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6、江戸時代へタイムスリップ

麻雀していると途中で不思議な体験をした菊池はいつしか眠ってしまったような感覚に陥る。そのなかで江戸時代にタイムスリップして松平忠直と会うことになる。忠直はどんなことを菊池に語り掛けたのか。そして菊池はどう思ったのか。乞うご期待。

菊池の頭の中が真っ白い世界を描き、その中に大分県の浄土寺に保管されている忠直公の絵にそっくりな人物が座っている。歴史教科書に載っている杉田玄白に似ていると言えばそんな感じもする。菊池は恐る恐る脳内の忠直公らしき人物に小さな声で

「あなたは忠直公ですか。」

と問いかけてみた。するとその人物は菊池の方を睨みつけて

「いかにも、私は越前藩2代目藩主松平忠直である。」

とお答えになった。菊池は自分が置かれた状況を理解できないまま、夢に違いないと半信半疑のまま、松平慶民と話したことを思い出し、せっかく忠直に会えたんだからこの機を逃すまいと意を決して

「忠直公、幕府の裁定で大分に流されることになってしまいましたが、そのお裁きについて  どうお考えですか。」

と単刀直入に聞いてみた。すると脳内の忠直はうつむき加減にぽつぽつと話し始めた。

「ただただ、口惜しい。確かに体調不良で参勤交代を途中で引き返し、越前に帰ってしまったことはあった。しかし、むやみに家臣を傷つけたなどというのは家臣たちの陰謀である。」と一連の疑いを否定した。すると真っ白い世界がだんだん霧が晴れて場所がはっきりしてきた。越前北の庄城である。福井と呼ばれるようになったのは3代目の忠昌の時代からであり、それまでは北の庄と呼ばれていた。厠に行った忠直が外でひそひそ話をする家臣の声を立ち聞きするシーンである。菊池が「忠直卿行状記」で描いた場面である。家臣が

「近頃の若殿はめっきり力をつけたので、わざと負けるにも苦労するようになった。」

「そうだな、以前の殿は力も弱く打ち込んで来られても簡単にかわせたものを、お力をつけられたものだ。」

2人の家臣が話す会話を聞いて忠直が今まではわざと負けていたのかと気が付くシーンである。自分は実力があり、家臣たちとの剣道の稽古で全勝であったが、家臣たちが忖度してわざと負けていたことを知った忠直はわざと負けていたことを話していた家臣と真剣での勝負に挑む。その家臣は話を聞かれたことに気づき、忠直との真剣勝負にわざと敗れ死んでしまう。

しかし、その時情景が変わり、北の庄城下の家臣のものと思われる屋敷の場面に変わった。屋敷の庭には頭に鉢巻をして体にはたすき掛けをして手には刀を持っている武士たちが20人ほどいる。屋敷の主人と思われる武士が集まった武士たちに演説している。

「よいか、小林一門の横暴を許すではないぞ。わが越前藩は我々田辺一門が結城家の時代からおささえしてきた歴史がある。田辺家の顔に泥を塗るような行為を許していたのでは面目が立たない。今日こそは小林家に目にもの見せてやる。」

と全員に発破をかけると、全員で時の声を上げて一斉に門から飛び出していった。菊池は越前騒動の場面だとわかった。越前松平藩は松平秀康が結城秀康として関東の結城家の藩主をしていたころからの家臣を多くつれて越前に入ったが、68万石という大所帯なので幕府から付家老を含め多くの家臣をあてがわれていた。また、関ケ原の乱のときには武芸に覚えのある家臣を多く召し抱えたこともあって、藩内はいくつかの家臣の派閥ができていてそれぞれに力を競い合っていたのである。緊迫した様子を見ていた菊池は

「この状況では若い忠直は藩主といえども何もできそうにないな。」

と直感的に感じた。藩主のために働くのではなく、藩主はお飾りでそれぞれの派閥のために働くことが第1になってしまっているのである。菊池が忠直のことを思い出すと再び白い霧が立ち込め、中央に白装束の忠直が現れた。菊池は忠直に

「家臣は忠義を尽くしてくれているんですか。」

と聞いてみた。すると白装束の忠直は

「表向きは忠義を尽くしてくれています。しかし、本音は私の言うことなど返事はすれど、努力はしてくれない。先日も城の濠に水を引くために芝原用水の土木工事をしていると、計画よりも遅れているので急がせるように家老に申し付けたが、『急いでいるが人手が集まらない』の一点張りで遅々として進まない状況が続いている。私は家臣たちのはかりごとで乱心と決めつけられてしまったが、決してそんなことはなかったのだ。特に幕府から来た付家老とともにやってきた家臣たちにとっては私は邪魔者になっていたのである。事あるごとに高田藩に赴任した弟の忠昌と比較して私をイライラさせてきた。父の代で幕府から頂いた家臣たちはやはり幕府に戻りたかったのだろうか。いや、江戸から派遣された時から越前松平藩を縮小化させる目的があって入ってきたのではないか、そう思われてならない。」菊池の頭の中で松平忠直はとても悔しそうにしていた。そのまま忠直は菊池の頭の中の白い煙の中に消えていった。


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