囹圄國 Ⅱ
うん、普通に料理は美味しい。
香辛料と檸檬の味が舌を少し鋭くさせ、歯に潰され、溢れんばかりに零れる肉血と汁は軽やかに喉を通り越す。其のナイフとフォークに着いた肉血と肉汁が照明に当って、黄土色な光を燈して来る。
店内には他の客も居る。皆、此の料理を平然と何時も通りの様に頬張る。酒も一つも無いのか、水の注がれた硝子盃しか無い。之がウォッカやスピリタスの様な透明な酒じゃ無いかなと思う位には酒が飲みたい気分では有る。聞いた事も無いクラシックな交響曲が銀色の蓄音機から奏でられ、風が吹き、ガタガタと窓を揺らす。古時計がチタチタと針を鳴らし、談声と食具の当たる音、不協和音な物音民謡の出来上がりだ。
そして、何時も通り、食事中の静寂が醸し出る。食具の金光と窓の震えと頬張る咀嚼の噛み噛み音がひそりと聴こえて来る。フォークのカチカチと金属を噛み鳴る音が聴こえ、香辛料のハーブな爽快な鼻突く澄んだ匂いが芳る。
時に語る事も無く、刻々孤々な食事時間だけが悉く過ぎ去り、皿には油やドレッシングの残り汁、香辛料の匂いが付く口の鈍る動きは、贅沢に後味を感じる優雅な時間に等しかった。
「何だかんだ、順応して居るけど、結局、此処は何処で何なんだ?」
「う〜ん、何処か知りたくても、何か情報が得れる場所でも無いかなぁ〜」
「やっぱ、こう言う時には良い所が有るだよ」
「何処だよ?」
夕焼けが全焼し、焦げた空が拡がって居る。
暗く柳が夜風に靡く中、笑々嬉々と声が響く処、数軒在り。そうだ、大人達の社交場みたいな処。所謂、酒屋だ。既に芳ばしい酒の誘いが薫って居る。
「お前さん、良い飲みっぷりだな!!」
「俺ももっと飲むぞ!!」
私の通常通りの飲みに感化された周囲の客達が寄り多くの酒を劇しく飲み合う。
こっそり、彼らが飲む酒が入った銚釐から窪んだ掌に注ぐ、少し冷たい其の酒を啜る。口の中に染まる味...薄い...
駄目だ、防寒酒関係無く、年中、度数と刺激強い味の酒ばかり飲んだ弊害病が今になって、此処で聞いて来るだ何てな。逆に甘く感じるし、一瞬、水かと疑って仕舞う程に薄い。之は私が異常な迄に酒に入り浸ったのが、全ての原因だ。普通に砂糖水みたいな感覚。太る、いや未だ全然身長の伸びに体重が追い付いて居ないけども、酒だけで太る訳では無いが、こんな甘味の塊を飲んでたら、腹回りが大きく成る。豊満な乙女でも無い欲深い胸と尻が小さい巨漢みたいな私には違和感しか無い体格に成って仕舞う...
既に私の周りには硝子瓶の連峰が築かれて居る。
白山、枯山、硝子山、液等一滴も無く、本当に零の瓶山が並んで居る。
「飲み過ぎだ、其れで何本目だ?」
「え~っと、10、20、30~...36本目だな」
「おぉ、死ぬぞ、何でそんなに飲んで酔う事が無いんだよ、お前の身体、壊れて居るんじゃ無いか?水とかお茶感覚で度数の高い酒をバンバン飲んでるけども」
「別に飲んでも、こうやって平常何だから、大丈夫だろ」
「ミュハが幾らでも飲んで酔わないなら、手間は掛からないし、別に良いけど、瓶が私の所まで平然と来てるのを如何にかしろよ」
「其れ、イデナが飲んだ奴じゃ無いの?其の酒は未だ私は頼んで無いし...」
「...」
「酔ってるのはイデナの方だろ、其の緑の豆をチマチマ食べて美味しいぃ~?」
「くそ腹立つ、要らない事言いやがって」
「はいはい、水でも飲んで落ち着いて、はいこれ」
「ありがとうって之、水じゃ無くて、ウォッカじゃ無いか、追い打ち駆けて来るな」
「酔いに酔いを増しても、変わらないだろ(?)」
「ミュハも若干酔って、文章が変に感じるけど」
「そんな事無いだろ、もっと酒飲んで、此の店の在庫を無くしてやる」
「誰が其の飲酒代を払うんだ?」
「お前」
「ルビが人権侵害」
「んぇ?何だよ、ルビって?」
「解んない、私も咄嗟に出たけど、如何言う意味か全然分かんない」
「酔って造語産み出してるじゃん」
「之で新語創り上げるわ」
「黒歴史」
「黙れ、焼き鳥」
「唐突に自虐をして来るな」
「駄目だ、何か頭が完全には回らないし..何か眠いなぁ...」
「酒は完全に身体に浸透してるじゃん」
「zzz」
「早」
大きい土焼きのジョッキに注がれた酒。
大きい氷が入ったジョッキに平気で酒を注ぐ、今度はウォッカと何か訳解らない何処かの酒を併せ飲む。ジョッキをグラグラ揺らしながら、酒汁を掻き込み啜り飲む。
