR網膜が誰に付与されているかは不明とはいえ、彼女に与えられているとは考えられないな…)
詳しいことは興味がないため知らないが、彼女には『闇』が纏わりついている。しかもそれは彼女自らが背負ったものではなく、誰かから無理矢理背負わされているように感じられる。つまり、彼女はやや『二条家』の傀儡と化している部分がある。それは恐らく『二条家』の『教育』なのだろうから、彼女が上に立つ人間とは思えない。それでなくとも『二条家』での女性の地位は低い。
そこまで考えて、一虎は維沙弥を見やった。彼が腕を軽く振った後、二人のAR網膜に変化が生じた気がしたからだ。
(でも、維沙弥は『二条家』の人間じゃないしなぁ…)
もう一度朔を見てみると、先程までの動揺など一切感じさせない真剣な顔つきで、何やら考えごとをしている。恐らく彼女も一虎と同じことを考えているのだろう。いや、彼女は『二条家』の人間なのだから、もしかしたら一虎より真実に近づいているかも知れない。
(ただ…)
一虎は左上に表示されたデジタル時計を見た。
(もう訓練開始時刻まで少ししかないんだよな…)
無視出来ないし、してはいけない案件が目の前に浮上したが、とりあえずそれは脇に置き、一虎はゲートに行くことに意識をシフトした。
「……それじゃあ一旦ゲートまで行っちゃおうか」
全員が暗視用アプリケーションを起動したのを確認すると、一虎は地下への階段を降り出す。そして、ここでまた一つ、新たな疑問が鎌首を擡げた。
(……そう言えば。維沙弥と朔があらかじめ暗視用アプリをインストールしていたのは分かるけど、じゃあ亜貴乃は…?)
反応を見る分に、彼女は最初から暗視用アプリケーションを所持していたようだ。別に、『砦』に来る前から所持していても、暗視用アプリケーションの必要性に気づき、自らインストールしていても、おかしくはない。ただ…。
(亜貴乃のプロフィールを見る分に、彼女の今までの生活でアプリが必要だったとは思えないし、彼女は機械操作が不得手なようだから、一人で設定出来たとは考えにくい…)
あと考えられるのは、亜貴乃が『砦』の誰か(彼女と接点があるのは一部の人間だけのため、恐らく直ぐに人物は特定出来る)に設定してもらったか、『砦』に来る前に誰かにインストールしてもらったことがあるのか、だ。だが前者は、それなら何故、恐らく接点を持っている人間がほとんど同じである陽翔と紗羅がアプリケーションをインストールしていないのかが謎であるし、後者は前述の通り、今までの彼女に暗視用アプリケーションは必要なかったはずであり…。
(駄目だ。全然分からないな。出来る限り固定観念は持たないようにしてるんだけど…)
『第十三眷属』は謎だらけ。
これで総て片付いてしまいそうで恐ろしい。
一虎が更に思考の海に沈もうとした時、陽翔が感嘆の声を上げたため、意識を一気に現実世界に引き戻された。
「すっげー…」
「ええ…そうですわね……」
陽翔と紗羅が口々に賛美を述べる。
「うおおおおお…神秘的!」
亜貴乃が目を輝かせる。
(ああ、着いたのか)
三人の声を聞き、一虎は視線を上げた。
目の前には、美しい深海の色をした何個ものリングが様々な角度で幾重にも交差し、そのリングに取り囲まれるように、中央にリングよりやや薄い蒼の球体が浮いていた。
それは光のない地下で神秘的な輝きを放っている。
これが、ゲート。
***
このゲートは念じた場所へのテレポーテーションを可能にする。何故テレポーテーションが可能なのかは、現時点では解明されていない。判明しているのは、この技術も『七条家』の技術だということ。ただし、このゲートは『七条家』が実現したわけではなく、理論上証明されたデータを元に、『九条家』によって完成された代物だ。その『九条家』でさえ、接収したデータに記載された手順をそのまま踏んで製造しただけであり、原理を理解していたのは『七条家』だけである。
***
(ゲートには凄いお世話になってるけど、原理は分からないんだよなぁ…)
