第47話 夏休み⑩
少し疲れたところで、メンバーたちは海から戻り、ホテルのラウンジの一角に集まっていた。
海水で濡れた髪を乾かし、アイスティーやジュースを片手にひと息つく空間。
そこには、小さなテーブルと、妙に主張の強い木製ブロックの山。
「ジェンガ……?」
朝倉が訝しげに首を傾げると、成瀬が胸を張った。
「俺が持ってきた!旅にはゲームが必要だからな!」
「……お前、なんでこんなかさばるものを」
「重かった。けど使命感が勝った」
「謎の使命感……」
みんなが呆れつつも笑うなか、いつの間にかテーブルに椅子が並び、自然とジェンガ大会の空気に。
「誰からいくー?」
「最初はじゃんけんじゃない?」
「勝った人からか、負けた人からかでも揉めそうだよね。公平に、あみだくじで決めよっか!」
「えっ、そこまで平等にするの!?」
「ルーセントの名にかけて!」
さすがアイドルグループ、変なところに真剣である。
あれやこれやと騒ぎながら、最終的には――
「よし、黒宮さんが最初ね」
「……えっ」
なぜかこういうとき、流れ弾を受けるのは私だった。
「がんばれ~!」
「トップバッターとか一番むずいでしょ!しかもこのジェンガ、地味にグラグラしてるし!」
「すでに一回落としかけてるからねこれ、俺がさっきテーブル揺らしちゃって」
「お前かよ」
そんなやりとりを背中に受けながら、ゆっくりと手を伸ばす。
サングラスを外した視線は真剣そのもの。
スッ──とブロックのすき間に指を差し込み、数ミリずつ、確実に引き出していく。
「……はっ、うま!」
「動かし方がプロっぽい!」
「なんでそんなスッていけるの……」
カチ、と静かな音を立てて、ブロックを成功させた。
「さすがだ……!」
「さすが黒宮チート……!」
「チート言うな」
しかしその後、思わぬ伏兵が登場する。
「えいっ、私これ~」
佐伯が適当に選んだブロックが、なぜかまったく引っかからず、スルッと抜けた。
「えっ、なんで!?」
「物理法則を無視してるぞ今の!」
「天性の感覚派……」
そのあともゲームは続く。
天城は妙に慎重に構えすぎて10分かけて1ブロックを抜き、朝倉はブロックより先にグラスを倒し、望月は「緊張すると手が震えるぅ……」と言いつつ意外と冷静に成功させた。
「成瀬くん、そろそろやばいよねこれ」
「やばいな……え、これどうやって抜くの!?」
「ここ引いたらもう倒れるでしょ!?物理的に!」
「でももうそこしか残ってないって!」
「俺のターン終わったらどうなるか分かんないけど、行くしかねえ!」
成瀬がブロックに手をかける。
「うおおおおおおお!」
ガタッ。
「倒したぁああああ!」
「あーあ、やったなー」
「全員注目のなかで爆散」
「逆に気持ちいいわ!!」
笑いと歓声のなか、ジェンガ第一回戦は幕を閉じた。
──が、すでに誰かが第二戦の準備を始めている。
「次は、手を片方だけ使うルールでやらない?」
「左手限定とか?」
「超難易度高くない!?」
「やるやる!」
「私、ストローで引いてみたいな。口だけで!」
「それはさすがに反則!」




