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塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした  作者: 雨宮 叶月


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第12話 乾杯は戦いの始まり③

「てかさ〜、あたし、ぜんっぜん酔ってないから。」


誰も聞いてないのに、佐伯詩織がそう叫んだのは、乾杯からちょうど45分が経った頃だった。


すでにビールを2杯、レモンサワーを1杯開けた佐伯は、頬がほんのり赤い。しかしテンションは急上昇しており、口調はすでに「友達の友達の合コンで浮いてる人」状態だった。


「ほら、マネージャーさんとかって、飲みの場だと“空気”読まなきゃ〜みたいなのあるじゃないですか? でもあたし、そーゆーの苦手っていうか〜、媚びないんで!」


「……空気は“読む”もので、“破る”とは言ってませんけど」


朝倉が、静かにグラスを傾けながらつぶやく。


その横で私は、笑顔を崩さずに佐伯を見ていた。


「え〜♡ 佐伯さん、酔ってないのにあんなに素が出るなんて、すごいですねぇ♡」


「いや〜、あたし、裏表ないタイプなんで! ね! 黒宮さんも、そろそろ“裏”見せてもよくないですか〜?」


佐伯は体を乗り出して、黒宮の肩に手を置こうとするが――その瞬間、さっとナプキンを持ち上げ、すっと“偶然”のようにガードする。


「わぁ〜♡ こぼしちゃいそうでしたぁ♡」


「……っ。なにその防御」


私はにっこりと微笑んだまま、すぐに姿勢を戻した。


そのとき、天城が隣で小さくつぶやいた。


「……ボディタッチ避けるのが、暗殺者みたいにスムーズなんだけど……」


霧島が即座に返す。


「逆に怖ぇんだよ、あの無駄のなさが」


「てか、ぶっちゃけていいですか〜?」


佐伯は勢いよくしゃべり続ける。誰も止められない。いや、もはや止めようという気力が失せている。


「黒宮さんって、なんかこう……“できる風”って感じしますけど、意外とそうでもないんじゃないかな〜って♡」


その瞬間、空気が凍った。

佐伯はまったく気づかない。


「だって、今日の飲み会だって、なんか黒宮さんだけ“仕事感”抜けてないっていうか〜。“私は仕切ってます”みたいな雰囲気、ちょっと…ウケるよね。」


そのときだった。


私が、音もなく立ち上がり、氷水をついでから、戻る動作の中でごく自然に言った。


「……佐伯さん♡」


「は、はい?」


「“できる風”っておっしゃいましたけど、“風”ってことは、風速がありますよね♡

私、佐伯さんの“仕事風速”にはまだ一度も巻き込まれたことがないんですけど♡」


一瞬、時が止まった。


天城が口にしていた枝豆を落としかけ、霧島が炭酸水を吹きかけたようにむせた。


霧島は「ちょ……今のナチュラルすぎて怖い」

成瀬は「風速って言葉、あんなにえぐく使われたの初めて見た」


佐伯はぽかんと口を開けたまま、「え、え? 今の、どーいう意味……?」とだけ言った。


「え〜♡ あまりお気になさらずぅ♡ “理解できない皮肉”は、傷つきにくくて安心ですからぁ♡」


「なにその言い回しぃぃぃ!」


佐伯が酔いに任せて、言葉にならない悲鳴を上げる横で、朝倉がさらっと一言。


「これはもう……防御力ゼロの人が、フル装備のスナイパーに突撃したみたいなもんだね」


メンバーたちが静かにグラスを合わせたのは、その直後だった。


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