20××年、開門
『―――――らの降水確率は20%、気温13度前後、空門開門推測時間17:35前後、魔物発生確率30%となっております。特に雪豹系統の落下が多いでしょう。皆様、近所で魔物を発見した場合は瀕死の重傷であっても近寄らず、即座に空門落下物対応署、777番にお電話を。次は、本日の星座占いランキングです、今日はどの星座が―――――』
20××年5月17日、朝8時24分。
上空に出現したのは、空を覆うほどの魔法陣だった。
幾つかの模様と、一見模様にしか見えない事細かに描かれた文字らしきもので構成された巨大な魔法陣。時間をおいて出現した小振りな魔法陣が重なり、囲むように右回りに六つほど現れた。
雄大で圧倒的な姿は、空に咲く華。
されど、形成する線が漆黒であるがためか、澄み渡る青空を切り裂いているようにも感じられた。
推計ではあるが円の直径140㎞ともされており、茫然とした市民に対して上空の魔法陣は輝きだし――――それは開門はした。
時刻は市民の勤務時間とも重なり、朝の8時54分。
魔法陣が現れてから30分後の事で、青天の空の魔法陣の光の中に黒い影。
後に学者たちに魔物達と呼ばれる害意的な地球外生物が出現し、地上を目指して落ちてきた。
大事な事なので、二度明記しておこう。
そう地球上の生物とは思えない角の生えた狼みたいな魔物達が咆哮を上げながら、落下し――――――――ほとんど死亡した。
それもそうだろう。
魔法陣は大凡200メートル上空にあり、そこに出現すれば重力に従って落下する。
空気抵抗はあるだろうが、よほどの幸運か、生命力ではなければ、大体ビルの高さにして30階ぐらいから飛び降りて生きてはいないはずだ。
後に第一波と呼ばれる開門でやってきた角の生えた狼的な何かは浮遊能力を持ち合わせていなかったし、翼もなかった。
設置された魔法陣は痛恨のミスなのか、それとも人為的なのか、天地逆さまだったのだから。
魔物達は常に背中から落ちてくるのだ。
飛空系等の魔物達ですら一部は、体勢を立て直せずにビルに当たり死ぬことすらあった。
それでも、なんの備えもなかった人類の被害は大きかった。
どこぞのビルの屋上を突き破ってなお生き残った角の生えた狼的な何かの最後の大暴れにより、被害は死者7名、重軽傷者42名。走行中の車に落下し事故が発生したり、電線が切れ一部の区域の停電などの二次被害は相次ぎ、一時被害の5倍以上。いつもとかわらぬ日常が一昔前の映画みたいにパニックと化したのはいうまでもない。
波紋のように広がった被害は数知れないが、問題はその後だ。
地球外生命体にしろ、異世界人にしろ、魔法陣は上空に居座ったまま、消えることはなかったのだ。世界中の研究者、科学者が原因究明に努めたが、芳しい成果は上がず。
それは仕方のない事だったが、さらに問題も発生した。
魔物の落下被害に合い、第一波の魔物に関わった十数名という一握りの人間である。
たぶんもっといたのだろうが、国が正確にわかっているのはその程度だ。
とあるビルのオフィスで暴れまわった瀕死の魔物に対し、応戦し勝利したサラリーマン。
本当に偶然落下した魔物を自動車でひき殺した主婦。
どこぞに当たってワンバンドした魔物の下敷きになり、瀕死の重傷だったが奇跡的に生き残った高校生。
この平凡ともいえる三人に現れたのが、明瞭な『異能』であった。
サラリーマンは成人男性を軽々と片手で持ち上げるほどの力―――――筋力強化を。
主婦は超能力とも呼べる鉄を操る――――金属操作を。
高校生には、瀕死の重傷が5日ほどで直るほどの自然治癒―――――回復能力を。
警戒態勢の中、第二波、第三波と魔物続くたびに、魔物と自力で交戦した者達の中で『異能者』の出現率は高くなり、国は彼らの保護し、そして新たな特別な警察官として雇用した。
異能にて、魔物と専門的に戦う警察官。
空門落下物対応署――――通称SFD。
時間を追うごとに人類は新たなる脅威に対し、防衛を学んだ人類は反撃とまではいかぬが、凡庸な日常を取り戻しつつあった。
この物語は、戦闘の最前戦でSFDが日本の平和を守る活躍を描く――――事はあんまりなく、SFD入隊するまでの一幕だったり、魔法陣の下で生活を続ける市民たちの他愛のない物語だったりする。