第11話 乾杯は戦いの始まり②
「詩織さんこそ、普段から“飲みの場”のテンションで動いてらっしゃいますもんねぇ〜♡ だから本番で落差が出ちゃうっていうか♡」
佐伯は一瞬固まったが、「うっわ〜、刺してきたぁ〜!」と笑ってごまかした。
その横で、成瀬がぽそっと言う。
「たぶんそれ、縫い針じゃなくて、投げナイフ」
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その後も、佐伯の暴走は止まらない。
「LUCENTってほんとイケメンぞろいですよね! 私、どの現場行っても“推し作らない主義”なんですけど〜、ここだけちょっと例外かも!」
「うわ、出たな……」
霧島が、から揚げをつまみながら小声で言う。
「“推し作らない”って言うやつが一番全員に媚びてくるんだよな……」
佐伯は笑顔をふりまきながら、隣に座っていた望月にグラスを差し出している。
「颯真くん、注いでくれる〜? あたし、あんまお酒強くないから、少なめで!」
「……あ、はい」
望月は一瞬困ったように私を見た。
私は静かにうなずく。もう“飲みの洗礼”は避けられない。
朝倉が、氷のグラスを回しながらぽそっと漏らす。
「黒宮さん、あれ、今が引き際じゃないですか?」
「いいえ、むしろ始まりです。」
そう、ここからが地獄の本番――佐伯詩織、酔っ払い編の幕開けだった。