「あぁぁ、美味しい」
ジャッキに注がれた酒も一瞬にして、呑まれ無く成る。
儚く酒色に染まった角切りの氷だけが孤独にジョッキの中でカラカラと音を鳴らし、周って居る。溶けて残り汁と同化して甘く薄い酒が出来て居た。
其の時、隣の席に客が座る。
瑞穂やロヴァノとは違う異国の服装を纏った私よりかは小さい者。
既に酒の飲んだ匂いがシューシューと漂って来るし、顔付きも何処と無く、赤みが掛かって居る。其奴は直ぐ様、酒を頼んだ。顔付きは鋭く、そして、地味な感じの髪色で人間だった。他の酒を豪勢に飲む連中達は、亜人や見た事の無い種族が飲んで居た。
其奴も豪勢で多量に酒を身体に搔き込む。
ふと、其奴が私の方を見た、二度か三度見で。
「す、凄いですね、酔わないんですか?」
「全然だな、此処の酒、色々と弱いからな」
「そうなんですね、見え無い顔ですね、最近来ましたか?」
「あぁ、今日此処に来たんだ、何と無く馴染めたけども、此処が何処で何なのかも解らない」
「其れは其れで凄い適応力ですね」
「何か此処が何なのか教えてくれ無いか?」
「まぁ、良いですよ」
囹圄國
様々な國々の異種族で多文化な人達が集う摩訶不思議な秘境地。勿論、奇物も平然と出て来る様な所でも有る。此処は國人通、何処から来たも不明な異國人達が集う大通り。勿論、ロヴァノ人も瑞穂人も居るし、和洋折衷な文化が開花して居る。通貨も単一の物も無く、殆ど自由で何故か多言語の筈なのに、皆の言って居る事が解る不思議な処。
國人通を抜けると、豊かな自然風景の連続の誘惑に誘われる。しかし、其れは同時に二つの罠に嵌って仕舞う。景色に見惚れて居ると、人喰い奇者に喰られて仕舞うらしい。通付近は平和だが、其処から外へ行けば、危険度はウォッカ以上だ。且つ、私は此の國の魔物は全然知らないから、ウォッカ以上に未知数だ。
魔法は妖術、妖術使える亜人は奇者、怪魔。瑞穂とは違う処の奇者は洋奇者。奇者と言えど、害の無い奴も居るし、災害とか害でも、怖ろしい奴も居るらしい。私は洋奇者の獣だな。そんな童話や御伽噺に出て来る人狼?人喰い狼?腹に石詰められて死ぬ様な軟な事を興す様な甘く馬鹿な獣では無いし、童話と御伽を子供だから、私は堅苦しい文學本の様な渋苦しさの有る者だ。
まぁ、此処の魔物に尋ねて見ないと判ら無い。多分、私よりも体格は小さいかも知れない。満月の偏見沼に嵌った狼とは違って、私は夜や月等関係無く、狼に成れる。未だお前等には狼な私を読み取って居ないな。まぁ、伏線は結ぶ気にも成らないし、私加減で狼に成るから、不定期だな。
「良いですね、旅ですか」
「そんな良い事ばかりじゃ無い、事故や事件に巻き込まれたり、変な事ばかりに遭遇して仕舞う」
「でも、楽しい事も一つは有ったんじゃ無いんですか?」
「まぁ、或る意味、刺激の有る楽しい事では在ったよ」
「なら、良かったじゃないですか」
「でも、其れで満足できるとは限らない」
「と言いますと?」
「本当に私の求めている満足とは乖離して居る気がするんだ、夢だ何て、一欠片に過ぎなくて、長い人生の中では一時的な錨にしか思えないんだ、錆びて千切れ、結局は孤独に逆戻りに成るかも知れない」
酒の酔いで少し心情が吐露けて露出する心中の外皮が。
躁的なエネルギーが脳に浸るかの様に駄言葉の綾が濁々と産まれ流れる。
孤独な抜錨、私の本当の目的は何だろうか。
「...其れで良いじゃないですか、誰だって夢を持てる訳では無いです、貶され妄想と称され、捨てると臆病と嗤われ、そう簡単に夢を持ち叶える事は出来ません、勿論、叶えたって其れで人生が閉幕する訳でも無いです、満足に速攻性何て有りませんよ、時間と意志で宝石に成るんですよ」
「...あぁ、そうだな、今の私には使い余った死への時間が有る、そう簡単に掴めないのが、満足で有り、其れを叶える夢だもんな、こりゃ至言だな」
「そんな、至言だ何て、褒め上手ですんね...」
「其れで相手に好印象を植え付けて、枯れる迄、利用と傀儡化されるのが、得意だからな」
「おー怖い怖い」
「何てな、冗談冗談」
「面白い人ですね、もう一杯行きます?」
「あぁ、くれ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続




