表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした  作者: 雨宮 叶月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/46

第16話 メンバー② 優しさは使い放題の消耗品じゃない

合宿2日目の朝。

食堂の片隅で、私はスケジュール帳を開きながら、牛乳を静かに飲んでいた。


「ねぇ、颯真ってさ、なんであんなに人の話にちゃんと相槌うてるの? 人徳? 仏?」


隣のテーブルで、佐伯が“いい意味のつもり”で発言したのは明らかだった。

けれどその視線は、どこか試すようで、甘えているようでもあった。


望月颯真はパンをくわえたまま、苦笑いをひとつ。


「えっと……癖? 聞いてるよって、伝わる方が場がやわらかくなるからさ」


「それって気遣いのプロって感じ〜。私、逆に“そういうの重い”って言われるタイプなんだよね。思ったこと言うだけなのに」


「うん……でも、佐伯さんのそういうストレートなとこ、元気になる人も多いんじゃない?」


曖昧な返し。

颯真のこういうところが、好感度おばけと言われる所だ。


けれど私は知っている。

彼がどれだけ“優しさ”を意識的に選びとっているか。

そして、それが“無限に湧き出る資源”ではないことも。


「佐伯さん♡ 望月くんに“なんでも受け止めてくれる係”押しつけてるように聞こえますぅ♡」


「え? そんなつもりじゃ……。でも、マネもさ、そういうとこあるよね? 無表情で何言ってるかわかんないけど、言い返さない感じっていうか」


私はにこりと笑った。“わかっててやってる”とバレない程度の、無機質な笑顔。


「“言い返さない”と“言わないで済ませる”は別ですよぉ♡」



彼女は無言で席を立った。

颯真はパンの耳をちぎっていた。


「……優しさって、消耗するよね」


ぽつりとつぶやいたその言葉に、私は手帳を閉じた。


「望月さんのその“疲れた顔をしない努力”、いつか誰かが甘えすぎますよ」


「もうしてるよ、たぶん」


「でも、あなたは“黙ってる”って選択をする」


「だって、そういう役回りって、誰かがやんなきゃでしょ?」


彼はそう言って、私にだけ見せる少し乾いた笑顔を浮かべた。

私はその表情に、少しだけ眉を寄せる。


彼の“疲れてるのに気づかせない”スキルは、天性じゃなく、積み重ねの結晶だ。

だからこそ、私は余計なフォローをしない。

ただ、記録しておく。彼の“限界ライン”を、誰よりも正確に。



夕方。レッスン後の個別インタビューの時間。

順番に呼び出されていくメンバーの中で、望月の番が終わったあと、佐伯がぽつりと言った。


「颯真ってさ、優しすぎて、逆に裏があるんじゃないかって思うときあるんだよね〜」


霧島が横で馬鹿にしたように笑った。


「逆じゃなくて、“優しさに裏打ちされた表情”しか出さないだけでしょ。お前とは真逆」


「ちょ、どゆこと?」


「お前は“正直に言えば正義”だと思ってるけど、あいつは“黙るのが思いやり”って分かってるタイプ」


「……なんか言い方キツくない?」


「お前のは雑なんだよ。言葉の濃度が」


私は横からひとこと。


「“正直”って、だいたい“雑な自己主張”と紙一重なんですよぉ♡」


「なんか今日2人してキレ味よすぎじゃない?」


「ナイフの角度が合っただけですぅ♡」



その夜、望月がタオルを干しながらぼそっと言った。


「黒宮さん、ありがとう。変にフォローしないでくれて」


「優しさを無駄に持ち上げられるの、苦手でしょう」


「うん、そう。“持ち上げ”って、プレッシャーに変わるから」


「あなたはもっと自由に甘えていいと思います。」


「……それを言う黒宮さんが、一番甘えられてなさそうだけどね」


私は小さく笑った。彼も、私と同じで、笑わない“優しさの演技”を使いこなす人間だ。


けれど、それはあまりにも脆くて、壊れやすい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