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ラルム  作者: 霜月なのか
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王家

ローゼスの目に飛び込んできたのはまるで春の日差しのような柔らかな色合いの金の髪。


物怖じせず入室するその少女に控えていた兵がため息を漏らすのを聞いた。


金色の髪の少女とその父であろう男はまっすぐにアルフレッドの元まで歩いてきた。


「よく来てくれたカラート、それにミスティア」


二人は少し脇に避けたローゼスとダリウスの前に膝を着いた。


「陛下におかれますますのご健勝のことと存じます。スタンス家当主、カラート・スタンスでございます」


カラートはよく通る声で口上を述べた。

次いでカラートの半歩後ろに控えていた少女がその面をあげた。

柔らかな金の髪、ミルク色の滑らかな肌。そして髪と同色の長い睫に縁取られた大きな瞳はローゼスよりもずっと明るい翠。ぷっくりとした唇は桜色。頬が緊張のせいかわずかに紅潮し、薔薇色に見える。

 

「陛下、本日のお招き誠に光栄でございます。カラート・スタンス並びにサファイア・スタンスが長女、ミスティア・スタンスでございます。」


その容姿の期待を裏切らない鈴を転がすような声。


美少女として名高いミスティアとローゼスは親戚である。


ミスティアの父、カラートとダリウスは従兄弟同士だ。

だからか、カラートとダリウスとアルフレッドは皆同じような黒い髪をしている。

ローゼスやミスティアはその髪の色を受け継がなかったが、瞳の色だけは受け継いでいる。サラスティア王家の血を受け継ぐ者は皆明るさは違えど皆翠の瞳をもつという特徴がある。 



先代の国王には王子と二人の王女がいた。


唯一の王子が現国王アルフレッドで、二人の王女がそれぞれルナフィート家とスタンス家に降嫁したのだ。

やがてこちらに向いたミスティアは花のほころぶような笑顔を見せた。


「ローゼス、貴方も来ていたの?」


「お久しぶり、ミスティア」


ローゼスも少し微笑みながら応対するとカラートに無言で促されて再び前を向いた。


「全員揃ったようだからまずは隣室に移動しよう」


アルフレッドが促し、ローゼスたちは隣室に移動した。

隣室は会議に使われている部屋で長い机が一つ。上座に王が着席するとそれに習って他の者が着席をした。


会議をするのならば他の都の当主もいるはずだが今はルナフィート家とスタンス家しかいない。


てっきり会議に参加するのかと思っていたがどうやら違うらしい。


初めはわからないことが多く不安が募っていたローゼスだったがミスティアがいることでどうやら自分だけに問題があるわけではないのだという妙な安心感があった。


ちらりとミスティアを見る。


ローゼスとは似ても似つかぬ容姿。


決してローゼスが醜いわけではないがミスティアが十人中十人が振り向く程の美しさだ。


今はまだ少女めいているが後数年すればきっと驚くほどの美女に成長するのだろうと思う。


視線に気づいたのかミスティアが微笑んだ。慣れない者なら赤面するような可憐な笑顔だ。

それに微笑みを返して、ローゼスは知らず、小さなため息をついた。


「さて、今回両家に来てもらったのには大切な話があるからだ」


いつも柔和な雰囲気のアルフレッドが難しい顔をしている。それがとても彼にとって言いづらくまた難しい問題なのだろうと想像できローゼスは知らず拳を握っていた。


「ローゼス、ミスティア。君たちは一七歳だね?」


「はい」


これにはミスティアが応えた。


「君たちが生まれたときは本当に驚いた。まさか私の従兄弟たちが同じ時期に子にめぐまれるとはね」


「・・・はい、私もカラートも驚きました。カラートには既に長男がおりましたが私はこの子が初めての子であったことの違いはありましたが」


ダリウスが応えるのをローゼスは若干いたたまれない気持ちで聞いていた。


ダリウスの従兄弟であるカラートはダリウスよりも一つ年上である。


既に跡継ぎのあったカラートとは異なりルナフィート家にはまだそのとき家を継ぐべき男子はいなかった。


そのためローゼスは期待されていたのだが生まれてきたのは女。


それでも両親は慈しんで育ててくれたが、成長するうちに周りの家臣や他の貴族たちが残念だと噂されているのを耳にしてからは両親に申し訳ない気持ちでいっぱいであった。 


男子で無ければ家を継ぐことは出来ない。


ローゼスにはどうしようもないことだというのは分かっていたが五つ違いの弟が生まれたときには本当に安心したのを覚えている。


ただでさえ生まれながらに美少女と謳われていたミスティアと比べられることが多かったローゼスにとっては自分がルナフィート家の長子であること重荷だったのだ。


なにかにつけては比べられているように感じていた。


今もこうして並んでいるだけで劣等感を感じてしまう。


ミスティアが悪いわけでもなく、ただの自分の僻みだと分かっているからこそ心苦しいとローゼスは感じていた。


「二人とも、サラスティアの他の二つの国についてどの位知っている?」



この質問に対してこの場にいる王と后以外の面々は、はっきりと狼狽を表した。


なぜ、今この状況でそのような事を尋ねるのか、と。


アルフレッドの瞳がローゼスに留まっていることに気づき、ローゼスは頭を下げて答えた。

 ローゼスは質問に答えるべく、口を開いた。


「畏れながら、我が国以外には海を隔てて西にルルタス、東にクラスト王国がございます」


サラスティアは巨大な島国である。

サラスティアの周辺にはひし形を描くように東西北に大陸がある。

南に位置しているの島国がサラスティアだ。

西と東の大陸にはほぼ同じ形のルルタス王国とクラスト王国が位置する。

北に大陸はあるが人が住める環境ではなく、国はない。


ルルタスとクラストは北から南まで縦長の形状をしている。対してサラスティアは領国の最南端よりも更に南に位置する長方形の形をしている。そしてその国土は他の国々と比べると3分の2ほどだといわれている。


「両国とも、我が国よりも広い国土をもっており、現国王と諸侯が治めておられます。我が国とは古来より貿易関係によって良好な関係を築いてきたと聞いております」


「うん。その通りだ」


 ローゼスの回答に満足そうにうなずいたアルフレッドは目を閉じた。一瞬のあと眉間に皺を寄せて再度口を開いた。


「たしかに、サラスティアと両国の関係は良好だ。だが、ルルタスとクラストの関係が悪化しているようなのだ」


アルフレッドはここで、片手を額に当てて一瞬俯いた。


「・・・このまま放っておけば、戦争になる可能性があるほどに」


その言葉は室内の空気を凍らせるのに十分なほどの重みをもっていた。


話が進まず、申し訳ありません。

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