第6話 生放送
都内某所、巨大テレビ局のスタジオビル。
LUCENTが出演する情報バラエティ番組の生放送本番まで、あと30分。
控室ではメンバー5人がスタイリストと談笑しながら準備を進め、私は黙々と進行表とタイムスケジュールを確認していた。
そして今日も、彼女はいた。
「黒宮さーん、マネージャーなら、もうちょいなんか喋った方がよくないですか? 存在感ゼロって、むしろ逆に目立ってますよ?」
今日も朝から絶好調だった。
「ふふ♡ ごめんなさぁい♡ 私、目立つの苦手なんですぅ♡」
「いや、苦手っていうか、むしろ空気っていうか……いや、悪口じゃないですからね?」
そうやって一応フォローのつもりでナイフを刺してくるのが佐伯の芸風らしい。
「でも〜、ぶっちゃけ言うと、メンバーにあんまり信頼されてない感? ありますよね〜」
うざ。
「確かにぃ♡佐伯さんみたいに積極的に話しかけてくださる方が、信頼されやすいですもんねぇ♡」
「ですよね〜? あ、でも。信頼って、ちゃんと“寄り添う”ことから始まると思うんですよ。そういう努力、大事ですよね。」
あくまで柔らかい口調でマウントを取ってくる佐伯。さすがに毒の回転が速い。
そんなとき、進行スタッフが慌ただしく部屋に入ってきた。
「すみません!メイン台本、撮影チームのミスで一部抜けてたことが判明して……急ぎ再印刷してますけど、あと10分はかかりそうで……」
ざわつく控室。
「え、10分前に台本なし? え、現場崩壊じゃないですか?」と佐伯が即座に被害者ヅラで騒ぐ。
私はすっと立ち上がり、手元の自作進行ノートを開く。
そこには、テレビ局が配った台本とは別に、細かくタイムラインと演出意図、カンペ用セリフまで書かれたページが並んでいる。
「こちらで代用できますぅ♡ 放送禁止用語とスポンサー読みミスだけ、皆さん気をつけてくださぁい♡」
スタッフの目が一斉に私の手元に集まる。
「……これ、局の台本より詳しい……」
「こんなの作ってたんですか?」
「念のためでぇす♡ 佐伯さんが賑やかにされてたので♡ 私は黙ってカリカリしてただけですぅ♡」
「え、なんか刺された気がする」
佐伯が苦笑するが、空気は完全に私へと傾いていた。
その後、収録は無事終了。LUCENTは番組で好感度を爆上げし、視聴者からの反応も上々。
控室に戻ってきたメンバーはそれぞれスマホでSNSを確認していた。
「マネの進行表、神だったな……」と成瀬。
「てか、本番中一瞬も動揺してなかったの怖い」と霧島。
「マネージャーさん、ああ見えてラスボス説あるよね」と天城がぼそっと言ったのを、私は聞こえないふりをして荷物をまとめる。
その横で、佐伯が不満げに「……私だって、がんばってるのに……」と小さくつぶやいた。
私はにこりと笑って言う。
「 頑張ってる人って、だいたい自分で『がんばってる』って言わないんですぅ♡」
「……え、なにそれホラー」
今日も私の勝ちである。




