母血汲む第二の祖国へと Ⅷ
時間が過ぎると言う現象は恐ろしい。
あんなに愉快だった夕食も最後に成り、其の夕食もあっけ無く終わり、また、異国へ飛び立つ時刻に成って仕舞った。
蓬門條國港、其れがペーテと慧文との別れで在った。
刻々と時刻の華が萎む中、三人甲板で見送る二人を見ていた。
しかし、其の時間も終わって仕舞った。黒煙が舞い、船はゆっくりと動き出す。
手を振り合い、離れの二人、姿が見えなくなる迄、私達は手を振り返した。
また、別れた。
そんな恋愛的な悲しい事では無い、ユジノーの時もそうだが、之が最後の別れでは無い。生きて居る限り、再開出来る。そう思えば、悲しさと言うのは和らぐんだよ。其れにしても、こう淡々と物語が進んでいるな、刺激的で事件みたいな事は無いが、退屈の味が口に沁みるか?ちゃんと味わえよ、ほら、胡椒でも掛けてさ、喰えよ。
此処に来てから、何かこう、大きく変わった事が在る。
其れが価値観とか自分の疲労が無く成るとか、そう専門的な言葉では言い表せにくい、心情で複雑だから、簡単には表現できない。
「取り敢えず、船内に戻りましょうか」
「そうだな」「そうですねぇ」
今乗船して居る船は内装も外観も泰西的だ。しかし、本当な泰西では無い。何処か模倣と言うか模写的と言うか、彼らの文化の味が未だに残って居て、混同的な多文化な匂いが船内に漂って居る。
私達は部屋に戻る事も無く、食堂兼休憩所のテーブルに座り込む。
机上に置かれて有る水の注がれた硝子ポットに盃、此処にも花瓶に刺された白花が飾られている。何の花かは解らないがとても綺麗で面白い形の花だ。
「少し君達の事を教えてくれないか?正直、部屋に戻っても何もする事も無いし、少しは話して時間を潰した方が良いだろう?」
「確かにそうですね、でも、何処から話せば良いか...」
「此処まで色々と遭ったからね、話せば長く成るって奴だね」
「其れでも、私は構わないさ」
そうして、長々しい樹木の根の様な人生も刺激も栄養も細々しい痩せ樹な話が淡々とそして、其れがまるで日常風景かの如く脈絡の亡い口調で語る。こんな痩せ樹な話でも土壌には革命で斃れた誰かの遺体の養分で樹は育って居るんだがな。
蛇腹楽器な左右運動の様に少なく苦い内容の快感が過度に変化する。
一時間の枷を外して、三時間ぐらいは時間の檻から逸脱したのだろうか。
何時の間にか、昼前には出航した時間から、中途半端な時間に塗り替わって居た。
「成る程、其れは大変でしたね」
そう、気遣うの様な言葉を口に出して居るが、表情は何処か燻んで居る。
煙草から紫煙よりも深く、黒煙よりも薄い微妙な暗色な顔付きだ。之は同情なのか、其れとも軽蔑的な眼差しなのか、私には解らなかったが、直ぐに顔が明るくなった。
此の話に悲哀とか同情が湧かなくても別に良いと思う。
考えて見ろよ、お前ら。過酷な旅の物語を聞いたって、「凄い苦労したんだな」って感じで自分が経験した事の無い物事には想像で補う事に成る。だが、革命で諸外国へ亡命し、現在相方の国まで亡命して居ると聞いて何を思う?
