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ラルム  作者: 霜月なのか
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サラスティア

肥沃な大地と温暖な気候に育まれた国、サラスティア王国。


海はあくまで青く穏やかで、風はどこまでも暖かい。海から吹きぬける風は大地を吹き渡り内陸まで運ぶ。冬でも凍りつくことのない川の水量は豊富で、清らかな流れをたたえる。


まだ早春だというのにすでに肌にうっすらと汗をかきながら農夫達は土を耕している。


この国の首都はエルンストである。国の中央部分に位置し、国の中央機関としての役目をはたしている。


その首都エルンストの隣に位置する都市、クレース。


周辺を山に囲まれ、流れる川は豊富な栄養を含む。その水の恩恵を受け、クレースは農業国であるサラスティアでも屈指の農作地である。また、採れない薬草は無いといわれるほどあらゆる種類の薬草が分布している。


そのため、国立の研究所や薬の精製所もクレースに設置されている。

都市とはいえ、半数以上が自らの畑を持つ農家で、月に一度中央広場で市が開かれる以外は皆畑作に精を出している。


その中心部には学校や病院、そしてクレースを治める領主の邸宅がある。


広大な庭は緑の森に囲まれ、四季折々装いを見せる。

領主が住まう館はその姿を隠すように囲まれた森の更に奥にある為窺うことは出来ない。

邸宅への正門であり、庭への入り口である人の背をゆうに超える巨大な真鍮製の門は、年に何度か開放される。


市民達はそのときを心待ちにしていた。門が開かれるときは本格的に春が来た証。一年の中でも特に美しく彩られた庭を思い思いに心に描く。


しかし、そのクレースを治めている領主は自身の邸宅にはいなかった。


そして、その娘、ローゼスもまた住み慣れた邸宅を後にしていた。


彼女たちは首都・エルンストへ向けて馬車に揺られていた。




ローゼスはクレースの領主ダリウス=ルナフィートと、その妻イレーネ=ルナフィートの長女として生を受けた。歳は今年で十七になった。


「なぜ私まで呼ばれたのでしょうか」


 ローゼスは自分の前に向き合う形で座っている父・ダリウスに聞いた。

一週間前、各都市の領主たちが月に一度行われる会合に行くダリウスから、今回の会合には娘であるローゼスを連れてくるように王宮から命令があったと伝えられた。

急な申し出であったため家中が大騒ぎになったが何とか支度を終え、こうしてエルンストへ向かっている。


クレースとエルンストは隣り合っており、私宅は都市境のすぐ傍にあるのでエルンストまでは山を一つ越え、約一日で着く。


幸い天候にも恵まれ、道も舗装されているので問題は無く、予定通りもう少しでエルンストに入る。

本来領主しか呼ばれるはずの無い会合に領主の娘が参加するなど前代未聞のことである。


まだ妻ならば、もしくは子息ならば考えられなくも無いが娘は何の関係も無いのではないだろうか。


「・・・分からない」


 ダリウスは眉を顰めて何度目かになる娘の質問に答えた。


「私がなにかしたのでしょうか」


 ローゼスは不安で押しつぶされそうな気持ちを必死に抑えながらダリウスに再度尋ねた。だがそれでも翡翠の瞳は隠せないほどの不安に揺れている。


 ローゼスよりも幾分か深い翠の瞳を見ながら返答を待つと、いつも厳格で厳しい父親の顔がわずかに和らぎ安心させるように静かな声で言った。


「大丈夫だ。何かしていたのならばそれなりのお達しがあっただろう。お前がそんなに心配するようなことは無い」


 その言葉にわずかに微笑み、ローゼスは外を見た。もう山を越え、都市境まで来ていた。

 各都市は城壁によって守られている。


 入るためには門を通らなければならない。門には常に衛兵がいて門を守る。基本的に衛兵は門を守るだけだが、怪しい人物がいたら尋問をし、罪人の手配があれば警戒を強め、危険な獣が入らぬよう見回りをする。

 全て市民を獣や夜盗から守るためだ。

 だが、そのために、夜になると門は閉じられてしまう。間に合わなければ門の外にある宿屋に泊まり、翌日の開門を待たねばいけなくなる。

 

 昨日の昼ごろに出発し、途中で一泊してから早朝に出発しただけあってまだ日があるうちにエルンストに着いた。

 

 門を抜けると石畳のきちんと舗装された道と整備の行き届いた町並みが広がった。

 

 エルンストは首都だけあって全九都市の中で一番発展している。町を伺い見ればすぐに分かるがエルンストには農地はほとんど無く町の中にいくつか転々と存在するくらいだ。様々な物資が流通し、商人も多く、自然と賑わいを見せる。まだ中心部ではないがこの様子を見るとクレースは田舎に感じられる。

 ローゼスは建物のひしめきあうエルンストよりも立派な建物も娯楽施設もほとんどないが自然に囲まれているクレースの方が好ましいと思っていた。


「今日はそろそろ宿に入ってから王宮へ向かう」


「このまま王宮に入るのでは?」


 まだ日は高く、夕刻よりも前に王宮につけるのではないかと思っていた。ダリウスはいつも王宮の客室に泊まり会議に出席していたように思ったのだが。


「会議は明日からだ。王宮に泊まることになる。その前に一度着替えなければならない」


 言われてみればいくら馬車に乗っているとはいえ途中休んだりしたので服がわずかに汚れている。更に言えば自分の着ているものは王宮に参じるには粗末なものだ。


「・・・そうですね」


 取り留めの無い会話をしていると馬車が止まった。


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