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フリーター 田仲 後

 フリーター田仲 前の後書きにちょっぴり小話追加(H26.7.6)

 相打ちすら覚悟していたが、田仲は辛うじて生きていた。


 随分と昏睡状態だったが、幸いというべきか、身体機能に障害はないだろうということだ。


 病院代に青ざめた田仲だったが、どうやら看護婦の話だと、田仲が救った――――というのは若干、語弊があるかもしれないが――――あの親子が支払ってくれたらしい。


 頑丈に産んでくれた両親に感謝しながら、アパートに久々に戻ってみたら、中は荒らされたかのようにぐちゃくちゃになっていた。


 荒らされたかのように、ではない荒らされたようだ。


 テレビ、パソコンから始まり、金目のものは何も残っていなかった。


 一時期、中心部は逃走する人々で大混乱を起こして、スーパーやコンビニなどに暴動が押し寄せてきた事もあったらしいと、病院で聞いた様な気がする。


 意識が戻った後も暫くの間は病院は戦場のようで、どこかしこで空の魔法陣の話で持ち切りだった。


 だいぶぼやけた記憶を掘り起こすと、そういえば、家の鍵をかけていなかったような気もするし、無論バイクは大破しているし、財布に入っている程度の金では実家にも戻れない。


 帰るだけで万札が飛ぶようなど田舎だ。

 しかも、実家方面の公共機関の交通は麻痺して、復旧の目途が立っていない。

 

 せめてカード類が割れてなければなんとかなっていたかもしれないが、ほとんど田仲には何も残っていなかった。


 仕事は無断欠席で、とっくに首になっていたし、家賃も滞納している。

 

 事情を告げたら、仕事はダメだったが、家賃は待ってくれると大家が言っていたが、それもなんとか二か月だけで、結局は追い出された。


 辛うじて新たなバイトを見つけたが、更なる悲運が田仲を襲う事になる。




「いってぇえ!」




 ばちん、と太いゴムを伸ばして弾いた様な音と共に僅かに青白い光が走り、田仲は指先を抑えた。


 とても静電気とは思えない音だった。 

 威力も相当なもので、暫し指先が痺れて動かないほどだ。


 やべ、と焦った時には遅く、触っていたパソコンの画面が真っ暗になり、何度電源を入れてもなんら反応は無い。




「………田仲くん」

「いや、まってください!俺、別にっ!」




 弁明も空しく、二代目のパソコンをおしゃかにした田仲には無慈悲に首が言い渡された。


 もう田仲は、今月に入って三度もバイトを転々としている。

 

 退院後から、今まで無縁だった静電気体質になっていが、時折何かを切っ掛けに、火花すら見えるほどの静電気が発生し、バイト先々でありとあらゆる電化製品をショートさせていた。


 当然、そんな店員を雇う所などなく、一週間ほどで何かしら壊して、首になっていた。


 最初は鋭くはない田仲も意味が分からなかったが、さすがに漫画喫茶のシャワー室で湯を浴びていた時に痺れまくった事で、異常事態に気が付いた。


 この時は、まだ異能は噂程度ではあったが、多少インターネットで情報が拡散していた。


 しかし、インターネットが触れられない田仲は異常な帯電体質が異能であるとは気が付きもせず、バイトを転々とする日が続いた。


 ありとあらゆる静電気防止グッツを試したが、ほとんど聞かない。


 様々なモノを試し、ようやく手ごろな低圧用の絶縁手袋というものを入手して、人並みの生活を送れるようになったが、手袋をしたままのアルバイトを誰が雇うのか。


 時々、あまりにも強い静電気が起きると、しばらく眩暈やら起き上がれないこともあるほどだ。

 酷い時には身体が動かなくなったり、気絶したことすらある。


 実家に帰るタイミングを失い、田仲は生活を立て直せぬまま、慣れぬ土木関係の日雇いの仕事を探し、漫画喫茶で転々とした日々を過ごした。



 確かにあの日、魔法陣が現れてからから、田仲の人生は変わった。

 驚くほど悪いと思われる方向へ。


 どん底というのはこういうことをいうのだろう。


 何もない日に絶望していた日々が懐かしい。


 食べるのにも住むのにも困らない、何もない日がどれほど幸福だったかをようやく知った。


 時々、思い出したかのように魔法陣を見上げたが、光り出しても、田仲は二度と興味本位で足を向けることはなかった。


 あの時の事は幸運であり、二度と起こることはあるまい。

 やはりは田仲は死にたくはなかったのだ。


 そんな日々が、どれほど続いただろう。




「田仲学生様でらっしゃいますか?」



 

