第40話 夏休み③
最後のひと口のアイスを口に含む。
涼しさが喉の奥を通り抜けていく瞬間、私は満足そうに目を閉じた。
ふと、声が聞こえてくる。
「くろみやさーん! こっちで一緒に泳ぎましょー!」
――無視。
「黒宮さーん、スイカ割りやるってー!」
――……無視。
「くろみやさ~~~ん! 水着かわい~~~!」
――さすがに聞こえないふりは限界だけど、表情は変えない。
サングラスの奥で、目線だけは鋭くなっている。
うるさい。
せっかくの「静の時間」を愉しんでいるのに、どうして“陽”ばかりを求められなきゃいけないのか。
そう思っていた、ちょうどそのときだった。
ざばあぁっっ。
冷たい感触が、左の腕に飛んできた。
「…………は?」
ぴちゃぴちゃぴちゃっ。
今度は足元、そして太ももに。
「…………だれ?」
私はゆっくりとサングラスを外した。
そこには、にやりと笑った霧島。
その背後には、LUCENTのメンバー全員が砂浜に集結していた。
「いやー、黒宮さん、あまりにも“高嶺の華”モードだったんで……」
「“無視されたから水ぶっかけました”って、どういうロジック?」
「いやいや、“真夏のビーチではしゃがない奴は濡らされて当然”っていう、ラテン的な価値観で……」
「……」
「あ、もしかして黒宮さん、泳げないとか?」
次の瞬間、私はサングラスをチェアの上に放り投げて、すっと立ち上がった。
そして。
一瞬笑う。
私は砂を蹴って走り出した。
「逃げてー!!!」
「うわああああ黒宮さんスイッチ入った!!」
「目が本気ィ!!!」
「おしゃれなのに脚速っ!!!」
海辺に、逃げ惑うLUCENTと、追跡劇が始まった。
望月が砂に足を取られて転び、天城が「いやあああ濡れたくなーい!」と叫びながら水を蹴って逃げる。
成瀬は逆に「かかってこい!」と水鉄砲で応戦。
そして私は、その全員を華麗にかわしながら、水をばしゃばしゃかけ返す。
「……おい、あの人、やっぱり“ただの女”じゃねぇ……」
朝倉が呆然とつぶやく。
「モデルだろ、もう。ハリウッドかなんかの……」
霧島がぽつり。
「なのに水をかけると追いかけてくるとか、どこの学園ドラマ?」
望月が脱力して言った。
――でも、それが私だった。
完璧で、計算高くて、仕事もできるのに。
こんなにも、追いかけると全力で追い返してくる。
佐伯は水着のフリルを揺らしながら、乱入。
「何してんのよ! 黒宮さんに勝てるわけないじゃん!」とふくれっ面。
私は日ごろのイライラをぶつけるために佐伯の顔面目掛けて、成瀬から奪った水鉄砲を放った。
「えっ、あっ、いやああああ!」
追い打ちをかけるように水をかける。
そしてメンバーのもとへ駆けていった。
「うぅ、最悪…。でも水に濡れてもかっこいい黒宮さん、マジで何?」
みんなすっかり水浸しで、笑いが止まらない。
太陽が海面に反射して、キラキラと輝く中、
全員が水着のままはしゃぎまくり、夏の一瞬を全力で楽しんでいた。




