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ラルム  作者: 霜月なのか
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初対面

クラスト皇国の宮殿は金と緑が基調の建物だ。


謁見の間の天井は高く、吹き抜けになっていて天井には優美な絵画が描かれ、明かり取りには色とりどりのガラスがはめ込まれ、多彩な色合いをかもしだし色づいた光が床に届いていた。


ローゼスは謁見の間に入ってすぐに、周りから痛いほどの視線を感じた。


謁見の間には皇族だけではなく、衛兵や皇帝に近しい者たちが揃っていた。その全員の眼がローゼスに注がれている。



それは、身体に突き刺さるようで、決して好意的ではなかった。



ローゼスの一挙一動を見る者たちの眼には、ローゼスの動きがどのように映っているのか。考え始めると動けなくなる。そう思いローゼスは敢えて気にせずに前に進んだ。



皇帝の前で両膝をつき、頭をたれ、両手を前にだし指先と指先を合わせた。


この手の形は、女性におけるクラスト皇国の最高礼であることを、ローゼスは既に学んでいた。



ローゼスから話しかけることは許されない。

皇帝の言葉を待つしかなかった。


その時間がローゼスには酷く長く感じ、嫌な汗が流れるのを感じた。



心のよりどころになるアンナも別室に控え、今ここには味方はいないのだ。



「顔を上げよ」



静かな声がかかり、それに合わせてゆっくりと体制を変え両手を前で交互に組んで顔を上げた。

向かって正面にいるのは、クラスト皇国の皇帝のはずだが、想像よりもずっと優しげな面立ちをしていた。



暗に奏上を促されたローゼスは静かに、しかしはっきりと口上を述べた。



「クラスト皇国皇帝・皇妃並びに皇太子殿下におかれましては、ますますの繁栄をお喜び申し上げます。ご尊顔を拝しまして、誠に光栄でございます。私はサラスティア王国、クレーズが領主、ダリウス・ルナフィートが娘、ローゼス・ルナフィートと申します。このたびはお招きありがとうございます」



口上が終わるのを待っていたかのように、部屋の扉が開き皇帝への貢物がしずしずと運ばれてきた。



中にはサラスティアやクレースの特産品や様々な資料が入っているはずである。



その説明が終わると皇帝は手を一振りして貢物を下げさせ、ローゼスに礼を言った。




「ローゼス嬢、ようこそいらせられた。急な召喚で申し訳なかったが我々は貴方を歓迎する」



「ありがたき幸せでございます」



未だ突き刺さる視線に冷たい汗が背中を流れるのを感じながら、ローゼスは皇帝を伺った。

表情に大きな変化はなく、何を考えているのかが全く読み取れなかった。



隣に座する皇妃もまた、表情に変化はなくただ無表情にローゼスを見ていた。



驚くべきことは、皇帝と皇妃の美しさだ。


決して若くは無いはずだが、どちらもその歳を感じさせない若々しさと雰囲気を持っている。


皇妃の髪は、サラスティアにはほとんどいない淡い薄紅色で光をはじくと何とも言えない彩にみえた。

その瞳はどこまでも済んだ水色をしている。

肌は抜けるように白く、顔立ちも切れ長の瞳が美しく、しかし時には冷たさを感じさせるほどの美しさであった。


皇帝はダリウスと同じ黒い髪をしていた。しかし、よくみれば深い群青色をしていることが分かった。あまりに深いため一目では黒髪に見えるほどだが光が透けると青い色が透けて見えた。瞳も同色で、柔和な顔立ちにわずかに刻まれた皺が彼の皇帝としての威厳をかもしだしている。



「ローゼス嬢。こちらが我々の長子にして皇太子のセオフィルだ。セオフィル、何をしている。お前の

妃候補殿に挨拶をしなさい」



「はい」



少年らしさを残した声と共に、ローゼスの目の前に靴先が見えた。



手を差し出され、恐れながらもその手を取って立ち上がるとふわり、と香が香った。



セオフィルは、ローゼスよりも一つ年下と聞いていたので、今年で16のはずだ。



だからかあまり背丈に差はないうえに、踵の高い靴を履いているため、立ち上がるとローゼスはセオフィルの顔をまっすぐに見る羽目になってしまった。


顔立ちや瞳は皇妃にそっくりで、髪だけは皇帝のそれであった。

まばゆいばかりの完璧な顔立ちは、氷のような冷たさをも備えた美貌であった。



ローゼスがこれまで見てきたなかでこれほど美しいと感じさせる人間は初めてかもしれない。



若干線に少年らしさが残っているが服の上からも分かる鍛えられた身体は、成長すればより男らしくなることがうかがえた。



「はじめまして、ローゼス嬢。私はクラスト皇国皇太子、セオフィルと申します。ようこそいらっしゃいました」



セオフィルが耳障りの良い声で挨拶をした。表情は無表情のままであったが。


見惚れていたことに気付いたローゼスが慌てて挨拶を返すと、一瞬後に完璧とも思える美貌が近づいてきた。


どうすれば良いのか分からず固まるローゼスに対して、セオフィルの顔はどんどん近づいてくる。


怖気づいて避けたくなったが、そんな非礼は許されない。


そして、頬に一瞬掠れた感覚がしたのと同時に、耳元で囁かれた。



「ようこそ、人質の姫君。私はお前を相手にすることは無いから覚悟しておくんだな」



皇太子妃候補に対する触れるだけの頬へのキスと共に囁かれた言葉は冷たさと、無邪気さに溢れ、呆気にとられたローゼスの瞳に映ったその顔は酷薄に微笑んでいた。





その微笑はうすら寒さを感じさせるほどに美しいものだった。


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