第36話 大型企画の代表責任者は?⑩
会議室。
LUCENT関連の大型プログラムが、本格始動した。
「今日は初回ということで、各担当から課題整理と目標共有をお願いします」
進行役の部長が口火を切ると、プロジェクトチームが次々と発言していく。
その中で、佐伯はやたらと“自分の存在”をアピールした。
「私、今回“補助”という立場なんですが、現場のフロー把握は一通り済ませています。この前の調整会議でも、直接先方とやり取りさせていただきました。」
「黒宮さんが数字出してた部分、私も補足しておきました」
「はい、 助かりまぁす♡ 佐伯さん、ほんと“サポート”って感じでぇ♡」
「……っ」
一瞬、佐伯の口元が引きつった。
会議終了後、隣席の木村さんがぽつり。
「佐伯さん、“代表責任者”って肩書きほしかったんだろうな」
「でも、役割って名刺じゃなくて“動き”で見られますから」
私はメモを取りながら、自然に言った。
週末、プロジェクト初動の進捗報告をまとめる中――
佐伯の書いた共有メモに、目を通す。
あちこちに曖昧な表現と、“私が動きました”系の主張が入っていた。
私は淡々と、そのまま赤ペンを入れて、修正版をチャットで共有した。
「佐伯さんのメモ、ざっと整理してみました。 ご確認ください。」
※数字と表現を一部明確にしました
その日の昼。
部長から、ある連絡が回った。
「プロジェクトの次期フェーズ、“現場全体統括”を黒宮が継続して担当。
佐伯は引き続き、個別分野でサポートをお願いします」
佐伯は、紙を見て無言だった。
でも、その肩は微妙に強張っていた。
私が自席で書類をまとめていると、ふと背後から声がした。
「……私も、必要だと思われてるんだよね、これでも」
「えっ♡ そんなぁ♡」
私は振り返って、にこりと微笑む。
「“補助”って、“必要”とは違いますよぉ♡ 勘違いされてませんかぁ?♡」
「……」
佐伯の顔が、ふっと曇った。
でも私は、そのまま背を向けた。
プロジェクトは動き出したばかり。




