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ラルム  作者: 霜月なのか
13/17

入港


船着き場では物々しく兵隊が警護しており、その奥に四頭立ての豪奢な馬車が用意されていた。


兵士たちによって作られた道を歩みながらその馬車を目指した。


その間に感じる視線には悪意は感じられなかったが、好奇の眼を向けられていることが肌で感じられ、酷く居心地が悪く感じた。


馬車の前には正装をした男性と、若い騎士らしき青年が立っていた。


二人は恭しく片膝をついた。


「ローゼス・ルナフィート様、ようこそいらせられました。私は大臣のアリスト・グランデルでございます。これから宮殿までご案内させていただきます」


そして、と片手を隣の青年に向けた。


「こちらは、騎士のギルバート・ミリエスでございます。警護を担当いたします」


「顔を上げてください」


ローゼスが声をかけると二人は顔を上げた。


アリストは細身で白髪の混じった髪をしっかりとまとめている。メガネをかけているがその奥の瞳はローゼスをしっかりと見つめており、あまり歳を感じさせない。


ギルバートはローゼスよりもずっと背が高く、顔を見るにはローゼスが顔を上に上げなくてはならなかった。


ローゼスよりも、年上らしく、落ち着いた雰囲気を醸し出してはいたが、騎士らしく鍛え上げられた身体が、鎧の上からも分かった。


顔を見て気付いたのだが頬に大きな裂傷があった。


銀色の髪に銀色の眼というサラスティアではあまり見かけない色合いを持った騎士であったためにおもわず目を奪われた。


「恐れながら、お見苦しいようでしたら隠しますが」


無表情に言うギルバートに、ローゼスは静かに首を振った。


「私こそ、失礼をいたしました」


後ろでアンナはずっと頭を下げ続けている。


侍女であるアンナが、顔を上げるわけにはいかないからだ。


むしろ、緊張で顔色が変わってしまっているのではないかと心配なので顔を上げずにすんで良かったのかもしれない。


アンナの目の前でローゼスが丁寧にドレスをつまみ、片足を下げまっすぐに腰を下ろした。


「サラスティア王国、クレース領主が娘、ローゼス・ルナフィートでございます。このたびはお招きありがとうございました」


この挨拶の仕方はサラスティアとは異なる。


書物で読んだだけだがあっているかどうかはアンナにも分からない。


なにせ、クラストの貴族の挨拶の仕方など、学ぶ機会が今までないうえに見たこともなかったからだ。

眼の端で優雅に挨拶をしたローゼスをとらえながら、アンナの心臓は早鐘を打ったようだった。


ただでさえ、たくさんの兵に囲まれた状況は余計な緊張を煽る。


その一瞬が長く感じられた。


「こちらこそ、おいで頂きまして、礼を申し上げます」


アリストは、微笑みをわずかに浮かべながら答えた。


「宮殿までは三日ほどかかります。お疲れとは思いますが、もうしばらく御辛抱願います」


それに頷き、馬車に乗り込んだ。


馬車は内装も美しく、椅子は滑らかな絹とベルベットの生地ですわり心地が柔ら過ぎて逆に居心地が悪くローゼスには感じられた。


侍女であるアンナは後ろの馬車に乗り込み、アリストも違う馬車に乗り込んだ。


そのため、ローゼスは久しぶりに一人になった。


一人とは言っても馬車の両側には馬に乗った兵士がぴったりとついている。

馬車が走りだしても揺れはほとんど感じられなかった。


窓から流れる景色を見た。


サラスティアよりも季節の移ろいが遅いのか、若干緑の色が薄いように感じる。


すぐ左の乗り降りするドアの真横にはギルバートが付いている。


見ていることがばれないようにそっと窺うとやはり頬の傷に目が行ってしまう。


「失礼だったな・・・」


ぽつり、とつぶやいた。


やはりどうしても傷に目が行ってしまったのは仕方のないことだとしても、その行為が相手を傷つけてしまったのではないかと、来て早々後悔した。


三日間の間、休んだり、宿に泊まったりとかなりゆっくりのペースで進んだ。


その間にクラスト側の侍女たちもアンナと一緒にローゼスの世話をしていた。


言葉は同じでも、細かい作法が違っていたりして、ローゼスは戸惑うことが多かった。しかもそれを咎められることはなく、周りを見て、自分の間違えに気付くありさまだった。

本の知識だけではどうにもならないものだと、これからの先が思いやられた。


「ねえ、サラスティアのローゼス様って変わってらっしゃるわよね」


「ほんとよね、作法が間違っているときに教えなくてもいつの間にか直っているのよね」


クラスト侍女の宿室では夜通しおしゃべりが続けられていた。


「でも、サラスティアの人ってやっぱりちょっと田舎臭いよね」


「たしかに」


四人の侍女はおしゃべり雀のように話し続けた。


「ちょっととっつきにくいのよね」


「やっぱり緊張してるんじゃない?」


でも、と年若い侍女が呟いた。


「悪い人じゃないわよね」


「うん。我儘じゃないし」


「そうね」


「うん。美少女ってわけでもないけど」


それひどいと、笑いが漏れた。


「どのくらい持つかしら?」


「一月」


「二週間」


「んー、一週間くらい?」


「じゃあ私は一年」


えーっと周りからの非難を受けながら、年長の侍女はにやりと笑った。


「じゃあ何を賭けようか?」


侍女の部屋からはいつまでも明かりが絶えることは無かった。


同じようにローゼスの部屋でも何度もアンナとローゼスによる礼儀作法の研究がおこなわれ夜遅くまで明かりが絶えることは無かったことは、警護していた兵士しかしらない。






三日後、馬車は町の中央を通った。

町には人影が無かった。


宮殿に近いということで大臣がローゼスの馬車に同乗していたため聞いてみると、彼はこともなげに応えた。


「安全のために、この時間だけこの辺りは規制をしております」


今日は市場の休業時であるらしい。


そのために三日間かけたのか、とローゼスは納得した。


自分が、クレースの民に歓迎されないであろうことは想像していた。今まで王家間での交流が無かったうえに、王家に他国の血を入れることに対して拒否反応を示すことは想像に容易かった。


町は整備され、美しく、大きかった。


サラスティアよりも数倍の領土を誇るクラストの力がうかがえた。


やがて、宮殿に着くと、大臣が先に降り扉を開いた。


たくさんの侍女や騎士、兵士に囲まれながら宮殿内部に入り進む。


そして、謁見の間に着いた。


そこには



クラスト皇国皇帝とその王妃。




そして




クラスト皇国皇太子、その人がいた。






運命が絡み合い始めた。




ようやく皇子と会えました・・・

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