一虎はこのゲートを見ると毎回そう思う。最近までゲートの技術を開発したのが『七条家』だと知りもしなかった。今の地位に着き、アクセス権限が上昇したことで知り得た情報だ。
(まあでも、確かにこんなものを造れちゃうなら、『制限のない』AR網膜を造ることなんて造作もないんだろうなぁ)
目の前の美しいゲートをぼんやりと眺めながら、一虎はそう思う。すると、視界の端で誰かの身じろぎを捉えた。なんとはなしに、振り返ってみる。
「……維沙弥?」
見てみると、維沙弥が僅かに眉を顰めて口許を手で覆っている。
「………」
維沙弥は一虎の声に気づかなかったようで、ゲートを見つめたまま、独りごちた。
「……気持ち悪い」
「気持ち悪い……?」
一虎は維沙弥の言葉を反芻した。すると、維沙弥はハッとしたようにこちらを見た。
「……視えないのですか」
「?だから何が?」
「いえ……」
一虎の言葉に思うところがあったのか、維沙弥は『しまった』というような顔をした。
「……『今のところ』、害はないようなので…視えないのであらば、大丈夫かと」
それだけ言うと、口を閉ざす。彼に何が視えたのか、それを語る気はないようだ。
(……?まあ、気にしなくて大丈夫なら、いいんだけど…)
ただ、あれだけ気持ち悪そうにしていたのだ。なんだか嫌な予感がする。
「どーしたの?いさやん」
その時、維沙弥の動揺を敏感に察知した亜貴乃が声をかけてきた。
「………」
維沙弥は、また『しまった』とでも言いたげな顔をした。亜貴乃には、何か読まれてしまうと思ったのだろうか。
「………」
維沙弥の顔をまじまじと見つめた亜貴乃は、感じたままを言葉にする。
「なーんか、『綺麗な桜の下には屍体が埋まっている』って感じ?」
「………」
亜貴乃の言葉に、維沙弥は瞳を閉じただけだった。しかし、それは肯定の沈黙だった。
(『綺麗な桜の下には屍体が埋まっている』…?聞いたことはある都市伝説だけど、それがゲートと何が関係するんだ?確かに、ゾッとするくらいゲートは綺麗だけど……)
「……佐内大佐、時間はいいのですか?」
維沙弥と一虎の会話を傍観していた朔が口を開く。時間を確認してみると、確かにそろそろ出発しなければならない。
「そうだね。それじゃあ――」
一虎が号令をかけようとした時、一虎の耳にノイズが聞こえた。
――ザザッ
「……ん?」
どうやら通信機能が反応しているようだが、これ程までのノイズに遭遇したのは初めてだ。今起動しているのは『砦』の者が使う通信機能であり、通常の通信機能より感度が高く、ノイズになりにくいはずなのだが。
《――……さ、大佐……族が突然…走し……険です!そのま……ッ!!》
「……どうした?おい?」
ノイズが酷く、誰が喋っているのかも判然としないが、恐らく何かを必死に伝えようとしている。しかし、ほとんど何も聞き取ることは出来ない。
《――……とにか……大佐だ……》
更にノイズは酷くなり、一虎は思わず顔を顰めた。
刹那、通信が遮断される。まるで何かにジャミングされているかのように。
――ブツンッ
「おい?応答しろ、おい!」
その言葉を最後に、実地訓練を行う場所に先行していた翔の通信は途絶えた。幾ら呼びかけてみても全く応答はなかった。
「ッ」
「非常事態ですか」
維沙弥が冷静な瞳で一虎に問うた。
「ああ…」
直ぐに一虎は思考を巡らせる。途切れ途切れに聞こえた翔の言葉を類推する。
《――……さ、大佐……族が突然…走し……険です!そのま……ッ!!》
(多分最初は『佐内大佐、「烏合族(Dusk)」が突然暴走して危険です』だな。次に『そのまま』って言ってたんだろうけど、そのまま、なんだ?待機か?)
《――……とにか……大佐だ……》
(『とにかく佐内大佐だけ』…か?俺だけ来いという意味か?)
発信源を特定しようとしたが、いつもは通信する時に表示されているのだが、今回はそれが表示されていない。
本当に、ジャミングされているようだ。
(『砦』の通信機能をジャミングするなんて…)
一瞬、一虎の頭に『アクセス制限のないAR網膜』のことが浮かぶ。
(『砦』と敵対する存在が完全版AR網膜を付与されている……?)
