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ラルム  作者: 霜月なのか
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首都エルンスト

 宿に着いた。

 

貴族が泊まるに相応しい綺麗な宿だ。小さめだが全体的に白い石で作られ、三階ほどの高さがある。

 ただ着替え、休むためには大げさなようにローゼスには感じられた。


「先に降りなさい」


 ダリウスに促され、御者の手をとり馬車を降りるとすぐに侍女が傍まで来た。


「さ、お嬢様。宿にお入りください」


 ローゼスの手をとり促すのはルナフィート家の侍女頭、アンナだ。


 ローゼスが生まれるよりも前から家に仕えているアンナは白髪混じった髪をきっちりと結い上げ、常にきりりとしている。まっすぐに伸ばされた姿勢は彼女の歳を感じさせない。


 宿に入るとすぐに部屋に案内された。部屋は最上階にあるという。

 広い部屋にはベッドが一つ。白を基調にした明るい部屋だ。毛足の長い絨毯に、バスルームとベランダがついている。ベランダを空けるとエルンストの街が広がる。

 ベランダからは整備された庭園が広がり、街の細かいところまでは見えないが中心部あたりに巨大な建造物が見て取れた。


 サラスティア王国王宮・スライヤー宮殿。


 初代国王・スライヤーが立てたことからこの名前がついた。

 外壁はどこまでも白く、今は日に当たりさらに輝きを増している。巨大な掘りを有し、湖の中に城がたっているように見える。


 美しいこの白亜の宮殿はこの国の象徴である。国民は、一度は見てみたいと願い、エルンストの民はこの宮殿を誇りに思っている。事実街の至る所にある土産物屋にはスライヤー宮殿の描かれた絵葉書やコインが必ず置いてあるという。


 それは、この国の人々が自身の王を誇りに思い、敬っている証拠でもある。そのことがローゼスにはうれしく感じられた。


 ベランダに佇み街を眺めていると後ろからアンナが声をかけた。


「ローゼス様。湯浴みのあとはすぐに着替えていただきますから、お早く」


「少し休んでからでは・・・」


「いけません」


 反論を許さないアンナにため息をつきながらベランダを後にした。

 地味な旅装束を脱ぎ、軽く湯を浴びる。

 背まで伸びている長い亜麻色の髪は、今はぬれないようにくくってある。香油をたらした湯の香りに包まれながらローゼスはこれまでのことに思いを馳せた。

 


現サラスティア国王・アルフレッド=サラスティアはローゼスの父、ダリウスの従兄弟に当たる人物だ。


 先代の王の二人の妹のうちの下の妹とローゼスの祖父が結婚し、ダリウスが生まれたのだ。


 ダリウスの娘であるローゼスと王とは血縁関係は薄い。


しかしなかなか子宝に恵まれなかったアルフレッド王はローゼスをかわいがった。またその后であるリリア王妃もよく茶会に招いた。


 非公式に王と謁見することや年中行事で会うことはあっても今回のように正式にローゼスを呼び出したのは初めてのことである。


 手紙やダリウスによる伝言ではすまないような用事であり、またこれがルナフィート家だけの問題ではないことが会合に出席するように指示したことから伺えられる。


「御髪を結いますのでまっすぐ向いてくださいませ」


 不機嫌なアンナの声に考えをやめた。


───今ここで考えても仕方のないことだ。


 本音を言えば気になって仕方がない。

 ローゼスは自分に言い聞かせた。


 それでも胸の中のざわめきは納まらない。

 何かが起こる予感。それはローゼスに今までにない恐怖の影を落としていた。


 顔を曇らす自分の主にアンナは何も言わずに髪を結い続けた。


 なんと声をかけていいのかは分からない。

 ローゼスに対し上辺だけの慰めは逆効果でしかないことを、生まれた頃から世話をしているアンナは熟知していた。

 

 だからこそなにも気づかないふりをして髪を結い、身なりを整えさせる。


「綺麗にできましたわ」


 先ほどの不機嫌な声とは裏腹に自分の仕事に満足が行ったのかうれしそうなアンナに少し微笑む。


「ありがとう」


「さ、下で旦那様がお待ちですよ」


 いつのまにかお茶を飲めるほどの時がたっていた。


やはり身支度というのは女の方が男に比べて倍近くかかるのだ。ローゼスは着替えに労力を使い果たし休む暇もなかったことを少しだけ心の中で悔いた。


 下に降りると既に着替えを終えたダリウスの姿があった。

 かなり待たせていたようで、手にはカップを持っていた。やはり着替えてから茶を飲めるほどの時間がたっていただと、父に詫びた。


 ダリウスの正装を見るのは、限られているのでこれから王宮に行くのだということを強く実感した。

 

 ローゼスが王宮に行くのはこれが初めてではない。

 

 夜会や茶会などで何度も足を運んでいる。

 

 しかしそれはあくまで、催しの場合であり、父のように政関係で王宮に上がるわけではないのだ。

 しかし、今回は暗に政治的な意味があることを知らされていた。 

 

 それはローゼスにとってだけではなくルナフィート家にとっても大きな衝撃であった。

 

 皆口には出さなかったが不安と驚愕に揺れていた。


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