 田仲と同じくらいか幾つか年上であろう、中々の整った面立ちの女性が話しかけてきて、『ふへい!』と、静かな漫画喫茶で思わず声を上げた。


 久々に女性と話したせいか、驚くほど田仲は焦った。

 物腰は柔らかいが、女性の持つ仕事のできる人間特有の空気のせいかもしれない。


 おまけに、自分は現在人とのかかわりすらほとんどなく、仕事が切れた田仲は風呂もほとんど入っていないし、服はヨレヨレ、髭はボウボウ、浮浪者ではないが不審者には違いない。


 女性も奇声に驚いたようだが、優しい瞳で微笑みを浮かべて、名刺を差し出し、自己紹介をした。 

 


 

「私は、SFD人材発掘部隊【コスモス】の佐崎百合香と申します」




 SFD――――立ち上がって大分たつので名前は知っていたが、人材発掘部隊というのは聞いたことがなく、問うとまだ立ち上がったばかりなのだという。


 スカウトされ、田仲は己の【異能】を理解した。



 すとん、と田仲は納得した。



 ああ、この尋常ではない静電気体質は【異能】だったのか、と。


 正社員として――――しかも、半公務員のようなものだ――――職業につけるのはありがたいが、反面、あの時のように身を挺して人を守るというのは躊躇われた。  


 田仲は痛いのだって嫌だし、やはり死にたくはないのだ。


 悩みはしたが断り、また日常へと戻るはずだったが、佐崎は住処の漫画喫茶を何度かえても、やって来て、戦闘職につかなくてもいいので考えてくれないかと頼み込んできた。




「別に俺じゃなくても」

「いいえ」




 田仲自身、自分が居なくなっても世界になんら影響はないと、良く分かっている。


 しかし、佐崎はきっぱりと言い放った。




「貴方は弱いかもしれません。ですが人にない勇気があります。少なくとも、私は知っています。だからそれを腐らせずに、SFDで生かしてほしいのです」



 

 いつも田仲に向けられる佐崎の双眸は暖かく柔らかいが、この時は何か思い出す様に両目を瞑った。

 ゆるりと目を開いた時には、どこか泣き出しそうな顔で微笑んでいた。 

 

 自分の何をしっているというのだ―――――田仲の瞳がそう語っていたのか、沈黙の後に、佐崎は『私には年の離れた姉がいます』と唐突に告げた。




「姉は5歳年上の職場の同僚と22歳で結婚しました。恋愛結婚で、それはもう姉夫婦ときたら、砂糖を吐くほど甘い雰囲気で、子供はサッカーできるぐらいとか……だけど、1年過ぎても、3年過ぎても子供ができなくて、姉が27歳の検査したら、医者には子供ができにくい身体だと」




 その後は、姉は大変でした、と佐崎は苦笑した。


 唐突に始まった身の上話に、田仲はどう反応していいか分からずに、眉根を寄せるが、おっとりと話す佐崎が珍しく、早口でしゃべるので遮ることもできず。




「義理兄と別れると、いえ、義理兄が姉と別れるわけなかったんですけど、姉は大変まいっていて、家族全員で支え続けて、36でようやく子供ができたんです。私が名前を付けたんですよ?未熟児でしたし、もう子供は望めないと姉は言われましたが、姉は何日も泣いて喜びました。それでも姉の子は元気に育って、7歳の誕生日にプレゼントを買いに街に出かけ、その時、第一波に遭遇しました」