だが、これには矛盾点がある。『砦』と敵対関係にある『条家』は数多あるが、『条家』と『裏条家』には『共通の敵』である『烏合族(Dusk)』がいる。もし、最悪の場合、『烏合族(Dusk)』に味方する『条家』がいるのだとしたら、重大な反逆行為だ。
(……『条家』に裏切り者がいたとしても、それは『二条家』以外には有り得ないよな)
何せ『二条家』だけが、完全版AR網膜を所持し得るのだから。
そう思うと、朔がこの場にいることがスパイ行為にしか思えなくなってくる。
「………」
そこまで考えて、一虎はふと、一つの可能性に行き着く。
(このジャミング……まさか、『烏合族(Dusk)』がやってる…なんて言わないよな)
考えてみたが、それはとても恐ろしい可能性だ。『条家』に裏切り者がいるかも知れないというのと同等か、それ以上には。
(……とりあえず、実地訓練の場所に行ってから、考えよう)
「……皆、中止になるかも知れないけど、実地訓練の場所に行くよ」
それだけ言うと、一虎はゲートへと歩を進めた。
「……え?」
その直後、一虎は二つの意味で驚愕する。
>>>
美しく輝くゲートに向かって突き進む。リングに激突するのでは…という手前で、激しい閃光が目を貫き、一瞬視界が歪んだ。と、思ったら、次の瞬間には、もう実地訓練の行われる、周りを森に囲まれた草原に到着していた。
「………ッ!!」
陽翔は、息を呑んだ。それは、ゲートの能力を思い知ったから。
――ではない。
視界がクリアになったと思った瞬間、彼の耳を擦過音と『緋』の軌跡が通り過ぎたからだ。直後、連鎖反応のように更なる紅が噴き上がる。
温血が、陽翔の顔に飛沫く。
陽翔の目の前で、病人服のようなものを着た男性が、硬直する。
「………」
陽翔は驚愕に目を見開いたまま、ぎこちない動きで後ろを振り返る。
そこには、至極当然のことをしたとでも言いたげな、無表情の維沙弥がいた。彼の腕は何かを投擲したのか、伸びている。
「………」
改めて、眼前に視線を戻し、現実を見つめる。
男性の口を貫き、後頭部から、維沙弥の武器である美しい日本刀が、脂を含んだ血液を纏わりつかせて飛び出している。
血液を浴びた刀身は、歓喜するように脈動する。
陽翔が男性を見つめていると、背後から草むらを踏む音が聞こえ、維沙弥が歩いているのだと気づいた。そして、彼が何をしようとしているのかも。
「――……止めっ」
とっさに陽翔は腕を伸ばして維沙弥を止めようとするが、彼はするりとそれを躱すと、男性に突き立てた日本刀の柄を掴み、なんの躊躇いも見せずにそれを引き抜いた。
日本刀を引き抜かれた男性は硬直した筋肉をそのままに、大量の血を噴き出させながら、抜かれた勢いで前のめりに倒れる。
誰にも受け止められなかった男性は地面に臥し、顔面の周辺に血の水溜りを形成した。彼が絶命していることは、明らかだった。
(死んだ…。目の前で、人が、死んだ……。殺された……)
「――維沙弥ッ!お前…!」
陽翔は瞬間的に頭に血が上り、維沙弥の胸倉に掴みかかる。
「なんで殺した…!」
「………」
陽翔の怒りに、しかし維沙弥は無感動だった。背筋が凍るような冷えた瞳で陽翔を一瞥すると、視線を左にずらす。
「……?」
維沙弥の視線につられて、陽翔は維沙弥の視線を追いかけた。
「……佐内大佐!ご無事でしたかッ」
息も絶え絶えに走ってくる、翔の姿を捉えた。
「……ああ。今のは一体…」
「本日の実地訓練で使用する予定だった『烏合族(Dusk)』、計十体が突如暴走を始め、只今『リアクト』で交戦中です。しかし、一体が現場を逃走、ゲート出現予定地に向かったため、ご報告しようと通信を試みましたが、強力なジャミングが発生しておりまして…」
「なるほど。大体の事情は分かった。さっきの途切れ途切れの通信は、翔だったのか」
「はい」
そして、ここで翔は、足元に転がる『烏合族(Dusk)』の屍体を認める。
「この裂傷…始末したのは佐内大佐ではないのですか?」
「ああ。維沙弥が、な」
それを聞いた翔は、驚いて維沙弥を振り返る。
「澄丈、よく分かったな。これが『烏合族(Dusk)』だって」
「恐縮です」
維沙弥が発した言葉は、それだけだった。
今までの話を聞いていた陽翔は、唖然として、維沙弥を掴んでいた手を離す。維沙弥は片手で服装の乱れを直した。
「維沙弥、その……悪い」
きまりが悪く、維沙弥の顔を直視出来ない。彼は、ここにいる総ての人間を救ってくれたのに。
「気にしてない」
維沙弥はそれだけ言うと、また視線を左に移す。いつも口数が多い方ではないが、今は口数の少なさに加えて言葉自体が短くなっているような印象を受ける。
「維沙弥……?」
左を向いたまま微動だにしない維沙弥に、陽翔が声をかけた、その時だった。
「ああああああああああああッッ!!」
形容すると、こう言っていたように聞こえるような。酷く潰れた、聞いた者の心を削り取るような絶叫が、森の方から轟いてきた。
――来る。