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ラルム  作者: 霜月なのか
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理由②

「・・・・先日、両国からの使者が書簡を持ってきた」


アルフレッドが手に掲げて見せたそれは、豪奢な二通の封筒。


「ぜひ、サラスティア王家に連なる者の中から自分の国の皇太子の妃候補として後宮に入ってほしい、とのことだ」


「後宮に?」


鋭いカラートの声が上がった。

アルフレッドはカラートを見た。

失言を、とカラートは頭を下げたが手が震えている。

愛娘であるミスティアを溺愛し、正しく手中の玉よと育てているカラートにとっては愛娘を後宮に入れるなどと夢にも思わなかったのだろう。

黙ってアルフレッドを見つめるダリウスの瞳にも困惑と怒りの入り混じった色が見える。

両者の気持ちは十分に理解できる。

だから、このあとアルフレッドが言わなくてはならないことは二人を絶望させるかもしれない。

むしろ当事者である二人の少女には荷が重すぎるだろう。

そう思うとアルフレッドはやるせない気持ちになった。

しかし、王である以上自分が言わなくてはならないのだ。


「最近のクラストとルルタスはほぼ冷戦状態になりかけているらしい。表面上は穏やかに見せているが、内情はかなり深刻だ」


書簡をもらってからアルフレッドはすぐに内偵を放ち両国の内情を調査させた。

時間も無かったために王宮に入り込むことは出来ず、詳しいことは分からなかったが

両国間での貿易はほとんど行われず、町では自国を正当化し、他国を批判する雑誌が出回っていた。


「下手をしたら戦争になるかもしれない」

「戦争!?」


がたん、と椅子が後ろに倒れた。

ミスティアが急に立ち上がったためだ。

美しいバラ色だった顔色は今は哀れなほどに青ざめている。


「そんなっ戦争なんて・・・」


ふらりと足元をおぼつかせるミスティアをローゼスは立ち上がって支えた。

ミスティアはその肩にすがりついた。肩は震えていた。


「陛下、なぜ、戦争になる可能性があるのでしょうか。ただの貿易摩擦ではないのですか?」

「国の利益、というものがある。もともと我が国の周りにはあの2か国しかない。それは向こうとしても同じこと。このあたり以外の国はあまりにも遠すぎる。外交もほとんどない。我々にとっての世界とは、サラスティア、ルルタス、クラストで成り立っているようなものだろう?」 

 

 アルフレッドはいつもローゼスに向けるような優しげな口調で話しかけた。


「より、多くの土地や財産を望むのは当たり前の事だ。どちらが先に仕掛けたかは分からないが、それには他国の土地と財産を奪うのが手っ取り早い。貿易摩擦を戦争の火種にするつもりなのかもしれない」


そして、とダリウスが口をはさんだ。


「サラスティアは軍事力が低い。もし、戦争になりルルタスかクラストがどちらかの国を制圧したら、サラスティアも一緒に簡単に制圧できる」


そうしたら、ある意味世界を牛耳るようなものだ、と吐き捨てるようにつぶやいた。

それを聞いてミスティアが涙を流した。


ローゼスは涙は出なかったが事の重大さを理解する毎に寒気が走った。

ここ数代に渡って三国が争ったことはない。

軍隊は自国の防衛だけを目的に存在するほどに。

しかし、百年単位で遡れば何度か衝突があったらしいが、詳しくは分かっていない。ただ、たくさんの死者が出たは確かだ。


「・・・もし、今の状況で戦争になれば否応なしに我が国が巻き込まれますね」

カラートのつぶやきにミスティアが反応した。


「お父様、なぜなのですか、なぜ、サラスティアが巻き込まれなければならないんですか!戦争をするのはルルタスとクラストなんでしょう?」

「サラスティアは軍事力は皆無に等しいが医療、ことに薬学に優れている。それに農業は三国の中で一番だ。一年中食料が取れる」

「でもっ」

「戦争をするならばサラスティアを先に制圧した方が有利に事が進むだろう」


父であるカラートの言葉にミスティアは再びローゼスに抱き着き涙を流し続けた。


それを宥めつつ、ローゼスはダリウスを伺った。

鉄面皮と評されるその顔は今は強く眉が顰められていた。


「父様、私たちが後宮に入るということは側室になるということなのでしょうか」


「・・・いや。あくまで『皇太子妃候補』という立場だ。側室とは正室がいて初めて成り立つものだからな」


サラスティア王家では長い間後宮が開かれたことはないはずだ。現に今も後宮はない。


「昔はね、側室をたくさん持つことがステータスみたいだったらしいのですけど、今は必要が無いから閉じているのよ。我が国もそうだし他国もそうなはず」


節操がない、と評されるからだろうとリリアが遠い目をしながら言った。


「ただし、次期国王の正室を決めるためには後宮を開くの。実際、私の時もそうだった。その中から次期国王が自分の正室を選ぶのよ」

「でも、それはあくまで自分の国の中の貴族から、が原則なのでは?」


言ってからローゼスはその思惑に気付いた。


でも、それは、と言いよどむローゼスをミスティアが訝しげに見つめた。

いつも毅然としているローゼスが動揺を悟らせるのは珍しい。




「つまり、私たちは人質・・・ですか」



サラスティアが自分の味方になるように、敵方につかないように。

そのために王家の血を色濃く引くものを自分の手の中に入れておく。



そのための駒が、自分たちなのだと、ローゼスは気づいてしまった。


実際にあった後宮とは違うと思います。勝手な筆者の想像です・・・・そういうことにしておいて頂けるとありがたいです。

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