 話の終着点が何処に向かっているのか、気が付いて、田仲が目を見開く。



 ――――――なんと狭い世の中なのか。



 田仲が気が付いたことを察したのか、佐崎が見惚れるほど穏やかな微笑みを浮かべた。




「二人は逃げましたが離れ離れになり、あまりの人込みに姉は転倒して足を捻挫していて。姉ですら、子が死んでしまうと思っていたようです。ですが姉はヒーローに会いました。震えて裏返った声を上げて自分だって怖いだろうに、姉の子から注意を反らすために、二度も―――――本当に勇気のある人でなければできません」




 たぶん違う。

 あれは勇気じゃなくて、唯の無謀だったのだ。


 もうどん底の田仲ではあるが、あの時の行動が、少しでも誰かの役に立てたのだと、ほんの少しだけ―――――田仲は自分を誇ってもいいのだろうかと思った。


 世の中に捨てられたように生きる田仲にとっては、温かな光にも感じた。

 が、やはり死にたくないという感情を捨てられもしない。




「――――――少し、考えさせてくれ」




 そういって田仲は、佐崎が帰った後、あの日の事も何度も思い出していた。


 


 + + + 




 後日、田仲の元に現れたのは佐崎ではなかった。




「ねぇ、お兄さん」




 道を歩いている時に、声を掛けられたようで、田仲は振り返った。

 田仲からすれば随分と年の若い少年だが、見覚えはない。


 深くかぶられたフードの中の顔は殆ど見えないが鼻から下の顔立ちでも、17前後といった所だろうか。


 まだ少し高い声で、なんとなく高校生ぐらいだと思った。



 晒された口元がシャチネコみたいに弧を描いているのが、少し不気味だった。



 一瞬、随分と年上なのに、うだつの上がらない惨めな自分の姿を笑われているのかと思ったが―――――その少年の目に、ぞわりと、肌が泡立った。


 ちらりと見えた底知れぬ真っ黒な双眸は、絶望的なほどの虚無を映している。 


 


「こんな『くそったれな世界』、守る価値なんてないと思わない?」




 ざわっと、心が騒めいた。


 なぜか同時に、確信もあった―――――この少年は、間違いなく【異能者】だ。

 それも、格段の能力差があるのだろう。


 田仲の死を連想させるような圧倒的な差、という形で。


 少年から一歩下がったのは恐怖からだったのか、別の何かを感じ取ったのか田仲自身にもわからない。




「お兄さんは恨んでないの?人助けしたのに、その報いは浮浪者生活だよ?」




 皮肉だね、と呟いて、何が可笑しいのか、あはは、あははと肩を揺らして笑っている。


 まだ浮浪者じゃない、という言葉は飲み込んだまま、田仲は沈黙し、不思議と傷口にしみる様に入ってくる少年の痛みを伴う無邪気な言葉に、考え込んだ。


 まさしく、その通りだ。


 哀れを通り越して、皮肉でしかない。




あっち(・・・)よりも、こっち(・・・)に来なよ。今のお兄さんの目、僕は好きだよ」




 甘ったれていた昔とは違い、本当に世界の仕打ちに対して絶望し、きっと自分の目は少年と同じような色をしているのだろう。


 なんとなく、少年も待っている(・・・・・)のではないかと、田仲は思った。

 それは昔の田仲とは違い、力を有して、世界に対して反逆の時を伏して、待ちわびているのだ。


 たぶん少し前の田仲なら、きっと少年の手を取っていただろう。


 だけど。 



 ―――――貴方は弱いかもしれません。


 ―――――ですが人にない勇気があります。


 ―――――私は知っています。



 脳裏に反芻する柔らかな佐崎の声に足を止めて、苦笑した。


 この世は田仲に対して、雷に打たれたような明瞭な天啓も、他の誰でもない自分にしかできない使命も、魂が燃え尽きるほどの情熱も、与えてはくれなかった。


 当然だ。


 田仲は探しもしなかったし、従順な飼い犬のように待っていただけ。

 必死になって探すことも、選択することもなかった。


 しかし、少年に会ったことで、明瞭に田仲はずっと逃げ続けてきた現実というものを選択した。




「――――――悪いが、俺には先約があるんでね」

   



