第26話 リーダーとは
「やっぱリーダーって“みんなを引っ張る存在”でしょ?」
また佐伯詩織が言い出した。
LUCENTの新CM企画の打合せ。今日の議題は、各メンバーのイメージと展開方針の擦り合わせ。私はホワイトボードの前で説明していたのだが、佐伯は“妙に”割り込んでくる。
「みんなが黙ってるときに、バーンって空気を変えられるのがリーダーっていうか〜。そういうカリスマって、なんか成瀬くんにも必要じゃないですか?」
隣にいた成瀬が笑顔のまま首をかしげる。
「え、それ俺、ちゃんとやってないってこと?」
「いやいや、そういう意味じゃなくて〜……。あのさ、最近“静かで冷静”なキャラになりすぎてるっていうか〜。もっと前出てもよくない? 」
その場にいた全員の空気が一瞬、氷点下になった。
私は、笑顔を浮かべたままホワイトボードのペンを置いた。
「“静か”と“指示が通ってる”の区別がつかないと、現場つらいですよねぇ♡」
佐伯は少しむっとした顔で腕を組む。
「いや、でも、リーダーって“前に立つ”ものでしょ? 黒宮さんは“仕切る人”だけど、それとは違うっていうか」
佐伯が舌打ち気味に言ったが、完全に無視された。
すると今度は霧島が口を開く。
「成瀬、今日めっちゃ真面目だな」
「たまには言うよ。ていうか、俺思うんだけど――“リーダーだからこう”って誰が決めたの? 俺は、俺のリーダー像でいいと思ってる」
「っ……!」
佐伯が何か言いかけて止まる。
「てか、黒宮さんが前に出てたら、私の立場なくなるんですけど」
そう言った佐伯に、私はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫ですよぉ♡ 立場なんて、誰も見てないですから♡」
□
打合せが終わったあと、メンバーが散っていくなか、成瀬が私の隣に座った。
「……俺さ、正直“リーダーって何だよ”ってずっと思ってた」
「それで?」
「でも、今日ちょっとわかった。“誰の顔色を見るか”が大事なんだなって」
私は手元のスケジュール表から目を離さずに言った。
「メンバーの?」
「ちがう。黒宮さんの」
私は少しだけ笑った。
立ち上がった成瀬の背中は、いつもより少しだけ“自信”をまとっていた。




