第4話 突っかかり
音楽番組の全体リハが終わった楽屋裏。
資料チェックをしていた私の前に、ツカツカと佐伯詩織が立ちはだかった。
仁王立ち。なぜかドヤ顔。
「てかマネージャーさんって、なんか“私、仕事できます”感出しすぎじゃないですか? 空気、重くなるんでやめてもらえますぅ?」
――開口一番、それ。
「でもぉ♡佐伯さんみたいに軽くはなれませぇん♡ 中身が重くてぇ♡」
すかさず返すと、佐伯は鼻で笑う。
「へえ? でもその割に、スタッフの間で“最近怖い”って噂ですよ?」
「わぁ♡ 佐伯さんほど愛されてなくてごめんなさぁい♡ でも陰口より噂話の方がマシですぅ♡」
椅子に座った佐伯は、脚を組み直しながら言う。
「そもそもマネージャーって、影で支えるのが仕事ですよ? 前に出すぎじゃないですかぁ?」
私はにっこり。
「えへ♡ 前に出てませんよぉ♡ ただ目立っちゃうんですぅ♡私、身長170cmあるので♡」
「へぇ〜? 自覚なかったんですね、痛いなぁ〜」
「きゃ♡ 佐伯さんほどナチュラルにはなれません♡ 憧れまぁす♡」
「……」
楽屋がすっと静まる。
そこでソファに座ってた天城が一言。
「……この試合、放送してくんねぇかな」
霧島が雑誌をパタンと閉じて。
「……地上波無理、ネット限定」
その瞬間、成瀬司が吹き出し、望月颯真が堪えきれずに肩を震わせた。
佐伯は真顔で席を立つ。
「ま、私、誰にどう思われても平気なんで〜?♡」
私は淡々と資料に目を戻す。
――何が言いたかったのだろう?




