第10話 乾杯は戦いの始まり①
LUCENT、初の地上波ドラマレギュラー決定。
撮影前の顔合わせと称して、制作陣・マネージャー陣・キャストの軽い飲み会が開かれることになった。
個室居酒屋。
落ち着いた照明とジャズ風BGMが流れるなか、次々と人が集まり、席が埋まっていく。
「いや~、このドラマの脚本、マジでいいよね! 楽しみ!」
「最近、LUCENTの人気すごいもんなぁ」
そんな声が交わされる中、いつも通りメンバーの様子と相手の機嫌を観察しながら、静かに着席していた。
そしてそこに――
「おっつかれさまです。 佐伯詩織でーす! 今日はたくさん飲んじゃうぞ〜!」
新人マネージャー候補。なぜかLUCENTの打ち上げにも当然のように現れる。
「ちょっとぉ〜、詩織ちゃん、そっち座って座って〜! おじさんたちのアイドルだよ〜!」
「えぇ〜!じゃあ遠慮なく!」
私は最も安全とされる「壁際席」を確保していたが、佐伯は堂々とテーブルの中央・火力MAXな位置に着陸した。
やがて、全員が揃い、乾杯の声がかかる。
「じゃ、今日はよろしくお願いしまーす! かんぱーい!」
グラスがぶつかり、宴が始まった。
□
佐伯は序盤から飛ばしていた。
「えっ、霧島さんってお酒飲めるんですか? 意外〜! もっと理系っぽいっていうか、飲み会とか興味なさそうな感じで」
「…はは、まあ、嫌いではないです」
「黒宮さんは〜? どうせ一滴も飲まなそう! なんか“水しか飲まないで生きてます”って感じしません?」
私が無言で氷の入ったグラスを傾けると、佐伯が勝手にテンションを上げた。
「あっ、マジで水じゃん! やばっ、当てちゃった私〜! 勘、鋭いタイプなんですよね〜!」
天城が横目で私を見る。
「これは…面倒なやつが、また始まったな」という表情。
「マネージャーさんって、普段から全然しゃべんないじゃないですか? でも飲みの場くらい、ちょっと崩してみたらどうです〜?」
「……じゃあ、崩してみましょうか♡」
私はゆっくりと顔を上げて、完璧な笑顔を浮かべた。




