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Zero index  作者: Kiminuko.zero
第一章:世界の例外者
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第17章 ― 新入生歓迎式:式典台に舞い降りた四つの星

CNA(Crossmark National Academy)の名誉大ホールは、この日、小さな銀河のように眩しく輝いていた。

数百もの光子エネルギー球が宙に浮かび、下に集う何千人もの生徒たちの心拍と共鳴するかのように、自律的に色彩を変化させている。

白く、冷たく、磨き上げられた石の床は、一歩一歩の足音や微かな息遣いまでも映し返し、この巨大な建造物そのものが、人を圧倒し、頭を垂れさせるか、あるいは畏怖の念とともに見上げさせるために存在しているかのようだった。


だが、Haru MinekuzuとClass Fの仲間たちにとって、その壮麗さは、喉の奥に広がる苦味とともにあった。

彼らはホールの最奥、――“システムに見捨てられた者たち”に与えられる定位置とも言える後方席に、身を寄せ合うように座っている。


入学から、すでに二か月が経過していた。

学園中枢システムの技術的トラブルにより、新入生歓迎式は今日まで延期されていたのだ。二か月――期待と希望が灰へと磨り潰されるには、十分すぎる時間だった。

その間に、二度の選別試験が、静かに、しかし容赦なく行われた。

定員五十名だったClass Fは、今や四十名。隣に並ぶ十の空席は、まるで目に見えない墓標のように、このクラスの弱さを無言で突きつけている。


Class Fの周囲の空気は、Haruがこめかみを打つ血流の音を聞き取れるほどに、張り詰めていた。


「……人、多いな」

Ryuu Mizukaが小声で呟き、無意識のうちに制服の内ポケットに忍ばせた短剣の柄を強く握る。その視線は、警戒するように周囲を巡っていた。


「毎年こんなもんだろ」

隣のDaigo Moritaは、たくましい腕を組んでいたが、その声にはいつもの自信がなかった。

「ただ……Class Fの俺たちには、期待するもんが何もねぇだけだ」


Haruは唾を飲み込む。喉が乾いていた。

二か月前の入学試験で叩き出したスコア――「89」という数字が、今も毎晩、彼の夢に現れる。

クラス代表として、彼は自分自身の恐怖だけでなく、三十九人分の絶望を背負っていた。


――俺たちのクラスは……本当に、この学園のブラックホールなのか?