 ばちんっ


 手袋を脱いだ手には、田仲の意志をくみ取るかのように、明瞭な青白い火花が散った。


 この少年に適わぬかもしれない。

 鋭くはないが、決して鈍くない田仲が、自分の【異能】が持つ、ある種の危険さを理解していないわけではないのだ。


 時間だけは彼にたっぷりとあったから。


 電子機器に囲まれた世界で、どれほどの影響力があるのか。

 強固なセキュリティに守られた重要施設に、侵入するのはどれほど楽だろう。


 たぶん少年の前では、子犬の威嚇程度にしかみえないだろうし、田仲は少なくとも一矢報いれるかもわからない。


 少年は目を丸くして、あはは、あははと、楽しそうに声を上げて笑った。




「でもさ……きっとお兄さんは、こっちに来るんじゃないかな」




 変わらぬ口調で、呪詛のように吐き出す。


 意識していなかったが、まるで拒否するように再び田仲の手は、青白い光を激しく迸らせた。


 今までになく強く、激しい電撃の筋すら見えるほど―――――田仲自身も驚きはしたが、余裕な姿を崩さぬように笑って見せた。



  

「じゃあ、またね(・・・)、お兄さん」




 周囲の人間が眩い閃光に、ざわざわと騒ぎ、二人とも注目を浴びだすと、少年は目深にフードをかぶり直して、人込みに紛れて消えていった。


 反対側の人込みの中から、慌てた様子の佐崎の姿が目に入り、虚脱と共に田仲の意識は遠のいた。




 目を覚ました時、何処かの病院のベッドの上だった。




 隣で祈る様に手を握りしめていた佐崎がいた。

 こちらを見つめる双眸には、うっすらと涙すら溜まっているように思えた。


 何と言っていいか分からないのか『よかった』と幾度も呟いて、さらに強く佐崎は田仲の手を握りしめ、長い沈黙が訪れた。


 スカウトの話、まだ有効ですか?と田仲が問うと、弾かれたように佐崎が顔を上げた。

 

 

 異能発生者:田仲 学生 Case:JP2-049

 異能脅威ランク:D+【20××年5月7日改定版ランク】

 異能:放出系統・電撃(通常の放電ではなく原理不明。能力限界値に達すると失神)

 異能経緯

 第一波に手負いの魔物(フォルズ)角狼ホーンウルフと交戦。

 重傷だが後遺症なく生存、民間人二名を救出。 

 人材発掘部隊【コスモス】職員C33にて、勧誘成功、SFD戦闘部隊【アイリス】に配属。

 勧誘前に■■■系統■■の異能脅威ランク■である【■■■】の一人■■■との接触有。

 ――――――A級機密保持事項につき、以下閲覧不可。

 今後監視体制に人材発掘部隊【コスモス】職員C33より強化要請有。

 監視体制LV3まで引き上げ決定。

 備考欄

 【20××年11月9日追記】

 SFD日本支部の特殊施設にて総合格闘技取得。

 射撃の腕はD-。異能の恩恵はなし。

 放電体質の制御に不安有。機械類との相性最悪。

 【20××年6月1日追記】

 SFD戦闘部隊【アイリス】で四度の戦闘経験を経て、異能脅威ランクF+からDへ。

 放電回数一時間につき、3度可能。最高計測4万ボルト。

 【20××年2月24日追記】

 SFD戦闘部隊【アイリス】で四度の戦闘経験を経て、異能脅威ランクDからD+へ。

 放電回数一時間につき、7度可能。最高計測11万ボルト。

 【20××年2月24日追記】

 ■■■系統■■の異能脅威ランク■である【■■■】の一人■■■との再度接触。

 人材発掘部隊【コスモス】職員C33の負傷により、【■■■】の■■■と戦闘。

 能力を狙われている可能性があり、警戒態勢LV4まで引き上げ決定。

 同時に人材発掘部隊【コスモス】職員C33の警戒態勢LV2へ。

 ――――――A級機密保持事項につき、以下閲覧不可。

 【20××年7月19日追記】

 分隊長昇格。通称【雷帝】の二つ名にて、分隊別名【タナチュウ】。




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