部活 西国分寺 昴(すばる) 視点
高校に入ったら、野球はやめる!
だから、わたしは野球部のない都立高校を選んだ。
小中と、リトルとシニアで野球をやってたけど、もう限界かなと
思ったから。
お父さんが、高校の野球部の監督してて、そのせいか、わたしも小さい頃から
野球で遊んでた。
リトルリーグでわたしが活躍する度に喜んでくれたお父さん。
だから、わたしは頑張った。
毎日毎日練習して、中学になった時、エースで4番になったよ。
嬉しかった。
お父さんの喜ぶ姿が見たくて、頑張ってきたんだ……
でも、そのお父さんは……もう……
あんなにカッコ良かったお父さん……
あー、この流れだとお父さん死んじゃったみたいに聞こえるけど、
死んでないよ。
中学生ともなると、親がかっこ悪く見えてきてね。
わたしはパパっ子だっただけに、反動なのかな?
太っちゃったお父さんが、違う! これじゃない! って、
お父さんを見る度に思った。
こんなのお父さんじゃない!
中2の3学期に発症したこれは、中3になっても続いてた。
あんなに好きだった野球も、受験があるからってやらなくなっていった。
そういう訳で、野球部のない都立高校を選んだ。
なのに!
どうして、こうなった!?
硬式女子野球部? 同好会だけど。
入っちゃってるし。
マネージャー?
選手じゃないからOK?
いやいやいや、バッセンで球打ってるし! ストラックアウトまでしてるよ!
マネージャーって打ったりしたっけ?
練習補助とかはすると思うけど、ストラックアウトとかはしないよね……
自己嫌悪的な感情が頭をよぎるんだけど、なんというか、どうでもよくなってるというか……
わたしの事なんかより、部員だよ。なんなのこの子達?
もう、出会った時から変だった。
わたしが、小金井沙有珠って子に、部員のみんなを紹介された時
あのこ、なんて言ったと思う?
「あたしのお嫁さんを紹介しよう!」
って、言ったの。
は?
って、思わず言っちゃったよ。
「あたしの隣りにいるのが、北原 翔玲乃ちゃんだ。
あたしは、トレノちゃんって呼んでる」
「トレノです。よろしくね」
すっごく可愛い女の子が、あたしに挨拶してくれたので、わたしも挨拶を返した。
「西国分寺 昴です。よろしくお願いします」
「4文字の名字って長いね」
返ってきた返事がこれだ。
確かに長いとは思うけど、言われたのは初めてだ。
「にしこくさんでいいかな?
それとも、すばるちゃん?」
うーん……
にしこくさんかぁ。
こんな可愛い女の子にそう呼ばれると、わたしも可愛くなった気がするから不思議だ。
ふむ。
下の名前呼びは、さすがになぁ。
小金井さんのお嫁さんらしいし……
「にしこくで」
わたしは照れながらそう答えた。
「わたしの事は、トレノって呼んでね」
下の名前呼びだ! 小金井さんを見ながら、いいのかな? なんて思ったけど
ふたりとも気にした様子もないから、いいみたいだ。
だから、わたしはこくりと頷いた。
「それでね、スペックなんだけど、トレノちゃんは、
右投げ右打ちで、ポジションはキャッチャーなんだ」
「だから、あたしのお嫁さん」
そういいながら、小金井さんは、トレノさんの肩を抱き寄せた!
きゃー
わたしは心の中で叫んでた。
気のせいか、トレノさんの顔が少し赤い様な……
やっぱり、このふたり……
「もしかしたら、知らないかもしれないから、一応言っておくと、
ピッチャーの女房……今どき、女房なんて言わないと思うけど、
昔から野球では、キャッチャーはピッチャーの女房役って言われてるんだ」
うん、知ってた。
知ってたけど、なんていうか……
はまり過ぎでは?
なんて思ってしまうのは、わたしの心が捗り過ぎているからか……
「さて、二人めのお嫁さんを紹介しよう!」
は?
ふたりめ?
小金井さんが、ぶっこんできた!
「こっちの隣りにいるのが、大泉 雷凌ちゃん。
あたしは、レビンちゃんって呼んでる」
「雷凌だよ。よろしくね」
はぁ、こっちも可愛いな。
トレノさんに似ている気もするけど、名字が違うし、姉妹じゃないよね?
「西国分寺 昴です。よろしくお願いします」
「わたしも、にしこくさんって呼んでいい?」
「はい、いいですよ。
みなさんも、にしこくって呼んでください」
即答だった。
もうここでは、わたしは、にしこくで行く!
下の名前呼びは、やばい気がするし。
「おーそっかー
すばるちゃんって呼ぼうかと思ってたんだけどなー」
こんな事を言ってくるのは、小金井さんだ。
だめだだめだ!
あなたにだけは下の名前を呼ばせてはいけない!
わたしの本能がささやいてる!
「いえ、にしこくでお願いします」
きっぱりと言った。
じゃないと、わたしもお嫁さんにされてしまう気がしたからね。
「残念だけど、仕方ないかー
それで、レビンちゃんのスペックはね、右投げ右打ち。
もちろん、ポジションはキャッチャーだ」
そういいながら、小金井さんは、レビンさんの肩を抱き寄せちゃう!
きゃー
わたしはまたしても、心の中で叫んでた。
気のせいじゃなく、レビンさんの顔が少し赤い……
うーん、なんなのこの子達。
「それじゃー最後に、3人めのお嫁さんを紹介するね」
マジか……
わたしは目を見開き、口をあんぐりと開けていたかもしれない。
「ヤムちゃん、こっちに来て」
小金井さんの後ろにいた子が、前に出てきた。
「この子は、南沢 夜夢ちゃん。
あたしは、ヤムちゃんって呼んでるけど、ヤムチャとか呼ぶ人もいるよ」
「夜夢です。よろしくね。
ヤムちゃんでも、ヤムチャでも好きな方で呼んでいいから」
あれれ、この子も似ている気が……
3姉妹じゃないよね?
名字違うしなぁ。
なんて考えてたら、反応が遅れてしまった。
「にしこくです。
よろしくお願いします」
3人目だから、フルネームを端折ったら、会話が続かなくなった。
一呼吸おいて、小金井さんが会話を繋いでくれた。
「ヤムちゃんのスペックは、右投げ右打ち。
ポジションはキャッチャーだよ」
わたしはじっと見ていたんだけど、小金井さんは何もしなかった。
あれ?
ここはハグする所なんじゃないの?
ヤムさんも明らかに待ってるし!
どうして?
なんて思ってたら、
「あたしの両手はふさがっちゃってるからね。
ヤムちゃんは、また今度」
そういえば、ずっと肩を抱き寄せたままだ!
「えー! ずるいー!
とか言いながら、ヤムさんは、小金井さんの後ろにまわって
自分からハグしてた」
ぶはっ!
心の中でわたしは鼻血を吹いた。
とんでもない部活に入ってしまったのでは?
と、思ったのだが、みんな可愛いし、見てるだけなら、ありよりのあり!
うーん、硬式女子野球部のマネージャーってなにをするのかな?
とか考え始めたら、恥ずかしくなった。
とまぁ、出会いがこんな感じなのよ。
でも、わたしがおかしいって思ってるのは、別の事なの。
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