その思考が終わる前に、ドーム天井から拡声放送が響き渡った。胸腔を震わせるほどの音量で。


「新入生諸君、起立してください。

一年次ブロックを代表する、四名の最優秀生が、これより式典台に入場します」


一瞬で、大ホールの空気が変わった。

気温が急激に下がったかのような錯覚とともに、目に見えない圧力が、弱者の肩にのしかかる。


1. Arisa Valen ― 地上に降り立つ氷槍


重厚な合金製の正門が、ゆっくりと開いた。

最初に姿を現した人物に、会場全体が息を呑む。

その瞬間、時間が停止したかのようだった。


Arisa Valen。


漆黒の髪、その毛先にだけ宿る幻想的な白銀の光。滝のように背中へ流れ落ちる長髪。

彼女が一歩踏み出すたび、周囲の光は反射し、細かな氷の糸となって宙に残滓を描く。

黒と紅紫が混じり合ったその瞳は、ただ前だけを見据えていた。

澄み切った硝子のように冷たいが、そこに宿るのは、疑いようのない絶対的な威厳。


彼女の周囲に広がるのは、風ではない。純度の高い“圧力”だった。

その前に立てば、人はまるで、永久凍土に覆われた氷山の麓に立たされているかのような感覚を覚える――壮麗で、致死的で、決して触れられない存在。


Class Aの傲慢な者たちから、Class Fの震える者たちに至るまで、誰もがその息を呑むほどの美を前に、言葉を失っていた。


Haruは無意識に半歩後ずさる。背後はすでに座席の壁だというのに。


「……あれが、Arisa Valen……」

掠れた声で、彼は呟く。

「一年次首位、HVI一四〇〇超……この世代で二人目の、“神の領域”に届いた存在……」


「人って……あんなに、非常識なくらい綺麗でいいの……!?」

Kanna Hoshizakiが目を丸くし、Classで一番小柄なRirisa Amanoの袖にしがみつく。


「……寒い」

Sota Kurotsukiが、小さく身を震わせた。

「ホールの一番後ろにいるのに、この殺気だ……一度話しただけで、凍りつきそうだ」


誰一人、強く息をすることすらできなかった。

Arisaの存在そのものが、何より雄弁に物語っていた。

――格の違いは、決して埋まらない。


2. Leonhart Sakuragi ― 触れることのできない太陽


氷の女王の後に現れたのは、完璧な対極だった。


Leonhart Sakuragiが、歩み出る。


Arisaが凍てつく冬の夜なら、Leonhartは燃え上がる黎明。

赤橙色の髪は照明を受けて輝き、自然な笑みは、彼が愛されるために生まれてきたかのように見せる。

その雰囲気は朝陽のように柔らかく、人を引き寄せる。


だが、彼が通り過ぎるたび、空間は微かに震えた。


「Sakuragi-sama!! こっち見て!!」


女子生徒たちの歓声が、市場のように響き渡り、先ほどまでの静寂を一気に打ち砕く。

しかし、Haruは別のものを感じ取っていた。


その笑顔の奥に潜む、焼き尽くすほどの力。

Leonhartの周囲は、眩いほどに輝いている――美しく、しかし、触れれば灼ける光。

それは太陽そのものだった。近づきすぎれば、灰になる。


Haruは思わず手で目を覆う。


「……眩しすぎだろ。HVI一三〇〇って噂だ……Class Bのトップ……」


Ryuuが短剣を指先で回しながら、ステージを睨みつける。

その声には、嫉妬と苛立ちが混じっていた。


「光のせいじゃねぇ。あれは“気配”だ。

……なんであんな、強くてイケメンな奴が、この世に存在できるんだよ」


3. Celia Mizuhara ― 心臓を沈黙させる静寂


Leonhartへの歓声が収まらぬうちに、柔らかな波が広がり、騒音を静かに鎮めた。


Celia Mizuharaが姿を現す。


澄んだ青のドレスに身を包んだ彼女は、冷たい石床を、音もなく歩く。

その周囲に圧迫感はなく、熱もない。

そこにあるのは、完全な静けさ。


嵐の中心に佇む聖堂のような、穏やかで神聖な美。

彼女が通るだけで、乱れていた群衆の鼓動が、自然と落ち着いていく。

高鳴っていた胸は、いつの間にか、穏やかなリズムを取り戻していた。


Kanade Minashikiは、手元のホロパッドにペンを走らせたまま、ふと胸に手を当てる。


「……心が、少し静かになった……」


「Mizuhara-sanの“浄化”効果よ」

隣でスマートデバイスを操作していたAsuka Narihaが、感嘆の眼差しで囁く。

「HVI一二五〇、Class C首位。神経状態の安定や操作ができるって噂……まさに聖女、って感じ」


Celiaの存在は、彼らに教えていた。

力とは、拳や氷だけではない。

魂を制御することも、また力なのだと。


4. Brutus Kurogami ― 闇から咆哮する獣


その平穏は、唐突に引き裂かれた。


ドン。ドン。ドン。


石床を叩く重い足音。

ホール全体が、わずかに揺れる。


Brutus Kurogamiが、入場する。


彼は人のように歩かない。

肉の戦車のように、圧倒的な質量を伴って進む。

二メートル近い巨体。

腕を覆うのは、Dominionに伝わる黒き伝統紋様――溶岩の亀裂のようにうねる刺青。

黄金色の瞳は、獲物を探す猛獣のそれで、群衆を見下ろしていた。


彼の放つ威圧は、純粋な物理的圧迫だった。

――重く、厚く、そして粗暴。


BrutusがClass Dの前を通り過ぎた瞬間、数人の生徒が、恐怖に耐えきれず席から崩れ落ちる。

足は震え、立ち上がることすらできない。


Haruは全身を強張らせ、背筋を冷たい汗が伝った。


「……この足音、知ってる……なんだよ、あれ……!」


「人の皮を被った獣だよ。Brutus Kurogami……」

Sotaが震える声で言う。

「最初から……分かってた。Kurogamiに目をつけられたクラスは、終わりだ。

中等部の頃から、Dominionじゃ“戦争の怪物”扱いだった」


Brutusの影は、暴力と死への、原始的な恐怖を、彼らの心に刻みつけた。


5. Class Fに広がる絶望


四人は式典台に並び立つ。

若き神々のように、眩しく、そして遠い。


ホール全体が立ち上がり、雷鳴のような拍手が鳴り響く。

称賛の音が、頂点に立つ者たちを讃えていた。


だが、最奥の一角――Class Fの席だけは、沈黙に包まれていた。


誰も拍手をしない。誰も声を上げない。

あまりにも大きな隔たりに、彼らは凍りついていた。


Ririsaが、思わず零す。


「……来るべきじゃ、なかった……」


Daigoは頭を抱え、崩れ落ちる。


「Class A、B、C、Dでこれだぞ……。

それに、もう一人、うちのクラスに来るって話もある……。

……どうやって戦えってんだよ……」


Haruは、壇上の四つの輝きを見上げ、震える自分の手に視線を落とす。

その呟きは、数千の拍手の中に、かき消えた。


「……この世界が空なら、あの四人は、最も輝く星だ……」


そして、怯える仲間たちの顔を見渡し、続ける。


「……俺たちClass Fは……井戸の底に生えた苔みたいなもんだ」


その格差は、痛みを伴うほど鮮明だった。

“欠陥品”と呼ばれる者たちの自尊心を、深く切り裂く刃のように。


彼らはまだ知らない。

どこか暗い廊下の奥で、“Number 0”が静かに歩みを進めていることを。

この華やかで残酷な秩序を、根底から覆す力を携えて。

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