第44話 夏休み⑦
海辺の余韻がまだ体に残るなか、全員は宿泊先のラウンジスペースに集まっていた。
天井が高く、ウッド調の内装。窓の外には夕闇が広がり、虫の声が心地よい。
「じゃーん、トランプ持ってきたよー!」
天城が得意げに取り出したのは、一回り大きめの赤いケース。
「何するの?」
「ババ抜き?」
「神経衰弱……はやめよう。疲れてる」
「大富豪だな」
空気がまとまる。
こうして、即席で3グループに分かれて、大富豪大会が始まった。
私の入ったテーブルには、佐伯・霧島・天城の3人。
「よーし、今日こそ仕返ししてやりますよ黒宮さん~~」
「え?……」
「……その必要はありません」
私は静かにカードを切る。手慣れた様子。無駄な動きなし。
ゲーム開始。初手、佐伯。
「じゃあ、6の2枚で」
「パス」霧島。
「パス」天城。
「……2の2枚で」
と私。
そして上の手札を使う。
「次、7の4枚です。」
「えっ、4枚って……」
「7、7、7、ジョーカー。革命です」
「はああああああ!?」
「おいちょっと! 初手革命やめろ!」
佐伯と天城の叫びが室内に響く。
だが、そこからが私の本領発揮だった。
「……え、もう終わった?」
霧島がまだカードを5枚持っている段階で、スッと最後のカードを出す。
「上がりです」
「…………」
「えっ、ちょ、あれ……佐伯さん?」
天城が顔を覗き込む。
「…………やばい、無理。わたし今日もう“大貧民”しかなる気がしない……」
佐伯はソファに崩れ落ちていた。
私はというと、ひとつ息をついて淡々とカードをまとめ直す。
「では、次のゲームを」
「待って……! 誰か止めて……この人、本当に“黒の大富豪”……!!」
一方、隣のテーブルでは望月が盛大に失敗し、
さらに成瀬は「大富豪なのに一番に上がれない」という謎現象に遭遇していた。
そんな混沌の中で、私だけは、
完璧な配牌、完璧な流れ、完璧な表情管理で──
ひとり、静かに勝ち続ける。
(これこそが、一番楽しい)
夜はまだ長い。




