第45話 夏休み⑧
朝日が差し込むなか、メンバーたちは再びビーチに集まっていた。
昨日の焼け残りの香りと波の音が、なんとも夏らしい。
「泳ごうぜ! 泳ぎたりない! 今日も勝負な!」
望月の声でざわつく浜辺。各自水着を身に着け、準備運動に余念がない。
「望月、お前元気すぎかよ」
「なにする?リレー? 潜り?」
「クロール勝負とかどう?」
「バタフライいける?」
「むりむり! 見た目カッコイイけど沈むだけだよ!」
わいわい盛り上がる中、佐伯がふと、黒宮に目を向けた。
「……あれ、そういえば黒宮さんってさ」
「ん?」
「なんか、泳ぎ下手そうじゃない? 顔つけるの嫌そうだし」
「なるほど~お嬢さま育ちっぽいしねー」
朝倉もからかうように笑う。
私はと言えば、ラッシュガードの上を羽織ったまま、涼しげにサングラスを外す。
そしてにやり、とだけ笑った。
「……そう見えるのなら、どうぞご自由に」
「うわ、煽った? ねぇ今の煽ったよね!?」
「いやでもマジで黒宮さんって運動苦手そうだし……」
と、そこへ本人がさらりと告げた。
「……中学のとき、水泳で県大会まで出ました」
「「はっ!?!?」」
「ていうか代表でした、学校の」
「え? 嘘でしょ??」
「なんで今さらそんな情報出てくんの!?」
周囲がざわつく中、いつのまにか黒宮はラッシュガードを脱ぎ捨て──
スッと水に入った。
その動きに、まったく無駄がない。
「……じゃあ、誰か黒宮と勝負してみる?」
天城が言うと、望月がそわそわと手をあげた。
「やってみたい……クロールなら自信あるし」
「お、望月VS黒宮だな!」
「いっけええええ!アイドルの本気水泳~~!」
周囲の歓声のなか、ふたりはスタートラインに並んだ。
距離は、沖のブイまでの往復。クロール勝負。
「よーい……スタート!」
ぱしゃん!
ふたりが同時に飛び込む。
その瞬間──
(速っ!?)
誰もが驚いた。
黒宮のフォームが、無駄なく、美しい。
水の抵抗を受けることなく、スッと海面を滑るように進んでいく。
だが、望月も負けていない。
普段のおっとりとした性格からは想像できない真剣な顔で、グングン追い上げる。
「いい勝負……!」
「あの望月が本気……!」
「え、ていうか黒宮さん、フォーム綺麗すぎでは……?」
「競技者の泳ぎだよあれ……」
一進一退の攻防──
ブイを折り返し、最後の直線。
(……このままじゃ追いつけない)
そう思った望月がラストスパートをかけるが──
私も、それに合わせたように加速した。
バシャッ、バシャッ──!
そして──
ゴール。
わずかに黒宮の手が先にタッチ。
「勝者、黒宮~~~!!」
「うおおおおおおお! なんだこれ熱すぎる!」
「かっこよすぎる……!!」
「今のガチだったな……」
海から上がった黒宮は、髪を濡らしながら息ひとつ乱さず、
タオルでさらりと顔を拭う。
「おつかれさま、望月さん。すごく速かった」
「ふぇ、え、ありがとう……!」
望月は水中ゴーグルを取ったまま、赤くなっていた。
そんなふたりの後ろで、佐伯が半笑いでつぶやく。
「……聞いてないってば、そういう“経験者情報”」
「つか、もうこの人、何でもできるんじゃん……」
「黒宮チート説……また浮上したな」
そのあとのフリー遊泳では、
「黒宮さんに勝てるまでリベンジ戦!」と望月が燃え、
佐伯が「じゃあ私と犬かき勝負!」と無茶を言い出し、
成瀬は「カニ歩きでリレーしようぜ!」と意味不明な種目を追加し──
今日もまた、海はにぎやかだった。