未だ、故郷か母国に帰って無いんだとか、革命が終わって居ないんだみたいな軽い事で済ませるだろ?そんな深くまでは考えないと私は思う。目の前で人が死ぬとか街が崩壊したみたいな事を聞いても、「惨酷だな」「可哀そう」くらいしか思うだけだろうし、其れ位では興味が湧く事すら有るのか解らない。
..最近、そう深く感情と言葉が出て来ない。
簡素で直感的でロマンスの証明な言葉、一つも産れない。
論理マジックな迷宮的な私の言葉遣いも段々、薄い雲みたいに伸び棚引き悩む。
頭の中には奇々怪々と複雑怪奇な混合的な用語と造語のバベルが立ち並び、本当の意味が何層にも覆われた玉葱の様に皮も実も言葉と言う色が解らないのだ。正直、奇書として地へ旅立つ事でも良い、埋もれても私には関係無い架空話だ。
所詮、私も歴史の大舞台には似合わ無い存在で在ったが、故にお前らと言う観客者と言う存在にして、台本に遭った事で私は謎的で不可思議の未知の言葉が薫る誰かに成ったのだろうか。
刺激は何時も何処からか鼻と気配を突いてやって来る。
萎びれ拙い自己心を武器に寂寞と束縛殺害の双葉で此処まで来た。
だがな、翻訳家共に殺しと臓器売買の描写は消され、本来の私の存在確証では無く、殺ぎ零れた偽個性の欠片を母体にされて居る。
草臥れ特異な偏執病が私には在る。
好い加減、真を出したい、表裏が在るからこそ、もう一つが実り見える、其の姿が光り輝くだろう?
食事の時間、遅れた食事だが、腹鳴る処に染み渡る味の解毒薬な肉に消毒剤な酒。
味付けも少し変わった泰西料理達、何だ、舌に合わないから、材料や香辛料を変えたりして居るのか?だが私は彼らの本格的な食文化を堪能したいな...
此の皿も盛り付けも装飾もどれも之も泰西もとい、我らの文化的な物しか置かれて居ない。はあ、未だ未だ、文化の深根を吹き抜け無いようだ。習慣化したフォークとナイフの使い方。両利きなのも相まって口や腕と手の動きは軽やかで速い。
船自体、其処まで豪華では無い。だが、其れが一番の長所で在った。あんな貪金つく絢爛豪華と言う要らない付属品は嫌いだよ。煌きが一種の眩暈の病原菌みたいだった。私には反りが合わない所だ、庶民か其れ以下の環境で育った私には一粍も理解の回転がから周るだけの苦痛な拷問所、いや粗悪な勾留所だ。
夜で空も黒並みの群青の帳に包み被された中、木目細かい凹凸の在る細長い盃型の硝子の角灯。濃い緑硝子の中で燃え燈す淡火は変色して緑で、他にも黄色や朱、碧と鮮彩で淡さが際立つ日の燈りが部屋の照明だ。正確には真面な照明は在るが、時間帯的に就寝時間では在るから、こうやって淡色照明で賄って居るのだ。
濃い茶色で少し剥げた所も有る大きな革製のトランク、まぁ、私の鞄の一つだ。
煙と言う能力は便利だな、物を煙にして吸って、保管出来る。実質的に保管庫みたいな物だ。生物や武器以外ならあまり煙にしないけどな、収納道具で在る鞄とか袋は幾つか私の體に収納されて居る、二重的だな。其の私の體で収納された鞄や袋の中には物を入れている、二段階収納だ。
此の大きい革鞄も其の一つだ。
中には酒と少しくしゃれ皺が着いた紙の弾薬入れ、手拭きとか後は武器が有る。
機関短銃かな、お前らくらいのサイズのトランクなら入る訳無いが、私は二米をも超える巨体の持ち主、トランクもそれ相応の大きさだ、之位の銃なら普通に入る。
弾倉八つの内、全部満弾だ。三〇弾入りで全部で二四〇弾も在る。
(之、何度か使ったな)
此の機関短銃使用の記憶が蘇生して来る。
あっ、之、不正に記録改竄して入金量を過剰に得て居た銀行員一家を■■した時の奴だ、懐かしいな。
あ?
何か今、射さ..■■。
...過度で刺激的な表現と言葉が意味の解らない検閲?で文字が消えるんだけど。何だ、其の虚偽情報の文字列を印刷発行する今の新聞社みたいな事をして居るんだ?
おいおい、折角革命で祖国と失恥って記録された犯罪記録が消えて自由に成ったのに、今度は読者に刺激を与える物として劇役を演じ無いと行けないのか。
だが、■■とか■■とか眼の前で人が■■事だ何て、一回は在るだろ。病死とか事故で亡く成る事も在るだろ、皆が不老不死の完全体な訳が無い。
死ぬと言う言葉の中でも検閲が発動されない言葉も在るのか、其れも人的に死ぬんじゃなくて寿命とか其の人の人生的運命な死因なら、検閲は免れるのかな。
どう言う状況と言うか検証?
お前等みたいに自由に成りたいなぁ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続




